計画の第4話

 床にたたきつけられるボールの音と、足音。鈍い音があらゆる方向から無数に響き渡る。


 クラスマッチ当日。


 僕は、計画を遂行しようと試みた。


 まあ、計画という計画ではないのだが、要するに僕が誰よりも目立ってしまおうと

いう作戦。


 三年前の『あの時』みたいな、悪い目立ち方ではなくて…。


 ダメだ! 思い出すな!


 慌てて制する。今のこの前向きな状態に水を差すような回想はやめよう。


 さて、そろそろ僕らの試合が始まる。


 種目はドッジボール。


 これなら肺活量と筋力の貧弱な僕でも、十分に活躍できるチャンスがある。飛んで

くるボールを集中してつかみ取り、警戒する相手に集中して当てる。


 投げるのには自信があった。小学校の時は町内の草野球チームに混ざって3年間プ

レーしてきた経験が、僕の自負となり、励みとなる。


 よっしゃこい!!


 10分後。


 ホイッスルが鳴り、試合が終わった。


 あれ。


 僕はこの10分間、ボールを掴み取ることはおろか、相手の標的にされることもな

く、ただただカカシのように突っ立って、そのまま試合を終えることとなった。






 ちょっと待てよ! と虚空に向かって突っ込みたい衝動に駆られるのをなんとか抑

えて、冷静に状況を把握しようと努力した。


 まあ、把握するも何も、もうわかりきっている。


 みんな、この日は僕になんか興味ない。


 普段の日常ならば、退屈な授業に敷き詰められた平坦なスケジュールによる退屈が

生まれ、僕を「いじる」(あくまで彼らの目線に立つために「いじめる」ではない)

ことがエンターテインメントとなるが、今日という日は授業という縛りから完全に解

放され、その時間をそのままお遊び感覚の球技に置き換えられるわけだ。


 クラスマッチという大きなイベントの前に、僕という一個人はあっという間に埋も

れてしまったわけだ。


 そうなってくると、もちろん僕なんかにボールをくれないし、当てに来ることもな

い。もしかすると、こういう楽しい企画には僕を参加させないという裏の目的が彼ら

にはあるのかもしれない。…自意識過剰だろうか。いや、上田達ならそう考えなくも

ない。


 とにかく、今の僕は完全に眼中になくなっている。このままでは僕の計画は台無し

だ。


 どうすれば…。


 熟考する僕の横に、男子が三人固まっていた。


 いや、正確には…。


 「へえ、お前あいつの心臓持ってんの? 今度俺に分けてよ」


 「え~やだよ。一個しか持ってないんだから。ゲットするの大変だったんだぜ」


 二人の男子が、国民的にも話題になっているゲームの話をしていた。


 その隣で、もう一人の男子が口を開く。


 「俺、三個持ってるから、あげようか」


 三個も持ってるのか。すごいな。僕もそのゲームをしたことがあるが、あの魔物を

倒すだけで苦労するのに、それを運よく三個もゲットするなんて…、うらやましい。


 「…」


 「…」


 なぜだろう。


 沈黙が続いた。


 「しょうがねえな。俺も一緒に手伝ってやるよ」


 「え! マジっ!? やった~」


 「じゃあ、今日帰ってからお前んち行くわ」


 「おけー」


 すると、男子たち二人は、ゆっくりと立ち上がり、これまた示し合わせたようにゆ

っくりと去っていった。


 不自然なスルー。露骨な無視だった。


 第三者から見てもよくわかるし、何より本人が一番痛感していただろう。僕も食ら

ったことがあるから、どんな気持ちかも手に取るようにわかる。


 段差に付けていた尻が少しだけ浮いて、二人を追いかけようとしている自分に気付

いた途端に、ゆっくりと再び尻を付ける瞬間に感じているだろう気持ちも。


 直後。


僕は、閃いた。


 今日という日が無くなればいいのに。学校なんて無くなればいいのに。


 いっそ、台無しにしてやればいい。


 何事もなかったかのように平静を装う彼は、少なからずそう思っているようだっ

た。無視した彼らではなく、もっと大きな、『学校』というものを台無しにしてやり

たいと言わんばかりの、憎しみに満ちた目をしていた。


 「僕もそのゲームやってて、あいつの心臓が手に入らないんだ」


 「えっ…」


 動揺する彼に、僕はなお話し続けた。

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