女子高生のお嬢様付き執事として就職した俺だが、なぜか異常に愛されてる
鎔ゆう
Epi0 序 執事とお嬢さま
ついにこの日が来た。
途中何度か誓約内容を変更しながら、ずっと耐えて耐えて耐え抜いてきたのだ。
愛らしい笑顔。魅惑的な姿態。どこを取っても出来過ぎなお嬢様。弩級の変態であることを除けば。弩級の変態は欠点だけど、それを補って有り余るレベルだったんだよな。
「直輝、来て」
「葉月」
両手を広げてベッドの上で誘うのは俺が仕えるお嬢様だ。
至福の瞬間を迎えようとしている。でも関係性は、お嬢様に仕える執事と主でしかない。いやいや、執事とお嬢様って、あり得ないだろ。
「俺は今も葉月が本命じゃない」
「あたしは気にしない」
「本当にいいのか? 俺が相手で」
「直輝以外は要らない」
どこまで惚れ込まれたのか。俺には他に心に決めた相手が居た。その女性と初めて接した時は、そこまで本気になるとは思っていなかったけどな。
けど、すぐに落ちたんだよ。
四つ年上のその女性の所作、姿態、そして何よりエロい。尻の揺れ具合が堪らんかった。
「直輝。今はあたしだけ見て」
「バレたか」
「バレるっての」
鋭いんだよなあ。他の女のことを考えてると、すかさず突っ込んでくる。
名門お嬢様学校に通う高校二年生の女の子。
それが出会った時の葉月だ。すぐに三年に進級したけど。
そこらの共学じゃない。偏差値だけで見れば上はいくらでもあるけどな。お嬢様教育を徹底するのが女子高である、お嬢様学校だ。
そもそも共学校に通うお嬢様など居ない。そんなところに通ってるのは、なんちゃってお嬢でしかない。箱入りってのは男子の手垢に塗れてないのだから。
だからと言って性欲が無いわけじゃ無いんだよな。
そこは、むしろ興味津々。ひと皮剥かずとも実に性欲旺盛な変態淑女だった。
求人募集には職務内容が記載されていなかった。だが、食うに困る状態で就職浪人状態だったこともあり、葛藤しつつも応募したら見事面接に漕ぎ着けた。
そこで職務内容を知らされ仰天するも、食うために契約して今に至る。
「もう一度確認だ」
「要らないってば」
「必要なんだよ。葉月は自分で思ってるより、遥かに
「そんなのどうでもいい。直輝がいい。直輝じゃなきゃイヤ。直輝だけがあたしの支えなの」
俺の胸元に頭グリグリ、太ももで股間をグリグリ。全身で葉月を感じる。
この惚れ込みよう。
葉月付きの執事だよ? 本来あってはならないケースだろうに。
旦那様も奥様も頭おかしい。どこの世界に執事如きに娘とやれ、なんて言う親が居る。
高校卒業して晴れて大学進学となり、葉月にも自由が与えられた。
好きな奴と好きなだけやりゃいい。頭沸いてるとしか思えなかったが。
「ならば確認は以上だ。俺も我慢の限界だし」
「あたしも。溢れてるんだよ」
「いや、まあわかるんだけどさ」
「ちょうだい。直輝の全部」
いやあ、いい会話だよなあ。愛されてんな俺。なのに俺の心は葉月以外に向いてる。だからって葉月が嫌いなわけじゃない。むしろかなり好きになってる部分もある。揺れ動くってのが現状を表してる。
やっぱ一年も付き合ってると情が移るもので。
「また他の人のこと考えてる?」
「いや、葉月との一年を思い起こしてた」
「じゃあ早くちょうだい」
我慢ならん。いただく。いや、いただきます。
世の中にはセレブ、と呼称される存在が居る。
これには成金と由緒正しいものが混在していて、マスコミが取り上げるのは前者だ。
タワマンの最上階を占拠し人を見下す存在。似非セレブとも言える成金。
由緒正しいセレブはタワマンなんて、安普請の建造物をメインの住居に構えない。
そもそもタワマンなんてのは投機の対象でしかない。住む場所じゃないんだよ。立地条件の良い物件を所有し、賃貸または転売して利益を得るものだ。
見栄っ張りの田舎者が借りてくれるからな。
では由緒正しきセレブとは。
閑静な住宅街に居を構える存在。土地を所有し昔から居住してる。他所から来てでかいツラする紛い物とは違い、表、つまりマスコミなどで顔を晒すこともまず無い。その理由なんてのも考えるまでもない。
マスコミに取り上げられて、いい気になってるのは似非だからな。
まさかそんな本物のセレブ、しかもセレブ中のセレブのご令嬢付き執事に。
知れば知るほど、マスコミを通して見たセレブとの違いを実感した。
しかも形容しがたい程に愛らしい存在だし。
普通なら惚れてしまうが、弩級変態だったことで、思いっきり引いたってのもあった。もし俺のイメージ通りのお嬢様なら、間違いなく惚れ込んだと思うんだよなあ。
葉月、言わなかったが、その点で猛烈に損してるぞ。
「直輝。もっと」
「おかわりはないぞ」
「駄目。一年待ったんだから」
「なんて奴だ」
まさかの二回戦。いや、想定してた。性欲旺盛な葉月だから。
それに応えられる俺もまた旺盛なんだよなあ。なんだかなあ。
執事の仕事ってのもイメージとはずいぶん違った。
フィクションだと、どこでもリムジンで送迎し、タキシードを着た執事が「お嬢様、到着いたしました」なんて、ドアを開けて会釈してる描写がほとんど。
でも実際は違う。
TPOを弁え目立つ行動はしない。その理由はいずれ。
「直輝。まだできそう?」
「無理」
「嘘だ。まだできるよね」
「マジかよ」
三回戦目に突入した。こいつ底無しだよ。
なあ、そろそろ打ち止めなんだけど。
ああそうだ。体術も身に着けてる。いざという時のために。
ただし、相手を制圧することが目的じゃない。あくまで逃げるため。
フィクションでは制圧するシーンが多いが、実際は違う。まず保護対象の安全確保が最優先だ。保護対象を放ったらかして、殴り合いしてどうするんだっての。お前は逃げろ、俺が食い止める。なんてのも無い。保護対象から離れてどうするんだっての。
演出とは言え、現実とはずいぶん違うんだなと。
こいつ、すっきりした顔しやがって。頭を撫でてやると甘えて抱き着いてくる。
でも、本当にこれで良かったのかはわからない。葛藤してきた。執事という立場。仕えるべき主。手を出していいはず無いんだよ、本来であれば。
身分制度なんて無い、平等だ、なんてのは所詮きれいごとでしかないからな。
とんでもないことを仕出かした。
後悔はしないつもりだったけど。
腕の中に居る存在の相手に相応しいとは思ってない。
いざ、事が済んで冷静になると。
「やべえ」
やっちまったよ。
そんな俺と葉月の出会いは一年前に遡る。
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