2章
新しい目覚め
疲れから翌日もほとんど眠っていたが、次の日は流石に起き上がった。
ほとんど何も口にしていなかったので、普段感じないような空腹を感じた。
母親は平日は暇だが、休日は料理教室がある為、家を空けることが多かった。
ただ、食事は必ず用意していてくれたので困ることはなかった。
小さい頃は寂しい思いもしたが、エアノアが思春期に入る頃には、むしろ親が距離をおいてくれることにありがたいと思うことも多かった。
ただ、昨日はその料理を口にしていなかった。流石に心配していた様子だったので、今日は食べなければという使命感もいくらかあった。
台所に行くと鍋にパン粥が用意されていた。
12月の時期ということもあり、まだ昼前だが、その粥は完全に冷たくなっていた。
ガラス蓋の内側には、水滴がびっしり付いていた。
家庭の暖かさを、その水滴から見出せるかと思っているように、その様子を見つめた。
ひとしきり観察した後に、そのまま弱火にかけた。
暫くすると、鍋はまた活力を取り戻したように水滴が動き出した。
鍋を軽く揺すると、底に固まっていた粥もゆっくり動くようななった。
その粥を、誰のものとも決まっていないさらに盛り付けた。なぜその皿にしたのかわからなかった。
どうやら母の家に伝わる病人食であるらしいがあまり食欲をそそるものではない。
風邪を引いていても美味しいと感じたことのない。
ただ今日は、その病人食のありがたさが実感できた。
見る間に平らげる事ができた。
母の愛情に少し心が温かくなった。
ある程度、お腹が満足するとまた体が重くなる。
まるで栄養は足りたから休めと言わんばかりである。素直にその命令に従ってまた布団に潜り込んだ。
週が明けても疲れからか、授業にも身が入らない。
「エアノア、どうしたのよ?白い顔して」珍しく元気のないエアノアに周囲も心配する。まるで本当のエアノアを周りは知っているようであった。
『今のあなたはエアノアではない』言われているように感じた。エアノアにもそう思うことはできた。でも、何がそうさせているのか戻るためにはどうすれば良いのかわからなかった。
「なんか体が重いのよね風邪かしらね」と誤魔化すがその声も正気がなかった。
「どうしたの?また、失恋でもしたの?」彼女と近しい友人からは揶揄われる始末だった。
「ごめん、今回はそういうことじゃないのよ」本心としてはもう少し気の利いた言葉を返したかった。
こんな会話をすることが本来のエアノアだったのだろうか?彼女も思うが、それは随分と遠いようだった。
数日間は現実なのか夢なのかよくわからないよう浮遊感があったが体は鉛のように重く感じられた。
浮き立つような夢の世界から急に現実に引き戻されたような感覚だった。
とにかく体が重い。心が重い。なんとか大玉を押して高い丘を登ろうにとするが手を離した瞬間にまた坂を転がり落ちてしまうような感覚だった。
幸か不幸かバーネットからも週が明けて2日経ってもなんの連絡は来ていなかった。
「どうしたのだろう?」疑問には思うが、聞きに行こうとか様子を見に行こうとかそこまで思い立つほどの余裕がなかった。
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