俺、冒険者!〜無双スキルは平面魔法〜【WEB版・改】
みそたくあん
序章:転生編
第001話
仰向けに寝転がったまま、剥き出しの太い木の
そのまま左右の掌をゆっくり開いたり閉じたりしてみる。何となく違和感はあるけど、ちゃんと思ったように動かせる。自分の手なんだから当たり前といえば当たり前だけど、しかし、ということは、やはり…。
「(これって、やっぱり『生まれ変わり』ってやつなんだろうな……)」
自分自身の、小さな赤ん坊の手をニギニギしながら、俺はそう思った。
◇
俺は都内某所にある、中堅ゲームメーカーに勤めるデザイナーだった。過去形。名前は…どうでもいいか。もう意味ないし。
関西の某有名(?)テーマパークのそばに生まれた俺は、特に何事もなく成長し、最寄りの電気系大学のソフトウェア系学科を卒業した。
しかし在学中にゲーム好きを
専門は3DCGモデリングだったけど、中堅や弱小企業のデザイナーが都合のよい便利屋だと知ったのは、入社半年くらい経ってからだった。
2Dのドット絵(アイコン等の小さな画像)作成からテクスチャ(3DCGデルに張り付ける質感表現用画像素材)作成、リギング(3DCGのモデルを思い通り動かすための操作装置設定)、モーション、レベルデザイン(3DCGのフィールドデザイン)、エフェクト(特殊効果)作成等々、
大手ならそれぞれに専門職がいるんだけど、人件費という世知辛い事情から、中小では兼任どころか全部やらなくてはならなかった。ホント世知辛い。
そんなわけで就職二年目には転職が頭にちらついていたんだけど、仕事の切れ目というか、丁度いい区切りに巡り合えなかったため、ずるずると四年も務める羽目になってしまった。
その間に
チーフというのは、部下を監督しつつ自らも制作業務をこなさなければならない立場だ。つまり、超忙しい!
なのに給料は手取りで数千円上がるだけという、非常に割に合わない役職だ。正直断りたかったんだけど、やりかけの仕事を放り出して出ていくのは無責任な感じがしたので、結局そのまま引き受けてしまった。
案の定、五年目からの仕事は恐ろしくハードなものになってしまった。
◇
「無理ですって、たった四人のデザイナーで半年で上げるとか! 前回の使いまわしでなんとかって言いますけど、世界観もインターフェイスもまるっきり変わってるじゃないですか! 使いまわせるものなんか、ほとんどないですよ!」
プロデューサーに食って掛かる俺。
前回作ったスマホアプリRPGの続編を作ることになったんだけど、予算の関係(またか!)とやらで、開発期間が前回の三分の一にまで削られてしまっていた。そしてこれは確定事項だというのだ。
納期が延びないならリソースを増やすしかない。人海戦術だ。他のプロジェクトのメンバーを引き抜くか、外部に発注するか。その為の談判だったんだけど、
「無い袖は振れないって言うじゃな~い? なんとかしてよぉ~、ねぇ~? ほらぁ~、チーフになったんだしさぁ~、ここが腕の見せ所じゃな~い? ねぇ~?」
前から思ってたけど、このプロデューサー、変に語尾を伸ばすのがムカつく! 丸顔で薄くなった頭に丸メガネという、某大物関西芸人そっくりなのに、生まれも育ちも東京二十三区内というのが更にムカつく! 理由はわからないけど!
「いや、腕でなんとかなる範疇を超えてますよ! この作業量を納期迄に終わらそうと思ったら、人手が一・五倍必要ですって!」
この一言は余計だった。
「じゃ~、一・五倍働いてぇ~? 残業代はちゃんと社長に話しとくからさぁ~。よろしくぅ~、がんばってねぇ~」
俺の盆休みと年末年始休暇が消えた瞬間だった。
◇
それからは仕事以外の記憶がほとんどない。
部下のデザイナーは皆有能だけど、全員女の子だった。だからそんなに厳しくは出来ないし、遅くまで残業させるわけにも行かない。
何より嫌われたくない! 俺も男だ、女の子の好感度を下げたくはない! 男なら解るはず!
必然、その分の負荷は自分に返ってきた。
月曜と水曜、金曜は会社に泊まり込み、それ以外はギリギリ都内に借りたアパートに終電で帰る。土曜の朝は始発で一度帰り、洗濯など諸々の用事を済ませたらまた出社してそのまま泊まり込み、日曜の朝に帰って丸1日死んだように眠る。そしてまた月曜の朝を迎える。
そんな生活を三か月も続けると、体重は八キロ減った。ちょっとヤバいかもしれん、と思ってはいたんだけど、納期は問答無用で迫って来る。栄養ドリンク片手に頑張るしかなかった。社長もそんな無茶な残業を認めるなよ! ブラックすぎるだろこの会社!!
「俺、この仕事終わったら会社辞める! 絶対辞める!」
週に一度のペースでそう叫んでいたんだけど、これがフラグになってるとは思いもしなかった。
◇
その日は非常に静かだった。一昨日からほとんどの社員が年末年始休暇に入っており、社内には俺一人だけだった。
もう夜も大分更けて、表の通りを走る車の音も少ない。
夕食は一時間ほど前にコンビニ弁当で済ませた。
大きめのステンレス製マグカップに
『さて、続きをやりますかー』とマウスに手を伸ばした瞬間、それはやってきた。
何の前兆も脈絡もなかった。
胸に走るとんでもない激痛。刺し貫かれて、
痛みのあまり胸を押さえて
あまりの痛みに息も出来ない。声を出すことも出来ないけど、頭は冷静に現状を把握しようとしていた。
おそらくこれは心筋梗塞。早急に治療しないと、命が助かっても脳に重篤な障害が残る危険な病気だ。
なんでそんなこと知ってるのかというと、父方の祖父母と母方の伯父がこの病気で亡くなっていたからだ。
『家系的に
あ、まさかそれがフラグだったのか? 何してくれてんねん、父ちゃん!
今、会社にいるのは自分ひとり。他からの救助は期待できない。自分でなんとかするしかない。
そう思いつつ、デスクの上で充電中のスマホに手を伸ばす。ほんの数十cmがやけに遠い。脂汗を流しながらやっとのことでスマホを握りしめる。
……けど、そこまでだった。
目の前が暗くなり、意識が遠のく。暗い世界に落ちていく。幸いにと言うべきか、痛みも感じなくなっていく。眠りにも似た意識の喪失を感じている中、遠くに鐘の音が聞こえた気がした。
「(ああ、今日は大晦日か……)」
そこで俺の全てが終了した。走馬灯は回らなかった。
◇
産まれたときのことは、おぼろげに覚えている。めっちゃ苦しくて不安で、大声で泣き叫んだような気がする。
そんな自分を抱きかかえて、あやしてくれたのは母親だったのだろう。柔らかい感触と、安心する甘い匂いを覚えている。
しかし、この数日は意識が混濁していたのか、色々と記憶があやふやだ。ついさっき、ようやく意識がはっきりしてきて、ついでに前世の記憶を思い出したというわけだ。
別に、前世に未練があるわけではない。親より先に死んでしまって申し訳ないとは思うけど、あのブラック企業に一矢報いることができたと思うと晴れやかなくらいだ。
一応、個人のPCの秘密のフォルダは、偽装した上で隠しフォルダ化してある。それと知らなければ気付かれることはあるまい。……無いよな?
おっと、そういえばこういうときのお約束をまだやってなかった。こういうのは様式美だから、きちんと踏襲しておかなければ。
仰向けのまま目を
『……知らない天井だ』
そう言いたかったのに、口から出たのは、
「いあぁいえうぇうばぁ~」
だった。
締まらんなぁ。
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