第52話 てるてる坊主

急いで後ろを振り返り、足元に視線を移す。


地面でモゾモゾと動くそれは、

パッと見た感じ大きなてるてる坊主のような印象を受けた。


頭と思われる部分には、菱形ひしがたに近い透明な石の塊が浮遊しており、

身体全体には白い外套がいとうのようなものをまとっている。

体長はねぎしおよりも一回り小さく見えたので、約三十センチといったところか。


扉から出てきたということは、怪物であるのは間違いないだろう。


ただ、今の状況に違和感を覚える。

そう…、こいつから敵意のようなものを全く感じないのだ。


まるで火月たちなど初めから眼中に無い様子で

むくりと起き上がった怪物は、閑散とした歩道を真っすぐ見据えている。


「これくらいの相手なら、我で十分であろう」


怪物を目掛けて、後ろからねぎしおが大きく飛び上がる。

自分よりも格下と判断したのか、生き生きとしている鶏がそこにはいた。


華麗なキックが決まるかと思いきや、目標を捉える寸前で空を切る。


怪物がピョンと横に飛んで、ねぎしおの攻撃を躱すと、

そのまま浮遊して道なりに移動し始めた。


「お前…、完全に舐められてるんじゃないか?」


「そんな訳なかろう。我に恐れをなして逃げて行ったのだ」

やり切った感を出しているねぎしおだったが、

このままあの怪物を実界で放っておくわけにはいかない。


「とにかく、あいつを追いかけるぞ。他の人間に危害が及ぶと後々面倒だからな…」


「もしかしたら、会話ができるヤツかもしれぬ。我に続くがよい」


勢いよく走り出そうとしたねぎしおが、直ぐにその場で転倒する。


「何やってんだ…。早く行かないと見失うぞ」

半ば呆れた様子の火月に対して、ねぎしおが抗議の声を上げる。


「別にふざけているつもりなどない!ちょっと足元が滑ったたけじゃ」


何もない場所で転ぶ方が難しいだろうに…と思っていた火月だったが、

ねぎしおが転んだ地面を何気なく見ると、

アスファルトの表面に氷の膜が張っていることに気づく。


そこは、つい先ほどまで怪物がいた場所であったのは言うまでもない。

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