第157話 熱意

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「つまり、中道殿はそのご友人のために、

 恋愛ゲームをやろうと思って聖域に来たでござるか?」


簡単に自己紹介をして事の経緯を説明した火月に対し、

小日向が質問をしてくる。


「まぁ、そんなところでござるかな……」


「初めて見た瞬間から独特のオーラをもつ人だと思っていたでござるが、

 情に厚い方だったとは!

 今の時代、友のためにここまで尽力してくる人は中々いないでござるよ。

 小生、感動のあまり少し泣きそうになったでござる」


涙声になった小日向が一人で感極まっていた。

友のためというよりは、ファーストペンギンの沽券を守るための行動だったが、

感動している小日向に水を差す必要も無いだろう。


結果的には要のためになるのだから、あながち間違いでもないはずだ。


「俄然、やる気が湧いてきたでござるよ!

 それで今回は恋愛初心者のバイブルになるような作品を探している

 って認識で大丈夫でござるか?」


「認識相違ないでござる。

 一通り店内を見て回ったものの、

 結構似たようなあらすじの作品も多くて違いがわからなかったので……」


「確かに、最初はそうでござろうな。

 でも安心して小生に任せてほしいでござる。

 まず大前提の話になるでござるが、

 成人向けゲームもコンシューマーゲームと同じように

 様々なメーカーがソフトを販売しているでござる。

 そして、メーカーによって毛色が違うのが面白いところでもあるでござる」


「同じ恋愛ゲームなのに毛色が違う……?」


「左様でござる。

 例外はあるものの、恋愛をするという大筋はどのメーカーも変らないでござるが

 恋愛をする世界観、

 過程においてはメーカーの得意分野があったりするでござるよ。

 例えば学園物の作品を中心に扱っているメーカーもあれば、

 その中でも純愛に特化していたり、ファンタジー要素を取り入れたもの、

 ギャグ要素多めのシナリオが得意なメーカーもあるでござる。

 逆にバトル要素を中心に扱うメーカーもあるし、

 個々の恋愛要素よりメインのシナリオに重きを置くメーカーもあるでござる。

 スポーツものやミステリーもの、

 思わず泣いてしまうようなシナリオが得意なメーカーなど、

 その分野は様々でござる」


「なるほど……。

 となると似たようなあらすじが書いてあっても、

 メーカーによって全く違う作品になり得るってことでござるか?」


「そういうことでござる。

 そして、成人向けゲームというジャンルは、

 何もただ性的描写があるから成人向けゲームというわけではないでござるよ。

 結構精神的にくるようなシナリオもあるし、

 初心者が何も知らずに手を出したら、

 いきなりトラウマを植え付けられるケースも少なくないでござる。

 逆に初心者向けのメーカーというのも存在するので、

 中道殿はまずその辺の作品を購入するのがいいと思うでござるよ。

 ちなみに、大体の作品は公式サイトから体験版を

 ダウンロードできるようになっているでござる。

 なので、気になった作品があったら、

 まず体験版をプレイしてみるのも有りでござるな。

 実際のゲーム画面を見ると

 自分のイメージとのギャップを無くすことができるからお勧めでござるよ」


「有益な情報提供、助かるでござる。

 やはり現地で専門家に話を聞いた方が勉強になるでござるな」


「小生、まだまだ若輩者でござるよ」

と小日向が自嘲気味に笑うと、そのまま話を続ける。


「確か中道殿のご友人は大学生でござるか?

 なら、世界観は大学生もの、もしくは社会人一年目とかの

 主人公の年齢が少し高めの設定の作品を探してみるでござる。

 ジャンルも所謂一般向けの王道作品、

 純愛 or いちゃいちゃものに絞ってみるでござるよ。

 ちなみにそのご友人の好きな異性の見た目の特徴とかは

 分かっているでござるか?」


「いや、あくまでもバイト先の先輩としか聞いてないでござるな」


「了解でござる。

 ならバイト先で恋愛に発展するシナリオの作品もついでに探してみるでござるよ」


そう言い終わると小日向が店の奥の方へ歩いていく。

小日向の情報はどれもネットに書いていないようなものばかりで、

何か一つのことに熱中できる人は凄いなぁと素直に感心した火月だった。

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