第17話 魔王城

「む、無念……魔王様……勇者の首を捧げようとしましたが、あと一歩の所でそれが叶わず申し訳ありませんでした……勇者に呪いを……」


 息も絶え絶えになったドラゴンが、怨嗟の声を発する。


 僕が最後に打ち込んだシューテイング☆スターがギリギリで決まり、最後の四天王ギレンの身体を切り裂いていた。


「こいつ、あれだけの攻撃を受けたというのに、まだ生きているのか」


 そう言って、聖騎士のクリスタルが、ギレンの首を落とした。


「流石勇者様です。一歩間違えれば、私たちの方が、全滅していたでしょう」


 神官のシシリアが最後まで戦って、地面に伏した勇者ギレンに祈りを捧げた。


「魔人に祈りを捧げてどうするの!」


 エルフのソフィアが、口をとがらせ文句を言う。


 僕たちは魔王の迷宮を守護していた、四天王の最後の一人ギレンを倒し、魔王城に続く回廊に到着した。


「勇者様、ようやく魔王城までは、目と鼻の先というところまで辿り着くことが出来ましたわ」


 神官のシシリアが感慨深げにいった。


「皆さんの協力で、この迷宮を抜け出せたことに誇りを感じます」


「いつも堅苦しい挨拶は、よせと言ってるだろ」


 クリスタルは冗談めかした口調で勇者に突っ込むと、それに釣られた三人が声を出して笑う。


 僕たちは守護者の居なくなった回廊を無事に通り抜け、数日振りの太陽の光を全身に浴びる。そこで魔王の迷宮を漸く攻略したことを実感した。


 初めて見た魔王城は伝え聞いていたものとは、全く異なった建築物であった。その建物は、城と言うより二階建ての木造作りの洋館に近い豪邸であった。その建物の周りは、大きな特徴として高い石垣で取り囲まれていて、鉄柵の門扉で出入り口がしっかりと閉じられていた。


 僕たちは感慨深げに魔王城を見上げ、この城をどう攻略するか話し合うことにした。すると門扉が突然音もなく開かれ、一人の魔人が現れた。


「勇者の一行とお見受けするが、当家に何かご用でもありますかな」


 身長は優に三メートルを超え、額からは山羊のような大きな角が生えた褐色の魔人が尋ねる。


「僕は勇者、サガワと申します。魔王と戦うためにここに参りました」


「そうですか……我と戦うためにここまで辿り着きましたか。この場所で一戦するのはやぶさかではない。ただ、ここに来た目的は、私を葬り去るためだけではないだろう」


「はい、ここには僕が帰還出来る、移転方法を魔王が知っていると聞いていたからです」


「確かに移転方法は知っておる。ただし我と戦えば勇者は、この地で一生過ごす覚悟で良いのかな」


「勇者様っ! だ、騙されてはいけませんわ!」


 シシリアが慌てて口を挟む。


「すまないが、お嬢様は横から口を出さないで欲しい。勇者よ、我々魔人は討ち取られた後、魔石を残すことは知っているであろう。我の魔石が帰還に必要なアイテムだと教えよう。ただし。ここで戦えば我の方が敗北するだろうが、十分の魔石は決して残りはせぬ」


「なぜですか?」


「魔石とは魔人の力を凝縮した結晶だ。だから力を使えば使うほど、その大きさや質は衰えていくのが必定。そこで我の提案を飲めば差しだそう。つまり我は戦わず自死を選ぶと言うことだ」


 それを聞いた勇者たちは、一斉にざわめきだった。


「それなら条件を教えて欲しい」


「では、二人だけで話そうぞ」


 勇者の答えに、魔王は満足げにうなずく。


「おいおい、そんな見え透いた罠に乗るわけないだろう」


 クリスタルが怪訝な表情を浮かべながら、魔王に向かって疑問の声を上げる。


「そうです! 必ず騙し討ちに遭います」


 ソフィアが声を張り上げて猛反対する。


「負けるといっても、勇者以外は十分葬り去る自信はあるが、我としてはこの提案が蹴られたとして問題はない」


「魔王の提案に乗るよ」


 僕は拳に力を込めると、そう断言した。


「考え直して下さい、勇者様!」


 たまらずシシリアは、悲鳴のような声を上げる。


「みんな良く聞いて欲しい。もしこの提案が罠だとしても、僕はそう簡単には、やられたりしないよ。全力で抵抗するのでみんなが助けに来てくれるまで、十分頑張れるさ。それにサーチの魔法を発動しているけど、この建物内には力のある魔人は居ないので、ここで待っていて欲しい」


 勇者の言葉に、シシリアは泣き出しそうに顔をゆがめた。


「では、行ってくるね」


 それでも安心させようと、穏やかに微笑んで見せる。


 僕はたった一人、魔王城に招かれ門扉をくぐる――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る