第46話 朝の団欒とイベント情報

「イベント?」


 朝ご飯のハンバーグをもぐもぐと食べながら、私はお姉ちゃんの言葉に反応する。

 私が知らない情報を披露するのが楽しいのか、得意気な顔で胸を張るお姉ちゃんは、ほっぺにソースをつけたまま説明を続けた。


「そう。ゴールデンウィーク特別イベント、春の大収穫祭! イベント中だけ手に入る食材アイテムを集めて、始まりの町にいる料理人へそれを持って行くとイベントptが手に入って、イベント限定アイテムと交換出来たりするのよ。イベント終了時には、累計獲得ptが多いプレイヤーから順にランキング報酬もあるから、頑張ってね」


「へ~、楽しそう!」


 自前のホームをティアラちゃんに作って貰い、さて次はどうしようかと思っていた矢先だったし、ちょうどいいね。

 まあ、私はレベル1だし、どこまで出来るかは分からないけど。


「ちなみに、イベント限定アイテムとかランキング報酬って、どんなのが貰えるの?」


「そうねー、イベント限定装備や、普通に買うと高くつく消耗品、それと……モンスターの卵かしら」


「卵?」


「ええ、どんなモンスターが生まれてくるかはお楽しみ、所謂モンスターガチャみたいなものよ」


 ふふふ、と楽しげに笑いながら説明するお姉ちゃんは、もう私がそれを聞いてどうするか分かってて言ってるんだろう。


 人の思い通りに動かされるのもどうかと思うけど、お姉ちゃんだし……興味津々なのは事実だから、ここは素直に乗せられようかな。


「じゃあ、私は卵を狙って参加してみようかな。ランキングはどれくらいで卵貰えるの?」


「そうね、最低ランクの白卵は10000位以内、銀卵は5000位以内、金卵が1000位以内ね。最上位の虹卵は100位以内で貰えるわよ。10位以内だとそれが二つになるわ」


「……数字聞いてもどれくらいかよく分からないなぁ」


 100位以内が難しいことは分かるんだけど、10000位以内って難しいんだろうか?


「ひとまず、毎日コツコツ頑張れば10000位以内には入れると思うわ。5000位辺りから競争が激しくなって、1000位以内に入れたらもうトッププレイヤーと言っていいんじゃないかしら? 100位以内はもうプロね。お金は出ないけど」


「へ~、そうなると、ひとまず5000位以内を目指そうかな。後は視聴者のみんなとノリで決めよっと」


 目指そうぜ100位以内! ってなったら乗るかもしれないし。

 とはいえ、私はあんまり強くないしなー、乗ったとしても行けるかどうか。


「ああそうそう、ずっと張り付きを強制するのはよくないからって、モンスターの自動探索でもイベントアイテムが入手できるようになる予定だから、紅葉はそっちを狙うのもいいかもしれないわね」


「探索かー、そうだね、いいかも」


 ホームが手に入ったし、モンスターも増えて来た。

 戦闘で他のプレイヤーを越えて行ける気はあんまりしないけど、探索は運勝負だから勝ち目はあるかもしれない。


「となれば、チュー助とたぬ吉……あとは食べ物探しが好きなピーたんは探索要員かな。戦闘はドラコとゴンゾー、ポチがいればそこらのモンスターはどうにかなるでしょ、ボス級は無理かもだけど」


「あはは、言うこと聞くならフレアドラゴンがいるだけで十分強い方だと思うけれどね。案外紅葉も1000位以内に入れたりして」


「どうかなー、うちのドラコ、ピーたん以上に気難しいんだよねー」


 フレアドラゴンのドラコは、隠しエリアのボスだっただけあって純粋なステータスとスキルはうちの子の中で間違いなく最強だ。

 テイムしたことでボスだった時よりはステータスも控えめになったけど、それでもぶっちぎり。


 特に、《バーニングフレア》っていう炎のブレス攻撃と、スイレンすら苦しめた特殊スキル、《バーニングバスター》……上空から炎のブレスを連射する範囲攻撃がめちゃくちゃ強い。


 でも、ピーたんと違ってあまり食べ物にも釣られないし、フィールドワークではほとんどやる気出してくれないからイベント中ももしかしたら働いてくれないかも。


「何だかんだ言って、いざという時は紅葉のために頑張ってくれるんじゃないかしら? ……プログラマーの私が言うことでもないかもしれないけどね」


 紅葉は常識が通じないから、とお姉ちゃんは苦笑い。


 最近は少し落ち着いて来たみたいだけど、相変わらず私が配信の中でレベル1のまま高レベルモンスターを従えて戦えてることから、どういうことかと問い合わせが絶えないらしい。


 お姉ちゃん含め、開発陣のプログラマーやデバッカーが総当たりで検証してもどこにも異常はなく、チート行為も見つからず、本当に「ただの運です」としか言いようがない乱数の偏りに、お姉ちゃんの上司も頭を抱えているんだとか。


 なんていうか、いつもごめんなさい。


「いっそ紅葉を思い切り前面に押し出して、『この子はもうそういう存在だから仕方ない』って印象と共に全プレイヤーのアイドルに仕立てた方がいいんじゃないかって、若干遠い目で呟き始めていたから……紅葉、もしかしたらTBO初の公式プロプレイヤーになるかも?」


「いやいやいや、それはないでしょ」


 本当に運だけの女なんですけど、私。そんな小娘を広告塔にしたら、TBOがいよいよおかしくなったって言われちゃうよ。


 まあ、きっとその上司さんも疲れてるんだろうね。GWはゆっくり休んで、まともな思考を取り戻してほしい。


 ……あ、TBOの運営さんはイベント真っ只中になるから、しばらく休めないのか。

 えーっと、頑張って、名前も知らない上司さん!!


「まあ、私はデバッグ作業って名目で、紅葉と一緒にイベントに参加出来るかもしれないけどね♪」


「ほんと!? やった、久しぶりにお姉ちゃんと遊べるね!」


 思わぬ朗報に、私は手を叩いて喜びを露わにする。


 てっきり、お姉ちゃんもイベント対応のために帰りが遅くなったりすると思ってただけに、一緒に遊べるのは素直に嬉しい。


「ただ、あくまで仕事としてだから、家じゃなくて会社の方からログインすることになると思うけど。うちのアホ上司が紅葉といたらまともな検証にならないって言うから、ずっと一緒にプレイできるわけでもないでしょうし……途中参戦って形になるかしら?」


「それでも嬉しいよ、お姉ちゃんとは少しでも一緒にいたいから」


「紅葉……うぅ、ありがとうっ! お姉ちゃんも紅葉と一緒にいられる時が一番嬉しいわ!!」


「お姉ちゃん、苦しい……それと頬擦りはやめて、ソースがつくから」


 思い切り抱き締めながら擦りついて来る姉に苦笑しつつも、抵抗はしない。やっぱり、お姉ちゃんとこうして触れ合える時間は好きだからね。


 それにしても、イベントかー……TBOを始めてから初となるお祭り騒ぎ、どんな結果になるかは分からないけど、すごく楽しみだ。


 未だにぬいぐるみか何かのように抱き締めてくるお姉ちゃんを宥めながら、私はワクワクする心を抑えきれずにいた。

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