#.弱っている君が見たい

雨屋蛸介

1.発熱

 心臓がばくばく言っている。いつまでもいつまでも胸の辺りがどかどかやかましく、また全身がかっかと熱い。ちょっとばかし量が多かったかもしれない。いつものヒーローになったみたいな気持ちはどこにも無く、ただひたすらムカついて、それから足が震えてひっくり返っているしかなくなった。ああくそ、あいつ、次会ったら殺してやる。こんな状態の俺を放り出して、しかもお仲間を窓の外に置いて俺の様子を笑いながら観察するよう仕向けやがって。たまにバンバン窓を叩くし、真っ黒な顔が気持ち悪い。吐き気がする。

 でもこれ、死ぬなあ、死ぬ。死ぬんだ。寝っ転がっているから額の汗が髪に伝っていく。ものすごい音が近付いて耳に刺さる。終末のラッパってやつだろうか。とんでもない音出しやがって。ああくそ、体が熱い。死ぬ、死ぬんだな。

 ふと俺の顔の上に覆い被さるように顔が現れた。口がぐにゃぐにゃして何かを捲し立ててるがキンキン響いてなんのことだかさっぱりわからない。手のようなものが頬に触れたがその指は棘だらけで痛かった。

 視界の端から曇っていく。頭にもやがかかる。助けられたかった。ずっと助けられたかった。こんな人生のはずじゃなかった、なあ父さん、助けてほしかったよ。

 ああ、ああ、もしも来世ってのがあるなら。こんな俺でも生まれ変わっていいってんなら、せめて、何にも頼らず夢が見たい。それくらい、最後に願わせてくれよ、父さん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る