第10話 諸悪の根源と最後の作戦




「――一度ニナは殺されている」

「え?」

 マリーナさんは静かに説明を始めた。

「突入部隊に胸から上を吹き飛ばされたが、即座に修復し、絶叫しながら悪魔をより産み始めた――とある。だからニナの所には近づけない」

「んぐー……」

「後、君がアークと呼ばれている場所に悪魔が近づけないのはミゲルから貰った結晶のデータをもとに作成した建物だからだ、アレは悪魔を寄せ付けない」

「……ん? つまりもしかして」

「ああ、悪魔も私には近づけない、近づけば向こうから逃げるか消滅する」

「……マリーナさん、ニナさんをどうしたいですか?」

「正直悪魔の件だけはどうにかしたい、他はもうどうでもいいから私に関わって欲しくないというか私はアレに二度と会いたくない」

「あ゛――」

 マリーナさんの気持ちもわからなくはない。

 私もそんな気色悪い行動をする妹なんかがいたら逃げ出して関わらないようにする。

「現状研究成果的にはどうなってるんですか?」

「そうだな、君はもし、服に大量の穴が開いたらどうする?」

「……流石に捨てますね」

「その状況だ」

「はい?」

「アークにだけ乗る事が許されている人材を乗せて、地球を捨てようという計画になっている。アークの中には悪魔は現れないからな」

「ちょ……!? それじゃあ地球の――」

「巨大なアークは完成しているが、性質上乗れない人材がいる、例えば罪人とかだな、仕方なくではなく、故意に行った連中は載ることができない。贖罪をした連中は乗れるが……」

「……だから……『箱舟アーク』なんですねこの建物は……」

「ああ、そういう事だ。罪人が乗る事の許されない箱舟――」

 マリーナさんの言葉に、私はなんとも言えない表情を浮かべる。

「優月、君の元家族はアークに乗ろうとしたが拒否された存在だ、現状地球に残るしかない」

「……」

 私の事を虐げていたが、これに関しては気分は良くない。

 悪魔に殺されろとかは思わない、せいぜい痛い目を見ろ程度だ。


「君は優しいから、そこまで思わないだろうが、連中は犯罪行為を繰り返しすでに刑務所行きだ、もうどうにもならん」

「あ゛──……」

 堕ちるところまで堕ちた元家族達に、私は何も言うことができなかった。


「優月、会ってみるか?」


 ディランさんの言葉に、私は頷いた。

 改心する余地が本当にないのか調べるために。





「優月?! おお、お父さんだよ!! 頼むここから出してくれ!! お前が身元引受人になってくれたら出ることができるんだ!!」

 前言撤回。

 改心の余地ねーわ。

「謝罪も無しに、それですか。期待した私が馬鹿だったわ」

 私はそう言ってディランさんを見る。

「もういいです」

「分かった、連れて行ってくれ」

 ディランさんがそう言うと父だった男は連れて行かれた。

 私を罵倒していた、謝罪は無かった。



 他の連中も同様だった。

 許す気も起きなくなる程の頭の花畑具合に私はげんなりして、アークへと戻った。



「優月、大丈夫か?」

「少々大丈夫じゃないです……なんでお母さんはあんな男と結婚したのか……」

 ソファーにぐったりと横になる。

「……政略結婚という奴だ、向こうの祖父母がえらく君の母を気に入り君の父の会社の投資を条件にと」

「うわー……つまり、後妻は?」

「祖父母が結婚を認めなかったそうだ、家を傾けるからとな」

 知りたくなかった大人の都合というものと、母に目をかけるとは父の祖父母の目は確かだが、そんな方法で母を結婚させてほしくなかった。

「母に恋人はいたんですか?」

「いや、いなかったそうだ」

「……それだけが救いですね」

「君は祖父母に会ったことがあるのか?」

 ディランさんに聞かれて少し思い出す。

「ええ、一応。幼少時にあって、その後まもなく両方とも亡くなったので、そしてその後母が亡くなって、まぁあんな感じに」

「……すまない、本当にもっと早く助け出すべきだった」

 ディランさんの謝罪に私は首を振る。

「いいんですよ、今こうしてディランさんが一緒にいてくれるから」

「優月……」

 ディランさんが私の手を握ってくれた。

 それに少しだけ救われた。


「ねぇ、母さん、僕は?」


 ひょこっと顔を出してきたテルセロ君の頭を撫でて私は言う。

「テルセロ君も、ありがとう」

「えへへ……」


 そんなやりとりをしていると、二人の通信機に通信が入った。

 どんな内容かは分からないが、二人の表情が厳しい。


「優月、帰ってくるまで待っていてくれ」

「母さん、待っててね。帰ってくるからちゃんと」

「うん、分かった」


 私はそう言って二人を見送る。





 二人との今生の別れではないけれども、ある別れを意味するなど、私は知るよしも無かった。





「悪魔の数がもう対処しきれない限度に達した」

 上層部はそう言った。

「ちょっと待ってください、じゃあ……」

「ああ、全てのアークを起動させる」

「地球を見捨てるのですか!?」

「人類がいる限り悪魔は地球に現れる、アークの中だけ現れないだから、悪魔へ対処できる数になるまで地球から離れるのだ」

「「……」」

「だが、その前にやることがある」

 マリーナが口を開いた。

「悪魔を生み出す女の息の根を止める方法が見つかった」

「本当か?!」

「ああ、だが悪魔はそれでも現れ続ける」

「……分かった、その作戦を実行するのは」

「実行できるのはディランとテルセロの二名だけだ。他は対応できない」

「わかった、両名できるな?」

「ああ、やってみせよう」

「できるさ」

 ディランとテルセロははっきりと言い切った。





「ただいま」

「母さんただいまー!」

 ディランさんとテルセロ君が帰ってきて私に抱きついてきた。

「ちょ、どうしたの?」

「……俺達が近日行う任務を遂行した後、アークは全て地球を離れる」

「え?」

 ディランさんの言葉に耳を疑う。

「すでに民間人も乗れる者は乗り込んでいる、だがその前にマリーナがやるべきことがあると言っていた」

「……もしかしてニナを?」

「そうだ、奴を殺す。そうすれば悪魔の数が徐々に減っていくだろうその間アークで地球を少し離れて、悪魔の出現の研究を進めればいい、という話になった」

「……ディランさん、テルセロ君」

「なんだ?」

「どうしたの母さん」

「必ず二人共戻ってくること、約束して」

「分かっている」

「分かってるよ母さん」

 二人を信頼している。

 けれども、少し思うのはこの二人がどうにか対応しても、悪魔の数が減るまでもうどうにもできないところに来てしまっているこの世界にも──


 いや、私達にも原因があるんじゃないかと思ってしまった──






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