第2話
食堂の二階、その日は天文部の新歓コンパで夕方から貸切だった。
様々な大皿料理が並び、缶ビールや缶チューハイが所狭しと並べられている。
「壮観だな」
龍は腰に手を当て、会場となっている食堂を見渡す。
「主役は新入生だからな、分かってるな?」
隣に立っている藤原が頭を抱えながら言った。
「分かってるって、惑星班長!」
「分かってる様に見えないから言ってんだよ、流星班長……」
二人が話していると山下がやってきた。
「新入生は何人来る予定なの?」
「分かってるだけで20人くらいかな」
「そんなに来るのか?」
「まぁ、飯目当てで来る奴もいるだろうから」
藤原がLINEをチェックする。
出席を明言した新入生は既に到着している。
三年以上の先輩達も少しずつ集まりだしていた。
「そろそろ時間じゃね?」
「そうだな。飯田さん、始めましょう」
幹事長である三年の
飯田は頷いて簡単な挨拶をした後、乾杯をした。
集まった新入生は思い思いに料理を皿に盛り、口へ運ぶ。
龍や川部は会場の端の席に座り、チビチビと缶ビールを飲み始めた。
「どうせなら生ビールが飲みたいよな」
「まぁ、良くて瓶しかないからね」
「お前、飯食った?」
「余ったら食べようかな」
「だな」
「龍ちゃーん!」
急に名前を呼ばれて振り返ると、四年の
彼女達はこの大学の生徒ではなく、近くにある不知火女子大学に通っている他大生だ。
しかし、天文部は他大の生徒であっても、その大学に天文部がない場合は入部が出来る。
どのような経緯でこの二人が天文部に入ったのかは分からないが、立派な部員である。
「あきさん達、間に合ったんですね」
「めっちゃ急いだよー」
「つっても、私達今日は授業なかったんだけど」
「えー、ズル」
「てか、ご飯食べないの?」
「いやー、主役は新入生だって藤原に釘刺されて……」
「こんなにあるんだから大丈夫だよ」
そう言って佐竹と金田は料理の方へと向かった。
「こういう時は女性の方が強いよな」
「うん」
それを見送った龍と川部だが、四年の先輩に川部が突然拉致され、連れていかれた。
「人気者は大変だな」
「龍ちゃん、食べてないの?」
顔を赤くした藤原が料理をてんこ盛りにした皿を片手に現れた。
「お前、もう出来上がってんのか……?」
「食べなよ、龍ちゃん!」
先程まで川部が座っていた龍の隣に藤原が座る。
「主役は新入生だって言ったのお前だよな……」
「カンパーイ!」
龍は頭を抱えながら溜息を吐いた。
「何々?楽しそうだね」
三年の
こちらも既に顔が赤く、出来上がっているようだ。
「俺じゃなくて新入生に絡んでくださいよ」
「僕、シャイボーイだから無理」
「酒飲んでまでシャイボーイ気取らなくていいですって」
「酔ってないよ、僕」
「酔っ払いはみんなそう言うんです」
「北野くん、酔っぱらってんの?」
料理を取ってきた佐竹と金田が龍の前の席に座る。
「龍ちゃんの分ね」
「あざーっす!」
「え?なんで僕にはないんですか?」
「北野くん、自分で持ってるじゃん」
「僕もあきさんにあ~んして欲しい!」
「話が飛躍してる!?」
「え?違うの?」
「俺が食べてないからわざわざあきさんとヨッシーさんが取ってきてくれたんです」
「ふーん」
北野は龍の言葉を聞き流しながら、龍の皿の料理を食い始める。
「何なんだよこの人……」
「ここまで来ると恐怖だよ……」
「ほら、北野さん。新入生ナンパしてくるんじゃなかったんですか?」
「シャイボーイだから無理です……」
相変わらず、シャイボーイアピールをする北野。
「そんなんだから、童貞なんじゃないの?」
佐竹のその一言に龍と藤原が噴き出した。
流石に酒を溢す事はなかったが、それでも二人はむせかえっている。
「え?違った?」
「俺からはノーコメントで……」
「右に同じく……」
佐竹と金田の視線を受け、龍と藤原は口ごもる。
実際、龍も藤原も北野の事は童貞だと思っていた。
それは佐竹や金田と同じ。
何とも言えない『童貞臭』を北野から感じていたのだ。
「いやー、絶対童貞でしょ」
金田が追い打ちをかける。
エグ過ぎて北野が気の毒になる。
「まぁ、童貞ですよ」
北野は開き直った様に胸を張りながら言った。
酔っ払っているせいで何でもありになっていた。
「認めるんすか!?」
「いや、間違いじゃないし」
「恥じらいは!?」
「どうせあきさんとかヨッシーさんにはバレてるんだし、いいかなって」
ある意味潔いのだが、それでいいのだろうかと心配になる。
「なんでそう言うとこだけ思い切りがいいんだ……」
「つかさ龍ちゃん、どうやったらエッチできるの?」
「はぁ!?」
予想の斜め上をいく質問だ。
完全な不意打ちで思わず面食らう龍。
「いや、僕だって彼女は出来た事あるんだけどさ、エッチとかの前に振られちゃうんだよ」
「そう言う事は俺じゃなくてあきさんとかヨッシーさんに聞いて下さいよ……」
溜息混じりに餡掛け焼きそばをすする龍。
「それって、付き合い始めてすぐ振られるって事?」
佐竹が缶チューハイを飲みながら言った。
佐竹も金田も、割とそういう相談には真面目に答えてくれるタイプの様だ。
「まぁ、多分……」
「魅力ないんじゃない?」
金田の鋭利なツッコミが北野を襲う。
「痛烈過ぎません……?」
龍も思わずそう言った。
「魅力か……」
「真に受けてる……」
金田のツッコミを真に受ける北野に呆れる藤原。
「僕の魅力って何?」
「俺に聞かないで下さい……」
龍の顔を覗き見ながら北野が訊ねてくるが、部活のみの付き合いで北野のプライベートなど知らないし、知りたいとも思わない。
「待って、龍ちゃんは童貞じゃないのか」
ここで思い出した様に北野が言った。
その言葉に佐竹と金田は軽く笑う。
「いやいや、龍ちゃんはどう見ても童貞じゃないでしょ」
「そうそう、童貞臭皆無じゃん」
ケラケラと笑う佐竹と金田。
やはり、女と言うモノは男を的確に見抜くものだ。
「てか龍ちゃん、絶倫なんでしょ?」
金田のその一言に龍、北野、藤原が同時に噴き出した。
「何の話!?」
龍は目を白黒させながら咄嗟に辺りを見回し、他に誰も聞いていない事を確認する。
「藤が言ってたよ?」
飄々と答える金田。
「お前ぇぇ!」
「俺は知らない……」
藤原はそう言い残すと、缶チューハイを咥え、皿を持ってその場を逃げる様に去る。
「絶倫なの、龍ちゃん」
純粋な目を向けてくる北野。
佐竹と金田もニヤニヤと笑っている。
「めんどくせーなアンタ等!!」
三人が先輩である事を忘れ、龍は赤面しながら言った。
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