STAGE 1-6;神童、特例で魔法を教わる!
「何度も言うけれど――成人して神様から『
その言葉の通り。
アストが≪魔法≫の詳細を教えてほしいと懇願しても今までは断られてきた。
「理由はひとつ――あまりに
実際に見せた方が早いわね、とエレフィーは空に魔法陣を描き始める。
「≪
「ふむ」
「私の職業は〝魔導職〟系統の『
そう言うと彼女は、空に浮かんだ魔法陣に≪
「これが『賢者』の職業魔法のひとつ――≪
「――ほう、なるほど」アストが目を煌めかせて相槌を打った。
「それじゃ――
その一言とともに魔法陣が光を放つと、やがて指先に集約され小さな〝丸い球体〟が出来上がった。
空に
「このあとは〝雨〟みたいね」
アユたちに伝えなきゃ、などと呟きながら彼女は続ける。
「今度は別の魔法術式を描くわ」
エレフィーはさっきよりも大きく、それでいてルーン密度が明らかに濃い≪魔法陣≫を空に描いた。
「完成――さっそく起動させてみるわね」
しかし。
いつまでたっても魔法は発動せず、時間と共に魔法陣は消滅した。
「ふう。こんなように、別の『職業』に固有の≪魔法≫はそもそも使うことができないの。職業ごとに契約している〝神様〟が違うからとされているわ」
エレフィーが少し疲弊した様子で息を吐き、アストの方を見やった。
「ちなみに今の≪魔法術式≫は『
と、エレフィーは少し得意げに胸を反らせた。
「職業の系統が同じなら、ある程度共通の≪基本魔法≫は使えるのだけれど。『系統職』については知ってるわよね」
アストは知識を思い出しながら首を振った。
職業の系統は大きく分けて4つ。
『
『
『生産職』――人口の中で最も多い〝農工〟に関する魔法を扱う職業。
『文化職』――〝戦闘〟や〝生産〟などに直接関わらない魔法を使う職業。
このうち戦闘に役立つ『武道職』と『魔導職』は〝上位職〟として、それだけで尊敬される一方。
生きる上で必須ではない魔法を主に扱う『文化職』は、通称〝下位職〟として蔑まれる傾向があるという。
「その他にも、ここに当てはまらない〝枠外れ〟の系統が2つあるわ。『勇者』を筆頭とする、世界の存続にすら関わる『特別職』――そして、個人にも集団にも
エレフィーは指をふたつ立てながら言う。
「この2つの〝例外職〟はその希少さからほとんど研究が進んでいない職業なのだけど、通常の4系統はそれぞれ〝ギルド〟を組んで研究や仕事の斡旋、定期的な情報共有なんかを行っているわ――ちなみに私は王国『魔導職』ギルドの所属。これでも一応〝幹部〟なんだからね」
エレフィーは軽く自慢げに咳払いをしてから続ける。
「とにかく! 成人になったら、授かった『職業』に基づいた〝ギルド〟に所属して。そこではじめて≪魔法≫の勉強をしながら仕事をこなして実践経験を積んでいく――これがふつうの〝魔法習得〟の流れなの」
周囲を冷たい、湿気を含んだ風が吹き抜けた。
空を見れば灰色の雲でうっすらと覆われている。
エレフィーの予報通り、今にも雨が降り出しそうな気配だ。彼女は続ける。
「与えらえる職業によって学ぶ魔法術式が異なるなら、自分の職業が何か分かった上で詳細を学んだ方がずっと効率的でしょう?」
アストはこくこくと頷いた。
「それともうひとつ、実はこっちの方が大きいんだけど――」
エレフィーは前置いてから、ふたたび空に魔法陣を描く。
「神様の加護によって『職業』が与えられると同時に――〝
彼女が指を鳴らすと、魔法陣の中に描かれたルーンが自ら主張するように輝き始めた。
「今のアストじゃ、ここに何が描かれているか分からないでしょう?」
確かに、アストにはルーンが不可解な文字列にしか見えない。
「それに魔力孔も開いていないから空に魔法陣を描くこともできないはずだわ。これが事前に魔法を修練することの〝無駄が多すぎる〟理由よ」
エレフィーは空に描いていた魔法陣にふうと息を吹きかけて消した。
「魔法文字の理解も、魔力孔の解放や魔力操作も、必死に訓練すれば
エレフィーは指先を操作して、空に様々なルーンを描きつけながら言う。
「それが成人さえ迎えれば〝神様のご加護〟によって自然と手に入る。事前の習得がいかに非効率的か分かるでしょう――って、アストちゃん……? それ、どうしたの……?」
見るとアストは。
会話の途中でこくこくと頷きながらも両手を空にかざしていたかと思えば。
先ほどエレフィーが編んだ〝大賢者の魔法陣〟を。
――見事なまでに
アストは言う。
「ふむ。確かにどれだけ魔力を送り込んでも≪魔法≫は発動しないな」
「まだ職業を授かる前だから当然ね――って! そういう問題じゃないわよ!」エレフィーがたまらず叫んだ。「なんで……〝魔法文字の理解〟も〝魔力孔の解放〟もまだのアストちゃんが、既に
「む? いや、さっき見せてくれた
しかしアストは変わらず。
淡々とした口調で、言う。
「真似しようとしたら――描けた」
エレフィーの目が飛び出た。
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