STAGE 2-15;遊び人、最強悪魔に溜息をつく!


『術式を見て真似ただけで〝できた〟だア……!?』


 フルカルスが誇る自慢の魔法――≪死死刈斬デスサイズ≫。

 〝秩序ごと世界を切り取る〟というその術式を、アストは見事に再現し自らの小刀ナイフに付与していた。


『ふ、ふざけるナ! 【神族ワレワレ】ですらひとつの≪魔法≫を習得するのにどれだけ労苦があると思っていル……!』


 声が震えているのは驚愕からだけではない。

 世界番ワールドキーパーが誇る大鎌の禍々しい刃先は。

 アストの持つ小さなナイフのそれに完全に受けきられ、どれだけ力を入れてもびくともしなかった。


『ク――それだけではなイ! 我が【死伽大鎌グリム・デシクル】は、地上世界においては〝神遺物アーティファクト〟とされる【神族】の魔道具――何故そのような陳腐なで受け止め、張り合うことができているのダ……!』


「む――だから言っているだろう」アストは変わらず淡々と言う。「俺は張り合う気はない。つもりでいると」


『どこまでも妄言ヲ――あア!?』


 フルカルスが苦悶の表情を浮かべ叫んだ。

 それまでびくとも動かなかった鎌先が――押し返され始めた。


『な、なぜダ! 単純な力と力の勝負なら、なおさら負けるわけガ……んア!?』


 フルカルスの赤い目が大きく震えた。

 視線の先ではアストが冷静な表情で〝追加の術式〟を起動し、剣刃に付与している。


、だト……!? そんなもの、まともにやれば〝神遺物〟であろうが刃が吹き飛ぶ無茶苦茶な行為ダ……なのニ――』


 アストが小さな掌で握る小刀の刃は、より強く発光を続けている。

 彼女は〝無茶苦茶〟と世界最強の悪魔フルカルスが称した行為を――完璧に


 フルカルスは唾を飲み込み、呆れたような声で言った。


『人間の分際で此奴コヤツは――どれだけ馬鹿げたクオリティの魔法技術を有しているのダ!?』


 アストは世界最強の悪魔フルカルスの驚愕などつゆ知れず、目を煌めかせながら言った。


「ほう。なるほど。これが感覚か、面白い」


『ぐ、アッ……!』


 ヂリヂリヂリヂリヂリヂリヂリヂリ、と。

 高速で振動する刃同士がぶつかり合うような耳障りな音がする。

 接触部からは青と紅が混じりあった止めどない閃光が周囲に散乱し、そして――


『あアアアアアアアアッ!』


 フルカルスの絶叫と共に――【死伽大鎌アーティファクト】の刃が。


 


『ーーーーッ!?』


 弾かれるように切断された刃先が、フルカルスの後方の岩盤に勢いよく突き刺さった。

 悪魔がぜえはあと息を荒げる音が、静寂の満ちていた穴底の空間に響く。


 対してあくまでも飄々とした表情のアストは。

 至極残念そうな口ぶりで――言った。


「ふむ。〝神遺物アーティファクト〟と聞いて期待したんだが――思っていたよりもやわかったな」

 

 ぶ。

 つ。

 ん。


 今度はひとつ。これまで以上に大きな音で。

 フルカルスの頭の中で〝最後のなにか〟が切れた。


『調子に乗るなア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』

 

 びりびりと再び魔力を滾らせて。

 折れた刃先に構わず大鎌を天に掲げて。


『――≪全死起動オール・リリース≫!!!!』


 先ほど、全空間にまさしく仕掛けた≪死死刈罠デストラップ≫を。

 フルカルスは起動させた。


 その静寂に満ちた刹那。


「む? 今起動させてもいいのか?」


 アストはふと気がづいたように。

 淡々と――言った。


『……んア?』


「お前のいる場所、


 そのアストの忠告の通りに。

 フルカルスの身体が、自分自身が仕込んだ≪魔法陣≫の光に包まれる。


『ひ、しまッ! 待テ――』


 しかし無慈悲に。

 一切の予備動作のないその閃撃は。


 発動主オーナーの身体を容赦なく抉り取った。


『――ぐ、がアアアアアアアアアアアア!!!!』


 無数に弾ける〝空間が刈り取られる〟虚ろな音と、魔法陣の煌々とした輝きと共に。

 悪魔の悲鳴が大穴の底に無情に響き渡った。


「ふむ――きっと俺の〝何倍〟にもおさまらないほどに歳を重ねているとは思うのだが」


 アストはふうと短く息を吐いて。

 自らと契約した狼悪魔リルハムのことも脳裏に浮かべながら言った。


「悪魔というのは思っていたよりも〝馬鹿〟が多いのか」




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次回〝悪魔の真の実力〟が――!?


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