第12話 気持ちウラハラ
来週から期末考査だ。
今日から午後の授業はない。
試験が終われば夏休み。
高2の夏休みなんて遊ぶためだけにあるんだよなぁ。
俺は2階の教室の窓から校庭をボーッと眺めていた。
昨日はとんでもない日だった。
マンガみたいに、何の前触れもなく身体が縮んじまった。
恐怖のあまりパニックになっていた俺を助けてくれた柚木。
互いに忌み嫌っていたはずだったのに、救われて思いがけずあいつの優しさや温かさ、強さを知ることができた、が。。
俺は正直、戸惑っていた。
今朝、柚木の家から学校まではめちゃめちゃ楽しかったんだ。
もちろん身体が元に戻ってほっとしたのもあったさ。
でも、学校に着くなり我に返った俺。
柚木の隣にいる事に、急に居心地の悪さを感じていた。
昨日まで目も合わさないほど嫌いな奴と仲良く登校?のシチュエーションに猛烈に恥ずかしくなっていた。
校門をくぐる直前、俺の右側を歩く柚木に、ひとことだけ、
「放課後、荷物を取りに行くから」
それだけ言って背を向けた。
振り返らなかったが、柚木が何か言いたそうにしていたのも、出かかった言葉を飲み込んだのにも気づいていた。
気になってるのに、気のない素振りをしちまう・・・・・何なんだろう、この気持ちは。
授業中も教室の左斜め前の席に座っている柚木が気になって仕方がない。
窓からの風に揺れる半袖シャツも、日差しに透けるような頬も。
プリントを後ろに回す手、隣の奴と話す唇、振り向くとき揺れる前髪。
そして胸ポケット。
悪夢も寒さもすべて忘れさせてくれたいい匂いのする俺だけの居場所・・・
って・・・!待て待て!
俺は一体なに考えてんだよ!
「
放課後、俺の妄想をぶち破った女の子たちのダルそうな声。
女の子の声ってこんなにキンキンしていたっけ、うっぜぇ。
「行かねぇよ、来週から試験だろ。勉強しろ、勉強」
「今さら無理ぃ~」
「ねぇ行こうよ!おごる!」
「先約あっからダメ。勉強してこい、単位ヤバイぞ」
「ぇ〰️〰️じゃあ新が教えてよぉ」
「新の部屋に行きたぁい!それなら勉強する〰️」
食らいつくなぁ、早くどっか行けよ。
来ちゃうじゃん。
その時。
廊下を歩く規則的な足音。こっちに近付いてくる。
とっさに俺はデイパックを掴むと騒ぐ女の子たちをおいて廊下に飛び出した。
廊下の先には黒い瞳をまん丸くして俺を見つめる柚木。
俺は柚木の手首を掴むと教室と逆方向の階段に向かって走った。
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