第1話 ①

 明るい日差しがさんさんと輝く早朝。

薄いピンクの花をいっぱいに咲かせた桜の木々が、誇らしげに並ぶ川沿いの道。

日中は花見客でいっぱいになるこの通りも、今は閑散として人っ子一人いない。

 

 そこに漆黒の長い髪を後ろで一つに束ねた青年が、1人歩いてきた。

彼は次期閻魔にして、現閻魔の一人息子。

名前を慈炎じえんといった。

人間のことを学ぶため、従者とともに人間界に来ていた。

 慈炎は見事な桜に目を向けるでもなく、鋭い目線でただ前だけを見据えてズンズンと進んでいく。

慈炎がカンっと昨日の花見客が置いていった空き缶を蹴り上げたとき、パラパラっと頭上に水滴がいく粒も落ちてきた。


こんないい天気なのに雨?


疑問に思い空を見上げた瞬間、2メートルはあろうかという大きな水の塊があっと言う間もなく慈炎目がけて降ってきた。


バジャーーン!!!!!


「うぉっ!!!」


慈炎は水圧に耐えきれず地面に倒れこむ。

水がやみ起き上がった慈炎の目の前には、青い、まるで川のように長くウェーブした髪の女が倒れていた。


「え、お、女の子……?」


叩きつけられた水の痛みも忘れて、慈炎はピクリとも動かない女を覗き込む。

よく見ると、胸が微かに上下していて息をしていることがわかる。


生きてる……


とりあえずほっとして、慈炎はまじまじと女を見下ろした。

肌は白く、陶器のよう。

服は淡い水色でフワフワとし、まるで水のように波打っていた。


人間の女の子にしては、なんか服が変……?

それに人間独特の気配も感じない。

この子はいったい何者なんだろう。

人間だったらここで救急車とやらを呼んで病院に連れて行ってもらうのがいいのだろうが、この得体のしれない少女を人間の病院に連れて行ってもいいのだろうか……


慈炎は地獄で習った人間界のことを思い出しながら考えをめぐらす。

そして意を決したように女を抱え上げると、びしょびしょの服のまま歩き出した。

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