第47話 フィーナの覚悟

「フィーナ…どうしてあなたがここに…」


 力なくたたずむフィーナに、まず私が口を開いた。


「私はただ…お姉様に…謝りたくて…」


 …次の瞬間には、私はフィーナのすぐ近くまで近づいて感情を爆発させた。


「ふざけないでよっ!今更何のつもり!あなたたちが向こうで私にどれだけの苦痛を与えたか、忘れたとは言わせないっ!」


「…」


 フィーナは俯いたままで、何も反論などはしない。


「エステル、ひとまず今は彼女の言葉を聞こう!」


 …そのまま私を放っておいたら、手を出してしまいそうな雰囲気を感じ取ったのか、アースが私の肩をつかんで自制を促した。私はなんとか自身の中に燃え滾る感情を抑えつけ、冷静さを取り戻すよう努める。


「…」


「フィーナ様に代わり、私の方からお話させていただきます」


 沈黙を貫くフィーナに代わり、カーサさんが説明を始める。


「実は私は以前より、問題の根源はセフィリア様にあるのではないかと考えておりました。そこで私はセフィリア様とフィーナ様のお二人に近づき、自分なりに情報を集めておりました。…そしてあの日、フィーナ様が私にすべてを告白されたあの瞬間、私の疑いは確信へと変わったのです。…決してフィーナ様を擁護するつもりで申し上げているわけではありませんが、あの環境の中では、フィーナ様はセフィリア様に逆らうことなどできなかった事でありましょう。少なくともその点に関しては、幾分か彼女に対して同情の余地があるかと考えます」


 …信じられない事を次々と話すカーサさん。…まさかフィーナが、セフィリアの操り人形であった、と…


「し、しかし…」


 アースの懸念を察したであろうカーサさんは、それに対してこたえはじめた。


「ですがもちろん、フィーナ様がエステル様に行った数々の行為は、到底許されるものではないでしょう。このまま終わりにしてしまっては、エステル様が納得されない気持ちも大いに理解できます。そこで…」


 ここにいる皆が、カーサさんの続きの言葉に注目する。


「お許しになられるかどうかは、フィーナ様のご覚悟のほどを見極めになられたうえで、エステル様ご自身がご判断されてはいかがかと思うのです」


「…覚悟?」


 カーサさんは、いったい何を言っているのだろうか…?私が理解しかねていたその時、それまで沈黙していたフィーナがようやく口を開いた。


「…カーサ皇帝府長のおっしゃる通り、私がお姉様にしてしまった事は、許される事じゃない…ですけれど…本当に私の勝手ですけれど、今こうしてお母様に立ち向かて戦っているお姉様の姿を見て、私も…お母様の言いなりのままではだめだと、思い知らされましたの…私の言葉に信用なんてないのは承知の上でございますけれど、それでもあえて申し上げます…!」


 フィーナは俯いていた顔を上げ、決意に満ちた表情で言葉を発した。


「…私も、お母様と戦います…!…たとえ刺し違えてでも、お母様と公爵様と戦いたく思います!…せっかくあの時、カーサさんにそう言っていただいたのですから…!」


「フィーナ…」


 彼女のその瞳には、確かに覚悟の意思が宿っていた。…彼女の言いたい事は、とりあえずは分かったつもり…私はひとまず、彼女に自分の正直な思いを伝える。


「…私は、あなた達を許せない…あそこでの毎日は、本当につらいものだったから…だけど」


 私はフィーナのその目を見て、はっきりと素直に伝える。


「…あの人と戦うことを決めてくれたあなたの勇気と覚悟に…敬意を表します」


「お、お姉様…」


 …そう告げた途端、周りの私たちに対する視線がどこか暖かくなった気がした。…せっかくならば、あなたたちのおかげで極められた私の料理スキルを、とことんまでお見舞いしてやろうかと思った、その時だった。


「皆さま!!大変です!!」


 皇帝府長の部下と思われる人が、こちらに向かって走ってくる。そのただならぬ様相に、反射的にアースが対応する。


「どうしました!?なにがありました!?」


 次の瞬間、彼は私たちが想像だにしていなかったことを叫んだ。


「公爵様とセフィリア様が連名で、エステル様に対する告発文書を帝国に提出しました!!!!」

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