STAGE 3-32;遊び人、自分自身と戦う!?【後編】


「あのアストさんとだなんて――やっぱりこの【逸脱種エクストラ】は〝とんでもなさすぎる〟やつっす~~~……!」

 

 チェスカカがへなへなとその場に座り込んだ。

 ゆっくりと首を振って、空中庭園で佇むふたりの少女に涙が滲んだ瞳を向ける。

 

 それらの〝神にも劣らない美しさ〟と〝神にも匹敵しかねない実力〟を持った少女たちに目を見開く。


「……アストさんっ!」


 今度こそ。

 相手が。先ほどのゴーレムの比ではない。


 最早退く以外の選択肢は存在しえない――チェスカカはそう直感した。

 しかし……。


「なんで……なんでそんなに、なんすかあ~~~っ……!」


 チェスカカには分かった。

 アストは今のこの絶望的な状況を楽しんでいる。

 自らと匹敵する力を持った存在とようやく対峙できた。そんな喜びを噛み締めるようにして、口元を歪ませている。


「これじゃ、どっちが鏡の中のアストさんなのか分からないっすよ~~~……!」


「楽しそう、か」本物の方のアストが呟いた。「確かにそうかもしれん。俺はどうやら今――楽しんでいるようだ」


 展開スピンアウト

 アストはふたたび魔法陣を空に描く。

 今度はその数は、1つ、3つ、5つ――10を遥かに超えた。


「……へ?」


 そして当然。

 対峙する【鏡面世界のアスト】も同様に魔法陣を展開していった。

 その表情には余裕がある。『そんなことをしても無駄だ。すべて真似をするだけだ』とあざけるような笑みだった。


「ちょちょちょ! ちょっと待ってくださいっす!」 


 アストの魔法陣の展開は止まらない。

 10が20に。20が30に。

 

 超絶的に濃厚なで。

 超絶的に濃厚なが込められた魔法陣が――無数に空に浮かんでいく。


「こ、こんなの……あり得ないっす……!」


 チェスカカの目が過去最大級に見開かれた。

 それもそのはずだ。優れた使い手であっても、魔法陣を複数同時に展開できるのはが限度だ。

 それが〝高いポテンシャル〟を秘めた魔法であれば、なおのこと同時に展開できる数には限界がある。

 

 しかしアストは。

 その超絶的なポテンシャルをもつ魔法陣を――、空に展開している。

 ふつうの人間であれば、そのですらも維持することが困難な≪古代魔法≫の術式は。


 ――もはや天を埋め尽くす巨大な壁画のように、空に無数に描かれていた。

 

 アストが展開する。鏡面世界のアストが真似る。展開する。真似る。展開する。真似る。


 ただただ莫大なる魔力の消費。

 ただただ超絶たる魔力練度を保つ集中力。


 その無限たる繰り返しに――とうとう相手の表情が崩れはじめた。


『……っ!』


 見せたのは最初はかすかな〝焦り〟の表情だった。

 終わりのない魔法陣の展開作業。終わりのない魔力の放出とそれの維持。

 

 ――一体いったいいつまで続くのか?


 その焦りはやがて明確たる〝困惑〟へと変わった。

 おかしい。明らかに。

 自らが鏡像としてであるはずの。

 目の前の小さな小さな少女の魔力には――果てが、ない。


 それに気づいた時にはもう遅かった。


 空に展開された魔法陣の数はおびただしい数にのぼって。

 幻想的な神殿世界の天井を埋め尽くし、激烈たる圧気オーラを空間の底に振り注がせている。

 

 まさに圧巻。

 

 【逸脱種エキストラ】――それは通常の神遺物アーティファクトを越えた存在であり。

 本来であれば、相手のすべての動きをただ模倣するだけで良かった【鏡像】である自らの全身を、今までに触れたことのない感情が貫いた。

 本能が警告する。顎先からあり得ないほどの冷や汗が滴り落ちる。否、そんなことは本来ではありえないのだ、と鏡像は思う。


 神にも使われた存在である自分が――たったひとりの人間相手に〝恐怖〟を感じるなど。


「む?」


 無限にも思えた魔法陣の展開合戦の果てに。


 アストはいつもの、淡々とした口調で言った。

 

「それ――ひとつ、足りなくないか」


『…………っ!!!!』


 その指摘は文字通り。

 鏡像側の展開する魔法陣のに対するものだった。


 しかし。

 鏡像であるアストには、例え相手の挙動を真似るだけだとしても。

 それ以上の魔法陣を展開する魔力も、集中力も――既に残ってはいなかった。


「ふむ。このへんにしておくか」

 

 現実世界のアストは不敵に笑んで。


「ア、アストさんっ……まさかとは思うっすけど、それ、全部ぶっ放すつもりじゃあ……」

 

 チェスカカの悪い予感と警告も虚しく。

 アストは空に展開したすべての魔法陣を――起動した。


(あ……自分、死んだっす……)


 チェスカカだけじゃない。

 もしその場に居合わせた生物がいれば誰もが刹那、そう直感したかのような。

 

 


『――――――ッ!!!?』

 

 天蓋てんがいを覆っていたすべての魔法陣から放たれた超絶規模の魔力砲は。

  

 絶対不壊ぜったいふえとされる神遺物アーティファクトと同系統の素材である神殿を。


 

 ――


 

     ♡ ♡ ♡

 

 

 そうしてすべての轟音が収束した先で。

 アストはいつもと変わらない口調で言った。


「ふむ。強い神遺物アーティファクトと聞いて期待したんだが……案外で相手の魔力が切れたな」


 巻き上がった土煙で汚れた服をふたたび払うが――

 それを真似する鏡像はもういない。


 アストは『ふう』と溜息をひとつ吐いてから、ぼろぼろになった【逸脱種】に追い打ちをかけるように残念そうに呟いた。

 

 

「せっかく〝自分〟を相手にできる滅多にない機会だ。全力を出し尽くそうと思っていたんだが――途中で終わってしまった。実際の俺ならあと10倍は展開つくれたぞ」

 


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圧倒的勝利――!


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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(今後の執筆の励みにさせていただきます――)

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