46.ミレイアの告白 2
「失礼いたします」
振り返ると、困った表情のリリアナ、クロード、そしてクロードの横にはサフィロ子爵夫人が立っていた。
「好きなんだもーーーーんーーーうあぁぁぁん」
芝の上では、周りを気にせずミレイアが泣き続けている。
フォルティス侯爵はその姿を何も言わずに見つめていた。
クロードの肩越しにこちらを覗き込んだサフィロ夫人は、ミレイアの姿を見て一瞬息を呑み、眉を顰めた後、俺がいることに気づいて軽く会釈をした。
先頭にいたリリアナが、困った表情のままこちらに近づいてきた。
「レイナード、お父様……これは……」
不安そうなリリアナの声に、魂が抜けたようにミレイアを見つめていたフォルティス侯爵は、ハッと我に返り三人がいる方へ顔を向けた。
「あ、ああ、すまないリリアナ、そしてサフィロ夫人もお待たせしてすまない」
「わたくしは大丈夫ですわ侯爵、いまリリアナお嬢様にお庭を案内してもらっているところでしたの」
サフィロ夫人はそう言ってリリアナを見て微笑み、リリアナも夫人を見て微笑んだ。
「レイナードとお茶の予定でしたが……少し、席を外されたので……」
リリアナが言葉を選んでいるのがわかる。
フォルティス侯爵は話を聞きながらミレイアを見たが、全く構わないといった様子でずっと泣き叫んでいた。
リリアナもミレイアを確認した後、話をつづけた。
「お茶の準備ができましたのでレイナードを迎えに行こうとしていたところ、サフィロ子爵夫人とお会いしましたの」
「とても素敵なお嬢様ですわねフォルティス侯爵」
「ああ、ありがとう、リリア……」
侯爵の言葉をかき消すように、ミレイアが大きな声をあげた。
「わたし! ずっとレイナード様が好きだったのぉーー!! お姉さまの婚約者だとわかっていたから、気持ちをごまかすためにずっとお兄さまって呼んでただけなの! でももう我慢しない、ねえお姉さま、本当にレイナード様のこと好き? お姉さまには縁談の話が全くなかったから幼馴染のレイナード様と婚約しただけでしょ?」
「何を言ってるんだミレイア!」
フォルティス侯爵が窘めようと大声をあげたが、ミレイアは止まらない。
「わたしわかってるの、本当はレイナード様だってミレイアを可愛いと思ってるってこと、だってお姉さまがいないところでもいつもすごく優しかった、年齢の順番があるからお姉さまと婚約しただけなのよ、でもそんなのお姉さまは気にしないわよね、本当は勉強がもっとしたいんでしょ、いつもそう言ってるもの、ねえ結婚やめましょ?」
リリアナのドレスの裾をグイっと引っ張るミレイア。
その力は悪意を感じるほど強く、リリアナは前に引っ張られて転倒しそうになった。
「あぶない!」
一歩前に踏み出した途端、ミレイアは身体の向きを変え、今度は俺の足を掴んだ。
バランスを崩したリリアナの身体は、後ろにいたサフィロ夫人が抱きかかえるように支え、転倒することはなかった。
「サフィロ夫人ありがとうございます」
「ミレイア何をやってるんだ!」
フォルティス侯爵が大きな声をあげるが、ミレイアは全く聞いていない。
ただ俺の足をしっかりと掴み、この状態でも儚げな表情で涙をこぼしながら俺を見つめている。
「レイナードさま……」
甘えた声でミレイアが呼びかけてくる。
掴まれた足から一気に全身が粟立つのを感じた、もう侯爵の前とかどうでもいい。
「ミレイア」
「はい、なんですかぁ?」
「手を離してくれないか」
「あ、ごめんなさぁい……ねえレイナード様、ミレイアの気持ちわかってくださいました?」
「ああ十分にわかったよ」
「本当に!!」
なぜか喜んでいるミレイア、頭の中どうなってんだ?
俺はすかさずその場所から離れ、リリアナの横に立った。
侯爵は呆れているのか、驚いているのか、今の状況を全く受け入れられないという様子だ。
リリアナはここに来てからずっと眉間に力が入っている、可愛い顔が台無しだ。
サフィロ夫人は明らかに悲しそうな表情をしていた、ミレイアを見てどう思ったのだろう。
カルロスたちは……まあいいか。
俺はしかめっ面のリリアナのおでこに軽く口づけた、リリアナは目を丸くしたあと少し微笑んだ。
良かった、ずっと苦しそうな顔をさせておくなんて本当に我慢できない、早くこの状況を終わらせなければ。
ミレイアはこちらの様子を、不機嫌そうな顔で睨みつけている。
俺は大きく息を吸い込んで、ミレイアに話しかけた。
「ミレイア、君の父上、私にとってもこれから義理の父親になる侯爵がいる前だから、なかなか言えずにいたが……ハァ、君に優しいだって? そんなのリリアナの妹だからに決まってるだろ、そうでなければ会話もすることないよ」
「う、嘘!!!」
「何が嘘なんだ? はっきりと今目の前で話してるだろ、馬鹿なことを言わないでくれ、俺がずっと愛しているのはリリアナだ」
「ミレイアのほうが……!」
「ミレイアのほうが何なんだ? 君は可愛いと周りから言われているんだろうが俺からすると全然だよ、見た目を着飾ることばかりに必死で初等学校にさえ行っていない、頭は空っぽ、俺には理解できない人間だよ、まあ理解したくも知りたくもないけどね」
一瞬その場が静まり返った、風さえ止まったような気がした。
侯爵の顔は怖くて見れないが、全く後悔はない、いやまだ言い足りないくらいだ。
さてどうするか……。
「ひどい! ひどい! ひどい! ひどいぃぃぃぃ!!!」
座り込んだままのミレイアがこちらにむかって足元の雑草を投げつけてくる。
耳に突き刺さるようなキンキン声で、泣いているのか叫んでいるのかわからない。
一人で暴れるミレイアに、フォルティス侯爵は優しく手を差し伸べた。
「もうやめなさいミレイア、そして早く立ちなさい」
ミレイアは侯爵の手を取り、やっと芝の上から立ち上がったかと思うと、手を思い切り払いのけた。
「お父様も、レイナード様も、だまされてるっ!!」
は? この女、まだ懲りないのか?
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