彼女の言葉がわからない ~最近挨拶が変わった女の子~

砂漠の使徒

1日目

「ダ ガーネ ピュー、セイト!」


「あ……オスト、リーネ」


 僕らの朝はこうして始まる。


――――――――――――――――――――


 さて、今日から気まぐれに日記をつけ始めることにした。

 日々の勉強の成果を記すためにも毎日続けていきたいな。


 まず初めに、ここは異世界だ。

 少なくとも日本ではない。

 だって、言葉がまるっきり違うから。


 ある日僕はこの世界にやってきた。

 どうしてかって?

 そんなの僕もわからないよ。

 目が覚めたら道に倒れてたんだから。

 それからも、苦労の連続で。

 ここがどこかを知ることもできない。

 だって、言葉が違うから。


 もし彼女がいなかったら、いまごろ野垂れ死にしてただろうな。

 彼女というのは、リーネのことだ。

 会話もできない僕を、拾ってくれた心優しい女の子。

 最初に家に入ったときは、猛反対されていたけどそれでも必死に説得してくれていた。

 見ず知らずの人にそこまでするなんて、すごく優しい子なんだと思った。

 それから僕は、この家で暮らすことになった。


 朝は早い。

 この家は農家なので、一日中畑仕事をする。

 僕も少しでも役に立ちたいので、仕事を手伝っている。

 そして、その合間に勉強だ。

 なんのって?


 言葉だよ。

 これがわからなくっちゃ、不便で仕方ない。

 僕は本を読んだり、リーネ先生からいろいろ教わる。

 例えば、挨拶は「オスト」という。

 日本語では、「おはよう」や「こんにちは」みたいなものだ。


 けれど、最近気になっていることがある。

 つい数日前から、リーネが挨拶をしてくれなくなったのだ。

 いや、もしかしたらしてくれているのかもしれないが、「オスト」ではなくなった。

 えーと、たしか「ダ ガーネ ピュー」?

 意味は聞いても教えてくれない。

 でも、すごく笑顔で言っているから「良い一日を!」みたいな意味なのかもしれない。

 早くわかるようになりたいな。

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