第3話 禁断の・・・・

俺は再度助走をつけて再生した右拳をふたたび

奴の眉間に叩きこ・・・・・・・と

見せかけて奴の寸前で見えない壁を

避けて背後に回り込み羽交い絞めにした。


思った通りだ見えない壁は正面にしかなく

背中は全くの無防備だった。


虚を突かれて奴は動揺しながら俺から

逃れようと飛んだり跳ねたりしたが

もう離しはしない。


吸血鬼ヴァンパイアには、うら若き乙女の血が最高の活力源だが

それ以外の血を飲めないわけではない。

ただなんにでもグレード"等級"というものはある。


若き乙女の血が最高級とすると

男性の物はランク外に値する。


妙に淡白で渋かったり、逆に油濃かったり

あえて飲む者はいないのだが

吸血という行為をするために仕方なく

男性に食らいつくことがある。


吸血鬼に血を吸われると

吸血された者は吸血鬼になってしまうと、これもただの迷信だ。


どんなことをしたらひとつの生物がほかの生物に

変わってしまうなんてことがあるのか?

吸血鬼ヴァンパイア伝説というものが

如何にいかがわしいものであるかの証明でもあろう。


吸血とは正に血を吸う行為だが

それと同時に相手の体内にいろいろな

物質(あとでわかったが酵素)を注ぎ込む処置もするのである。


血液を精製(造血)する。

血液は栄養たっぷりだが不純物や毒素も含まれている。

より良いを育てる為にも健康作りは大切なのだ。

次回の献血までに清浄され造血酵素も注入されるので、臓器の負担も軽減される。

吸血された者は不死になると言われるのも、こういった要因で長寿で健康な一生を送れるのだ。


麻酔効果

首もとにガブリと牙を立てるのだ。

通常なら大変な痛みを伴うが、痛覚他の刺激への反応をなくしたり

場合によっては一時的な昏睡に陥らせたりすることができる。

もちろん蚊に刺された時のように痒くなったりはしない。


快楽作用

なぜ吸血された者が再度自から

身を捧げようとするのかはこれが理由である。


一種の麻薬のように今まで味わったことのない

陶酔感やエクスタシーを感じさせることができる。


どの国のどんな身分の御婦人も、どんなに気丈に振舞おうとしても

吸血鬼のまえでは、猫にまたたびを与えたように、自我を保つことができず

官能の世界へ溶け込んでしまう。


だから一度その快感を味わってしまうと

吸血を何度でも求めてしまうのだ。


ただしこれは相手が御婦人ならいいが・・・・・・


叔父ヴァンパイアは若い頃、小国の姫に手を出そうとして

間違って年増の侍従を吸血してしまい

しばらく追い回された苦い経験があるらしいが。

叔母ヴァンパイアによるとそんなことはしょっちゅうあって

なぜか相手が老人や羊?の時があったそうだ。


味だけでなくこういった理由から

男性を相手にはしないのだ。が・・・


こいつをおとなしくさせるには、もうこの方法しかない。

最悪失血死させてしまう事も出来るが

こんな訳もわからない魔術のようなものを使う者の血を

大量に飲みたくはない。


"魔術?・・・まさかこいつ"


相変わらず暴れまくる殺人鬼を

やっとレンガの壁に押し付けて吸血の準備が整った。

心の整理は出来た。

よし吸うぞ!


"あっしまった!"


壊さないように

ズボンの背中に挟んでおいた。

マリアから貰ったジャポンのUTIWAうちわ

暴れ回っているうちに、いつの間にか落ちているのに気が付いた。


マリアは普段人からプレゼントは貰うが、あげたことは家族以外は初めてだろう。

そんな大切な贈り物を壊したり無くしたりしたら

俺の愛を疑って、さすがに逢瀬を重ねることはできなくなってしまう。


「クソッ 暴れるな”ジャポン”のUTIWAを踏んでしまうだろ」

なんとかUTIWAを守ろうとそう口走った瞬間。

「ジャポン?・・・・」

奴がUTIWAうちわに気が付いてそう呟いた。


"バッ"

突然耳元で激しい風の音がし、目の前が真っ暗になり

深淵の世界へ落ちていく感覚がした。

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