第40話 ひきこもり、餌付けをする
俺はエルフのクララと一緒に雑貨店に行きたかったが、彼女の様子を見てそれは出来そうにないと諦めた。
「何か食べ物を買ってくるので、そこで隠れて待っていてくれ」
そう彼女に伝えて、独りで雑貨店までいく事に決めた。道すがら往復はきついよと、泣きそうになって走り続けたのは言うまでもない。
飲み物とパンを籠に入れたとき、あることにふと気が付いてしまう。クララをあの姿のまま移動させることは出来ない……。俺は店内を見回したが、衣服は下着ぐらいしか見あたらなかった。そういえば店の前に、学校指定の登りがあったのを思い出した。
「体操着のジャージの上下をつけてくれ。友人に頼まれていたんだ」
レジで精算するとき、取って付けたような言葉を伝える。
店主は少し疑問を感じたようだが、何も言わずに店の奥にジャージを取りに行く。俺はぞれを受け取り店から出た。別に悪いことはしていないが、背中にびっしょり汗を掻いてしまう。買い物を済ませたので、また元来た道をせっせと走って戻る。部屋に引きこもってから一番運動した一日になりそうだ……。
鎮守の森に戻ると、藪の中からクララがよろよろと出てきた。
「食べ物を買ってきたぞ」
そう言って、パンの入ったレジ袋を彼女に手渡した。クララは目を輝かせ、袋の中の菓子パンをわしづかみにし、猛烈な勢いで食べ始めた。こんな食事をがっつくエルフは見たくなかったなと思いつつ、彼女の今までの境遇が
「ゴフゴフ」
クララはパンを喉に詰めたのか、胸を何度も叩く。俺は彼女に水の入ったペットボトルを手渡してあげた。しかし、彼女はそのペットボトルを受け取ったにも関わらず飲まなかった……。ペットボトルを上下に振ったり、手で叩いたりしている。
俺はそれを見てはたと気づき、ペットボトルのキャップを回して開ける。それを見た彼女は、俺の手から引きちぎるようにペットボトルをつかみ取り、ゴクゴクと水を飲み干した。
「死ぬかと思いました!」
そう言って、クララは俺に笑顔を向けた。
「急いで食うからだ」
俺はあきれたような顔をして言った。
クララの食事が一段落したのを見計らい、緑のジャージを手渡した。彼女は服を受け取ると、初めて自分が見られているのに気が付いたのか、顔を真っ赤にして狼狽した。
着替え終わり、緑のジャージ姿の金髪エルフを見て、俺は吹き出してしまう。
「何か私の顔についているの」
冷ややかな視線が、俺を射抜く。
「いや、この世界ではエルフなんて、物語でしか存在しないのよ。人間と違い、尖った耳がエルフを象徴しているんだが、本物のエルフも同じだと思って見とれてしまった」
俺は出来るだけ真面目な顔を作って答える。
「ふーん」
クララは興味が無さそうにそう言って、耳をピコピコと動かした。
「あっ! その耳じゃあ髪の毛で隠しきれないよな」
俺は暫し考え、鞄からタオルを取り出し、耳を隠すように彼女の頭にタオルを巻く。
すると、緑ジャージ姿で頭にタオルを巻いた、完全に怪しい外国人に仕上がっていた――
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