第63話 スカイとメイラ

 私たちの他愛もない会話が目覚ましになったのか、スカイ君のお母さんがゆっくりと目を覚ました。


「う、うう…」


「お、お母さん、大丈夫?」


 シグナ君の力を借りながら、ゆっくりと体を起こすお母さん。


「お母さんお母さん!アース伯爵様がいらしてるよ!」


「…?」


 体を起こしたお母さんはゆっくりと私たちの方に視線を移し、うつろな表情のまま挨拶を始めた。


「こ、これはこれはアース様…スカイの母の、メイラでございます…こ、このような姿で申し訳ありません…」


「いえいえ、何もお気になさらないでください。私たちが勝手に押しかけてしまったのですから」


 優しく穏やかな表情でそう言葉をかけるアース。スカイ君はそのまま、私の紹介に移った。


「それでこっちのお姉ちゃんが、伯爵さまのお嫁さんだよ!」


「エ、エステルと言います!」


 そういう紹介のされ方に慣れていないからか、少し語尾に力が入ってしまう私。そんな私を見て、少し不思議そうな表情を浮かべるメイラさん。亡き伯爵様の妻である彼女は、アースの正体を知っている様子だった。


「まあ、そうでしたか。しかしあの皇帝陛下がよくお認めに…」


「はは…実は父上には、まだ詳しくは話していないんです」


 若干の苦笑いを浮かべながら、そう口にするアース。そうなのだ、私がこれまで何度その話をしても、そのたびにアースにうまくかわされてしまうのだ。…なにか二人の間には、私の知らない秘密の取り決めでもあるのだろうか…?


「お母さん、これ食べてみて!!」


 ついさっき私たちの作ったお料理を、満面の笑みでメイラさんの元へと運ぶスカイ君。


「え?ええ…」


 メイラさんは若干戸惑いの表情を浮かべながらも、いただきますを唱えてゆっくりと食事を始めた。


「…お、おいしい…でもこれ、一体…?」


「僕とお姉ちゃんが一緒に作ったんだよ!」


「ま、まぁ…」


 スカイ君の言葉に驚きの表情を浮かべながらも、食事の手を進めてくれているあたり、仕上がりは良かったようで私は安堵あんどした。

 そんな私の横から、真剣な表情をしたアースがメイラさんに一つの提案をするのだった。


「メイラさん、私からひとつお願いがあるのですが」


「?、なんでしょう?」


 突然目の前に現れた伯爵様からの突然のお願いに、どこかかたくなっている様子のメイラさん。


「このままではお二人のお体が危険です。体調が十分に回復するしばらくの間、我が伯爵家でお暮しになっていただきたく思うのです」


「…」


 アースのその提案は、メイラさん予想外のものだったらしい。彼女は驚きの表情を浮かべたまま固まってしまっている。

 けれど私も同じ心配をしていたから、間を開けずにアースの言葉に続く。


「私も、是非そうされたほうがよろしいかと思います!…このままでは、お二人のお体が…」


 私もアースの所に行って救われた身。だからこそこの二人にも、あのあたたかい場所にぜひとも来てほしく思った。


「行こうよ!お母さん!」


 お料理のおかげで私になついてくれたのか、スカイ君は私の腕をつかみながら私の言葉に賛同してくれた。けれどメイラさんは、どこか申し訳なさそうに口を開いた。


「…でも、本当によろしいのですか?…私たち、お礼できるようなものはなにも…」


 メイラさんの発した言葉に対し、アースは首をやさしく横に振り、返事をした。


「そんなことはいいのです。私はただ、お二人の力になりたいだけですから」


「伯爵様…」


 メイラさんはそう言って少し考えた後、アースの提案を受ける姿勢を示したのだった。


「決まりですね!!」


 なんだかうれしくなってしまった私は、思いのままにそう言葉を発した。これからまた新しい生活が送れそう!!

 …だけど、なにか大切なことを忘れてしまっているような…?

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