天才プログラマー、転生して最強の魔術師を目指す
ウンジン・ダス
プロローグ
林を抜けた先にある小川に向かって数人の子供たちが走っている。
夏の日差しが照りつける季節には小川での水遊びは子供たちにとって最高の遊びだ。
5人ほどの少年少女が我先にと駆け、一番背の低い少年が「待ってよ!」と呼びかける。
しかし、年嵩であろう残りの少年少女にとっては遊びのほうが重要のようで、それに気付かないまま走っていく。
そうした少年少女たちとは違ってひとりゆっくりと歩いて林を歩いて進んでいる赤髪の少女がいた。
手にはどこかで拾ったのであろう小枝が携えられ、鼻歌交じりに自分のペースで少年少女たちの後を追っている。
年の頃は7、8歳と言ったところだろうか。
肩口で切り揃えられた赤毛はねぶるような暑い風に靡いて、額にはほんのり汗が浮いている。若草色の半袖のチュニックの袖で額の汗を拭い、そばかすの浮いた頬は微かに微笑んでいる。
どこか年齢よりも大人びた雰囲気を持った少女は、これから楽しむ遊びに興奮状態の少年少女たちとは違う空気を纏っているようだった。
「置いていかないでよー! ……あっ!」
ひとり置いてけぼりの少年は急いで追いつこうとしてつんのめり、そのまま地面に倒れてしまった。
「うぇ……、えーん!!」
先を行く少年少女たちはそれに気付かず、どんどん先に進んでいってしまう。
後からついてきていた少女はそれを見るなり駆け出し、転んだ少年の元へ駆け寄った。
「大丈夫? ケガはない?」
「う、うん、だいじょ……いたっ!」
手を貸して少年を立ち上がらせると、転んだ拍子で膝と肘を擦り剥いていた。
「もうっ、ジャックたちったら! ハンスを置いてけぼりにしたどころか、気付きもしないなんて」
少女は憤慨したように腰に手を当て、もうすでに遠く見えなくなりつつある少年少女たちを睨み付ける。
「痛い?」
「う、うん」
「ちょっと待ってね」
少女は小枝を放り捨てると、立ち上がらせた少年--ハンスの額に手を伸ばした。
「生命溢れる水のマナよ、その命の輝きをもって彼の者の傷を癒やしたまえ、ヒール」
小さく、けれどはっきりとそう呟くと、少女の掌から水色の光が溢れ、ハンスの額に吸い込まれていく。光が小さくなるに連れてハンスが負った傷はみるみるうちに消えていき、ハンスはぽかんと少女を見上げた。
「どう? もう痛くないでしょ?」
「う、うん」
「さぁ行きましょう。早く行かないと乗り遅れちゃうわ」
「うん!」
少女はハンスの手を取ると、ハンスがついてこれる速度で走り出した。
ハンスも少女に手を引かれ、傷も治り、元気を取り戻したようで明るい笑顔で併走する。
走りながらハンスは頭ひとつ分くらい背の高い赤毛の少女を見上げて、切らした息の合間に言った。
「エルお姉ちゃん、今のが魔術? すごいね!」
「全然大したものじゃないわ。治癒魔術は魔力を持っていることがわかればまず最初に習う基本中の基本よ」
「でもぼくのケガ、あっという間に治っちゃった!」
「擦り傷くらいなら大したケガじゃないわよ」
「でも痛かった……」
「そうね。今度は転ばないように気をつけてね」
「うん!」
すでに林の先が見えている。水音と少年少女たちの歓声。暑い夏に水遊びは最適の遊びだ。もうはしゃいでいる少年少女たちのことを思って少女はくすりと笑みを漏らす。
さて、ハンスを置いてけぼりにして、ケガまでさせたことをどう叱ってやろうか--少女は少し意地の悪い笑みを浮かべてハンスとともに林を抜けた。
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