STAGE 2-17;遊び人、縛りプレイを解除する!
『『――≪
岩山のごとく強大化した【
「「……ッ!」」
振るわれた刃の軌跡――
その延長線上にあった空間が、根こそぎ刈り取られた。
そんな異次元の現象に、
ゆっくりと動き出した世界が文字通りに――崩れていった。
「うあー……なに、これー。世界が、震えてー……!」
リルハムが丸い目を見開いて言う。
周囲を構成していた黒い岩盤。合間を猛々しく流れる
極限の環境に棲息し、唯一無二の生態系を形成していた数多の屈強な魔物たち。
そんな〝大地そのもの〟が支えを失い――
すべてがこの穴底へと、落ちてきていた。
「誤算、だったよー……まさか集めてた魂をぜんぶ
〝世界を切り取る〟一撃を放ったフルカルスは、重く低い声を出す。
『『これで終わりだと思うナ』』
ひどくゆっくりと時が流れていった。
大地が墜落する轟音と振動は鳴りやまない。
その激震を創り出した悪魔は。
赤く大きな瞳を不気味に光らせながら続けた。
『『残念だが、今の我輩の力はこれまでと一線を画している。唯一〝間違い〟が起きるとすれば――』』
巨大化したフルカルスは。
目の前の小さな少女を徹底的に見下ろして。
『『キサマの馬鹿げた魔力練度で放たれる、邪神様の力を借りた≪
邪神から授かった≪
アストは幾度とその魔法術式を組もうとしたが、
「む、諦めた?」
しかしアストは、頭上の髪の毛をぴこんと跳ねさせながら。
「お前はなにか勘違いをしているようだ」
目の前に世界を刈り取る最強の悪魔がいるにも関わらず。
いつもと同じ、のっぺりと落ち着いた口調で。
「俺は最初に術式組成がうまくいかなかった時から、≪
アストは腕を組んだままそう言って――
くい、と顎を上げ空に視線をやった。
『『ふン。何を、言って――』』
つられて上を見たフルカルスは。
そこに広がった〝異常な光景〟を前に絶句し、背筋を凍らせた。
『『ん、アアア……!?』』
そこにはアストのものであろう≪黒い魔法陣≫が――
まるで絶えず激流が注ぎ込む滝つぼで、無限に生まれ弾ける〝泡〟のように。
浮かんでは消え。
消えは浮かんでを繰り返すようにして。
延々と展開される魔法陣が、空間を〝漆黒〟に埋め尽くし――
穴底から見上げた空に。
あるはずのない〝黒い天井〟を形作っていた。
『『ッ!?』』
フルカルスはごくりと唾を飲み込んで、驚愕の声を出す。
『『莫迦ナ……この小娘は、無数に張り巡らせた≪
悪魔はとても信じられないように。
紅く光る瞳ごと顔を歪めて言った。
――そんなこと、常識を逸していル――!
「俺がここまで苦労するのは、
〝常識外〟と称されるアストの魔力量と練度をもって続けられた――
まさしく無限に及ぶ〝
アストは≪邪神の魔法術式≫を見事に完成させたように思えた。
しかし。
「どうも妙なんだ。術式はとっくに
アストは口元に白い指先を当て、深刻な表情を浮かべる。
「
『『んア……? 〝邪神様の術式に魔力が耐え切れない〟のなら分かル――どころか、逆にその魔法陣を魔力で
フルカルスの重低音が再び空気を揺らした。
その一方で。
「うんー? 邪神様の、加護……?」
リルハムはフルカルスの言葉に妙な引っかかりを感じて。
その〝違和感〟をずっと持っていたアストの方角を振り返った。
じいっとその全身を見つめながら、頭を揺らし思案を続けた果てに――
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
たれ気味の耳をぴんと立てて、彼女は叫んだ。
「思い出したー! ご主人ちゃんさ、もしかして――」
リルハムはそれが事実であった場合、とても恐ろしいことであるように全身に冷や汗をかきながら訊いた。
「まだ、
アストの脳裏には。
邪神の力を授かった後に、リルハムから〝強く言われたこと〟が蘇る。
――
「……む?」
アストはぴこんと頭上の髪を跳ねさせて言った。
「おさえるもなにも、お前がそう言ったのだろう? 言いつけはちゃんと
「そ、そうだよねーーーーーーーーー」リルハムは耳をぴくぴく動かしながら、気まずそうに語尾を伸ばした。「リルがいけなかったんだけどさー。でもさー、ふつーはこんな強敵と戦う時にまで〝
リルハムは焦るように目をしどろもどろさせながら。
ふくよかな胸の前で、わざとらしく指先を何度も絡ませて。
やがて意を決したように、言った。
「あれ、
「む、ということは、」
「うんー!」リルハムは吹っ切れたように尻尾を振りながら、言葉に力を込めた。「出しちゃえー、全力☆」
「そうか――
アストという小柄な少女は。
特にリルハムのことをそれ以上問い詰めることなく。
どこか嬉しそうに――口元を緩めた。
『『ーーッ! 何を訳の分からぬことを言っていル!』』
世界番の悪魔が
『『
言いながらフルカルスが、巨鎌と一体化した右腕を大きく振りかぶった。
その動作により空気が震え突風が穴底を吹き抜けた。
わー、とリルハムは両腕で目を覆ったあと、何かに気づいたように呟く。
「……あれー? ちょっと待ってー」
〝朝の運動〟のように全身を伸ばしているアストのことを眺めながら、リルハムは考える。
(邪神様の魔法術式は、さっき〝完成〟させてたよねー? ってことはご主人ちゃん……【邪神様の加護】を封じた状態で
それが事実だとすれば。やはりこの少女は、どうしようもなく――
「うーん……リル、やっぱり
無邪気な声の中にも〝これからどうなるかまるで予測がつかない〟――
そんな恐怖にも似た感情をどうしようもなく滲ませながら。
リルハムは呟いた。その上空で。
『『
フルカルスは勝ち誇った声で、二度目の超級攻撃を放った。
そんな中で〝準備運動〟を無事に終えたアストは。
「悪いな、
思い切り悪魔の名前を間違えながら。
「ようやく俺の
淡々とこれまでのことを振り返って。
「ふむ、そうだな。果てのない
世界を狂わすほどの美貌を持つ、小さな少女は。
そう言って自らが持つ力をすべて――
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