出雲

「ここも国道外れて寄り道するで」


 浦富海岸入ってからも海岸線を走ることにしたわ。そうそう、インカム調整してマイとも話しできるようにしといた。


「コトリはん、鳥取は」

「悪いがパスや」


 悪いけど鳥取ごとパスや。今日は島根の三瓶山まで行かなあかんからな。


「コトリ、お昼はどこら辺になる」

「そやな、松江ぐらいになりそうやな」


 松江も美味しいもんはいっぱいあるけど、


「美味しい出雲そばがイイな」

「マイもそばがエエ」


 松江まで快走して、蕎麦屋はどこがエエかな。コンビニの駐車場で作戦会議。参考にしたのは出雲ソバリエの会。ソムリエをもじったもんやけど、


「この店はどう」

「良さそうやな」

「マイも賛成」


 えっとやな。お城の外堀の東側やけどナビやったら松江新大橋渡るんか。


「宍道湖大橋でもイイじゃないの」

「混んでるみたいや」


 もう一個橋を渡って左折か。突き当たって右折して、次の交差点を左折やな。県警本部があって、次は松江署かよ。警察通りみたいやな。突き当たって今度は右折か。


「あの店じゃない」

「みたいやな」


 店の前でもコトリたちのバイクは停めれるけど、マイのはさすがに邪魔やな。


「店の裏が駐車場みたいだよ」


 さすがに混んでるな。ちょっと待ったぐらいで座れてラッキーや。さて何にするかやけどマイは、


「千鳥割子」


 美味そうやもんな。ほなら、


「コトリは千鳥割子に、おむすびとたまご焼き」

「わたしは天ぷらざるそばにおむすびとたまご焼き」

「鴨のオイル焼きにマイタケの天ぷらも頼むわ」


 マイは変な目で見とったわ。まあ、エエやんか。せっかく来たんやから、これぐらい食べんとな。おもろいな割子そばとざるそばで麺がちがうんか。


「ざるの方がつるっとしてるかな」

「割子のザクっとした感じも悪ないで」


 腹八分ぐらいにしといて、後は三瓶山に走るだけやな。そしたらマイが、


「出雲大社は寄らへんの」


 行きたいんか。若い娘やったら気持ちはわかるけど、


「今日はパスの予定やけど」

「そうなのよ今までご利益なかったから」


 するとマイが、


「それはアカンで。ここまで来てお参りせんかったら死ぬまで祟られるで」


 ピクッと反応したわ。縁結びの神様に祟られたらホンマに縁が無くなってまうやんか。


「コトリは関係ないじゃないの」

「あるに決まっとるやろが」


 予定より早めに来とるから時間はあるよな。いんや、時間があろうがなかろうが絶対に寄っとかなあかん。松江の市内抜けて、宍道湖の北岸をひた走って出雲大社や。参拝した後にユッキーが閃いたように、


「これまでご利益が無かった原因がわかった」


 なんだって!


「縁結びグッズを買いそろえなかったからよ」

「そやったんか」


 いっつも接待やんか。そこで縁結びグッズの蒐集に血眼あげられへんやん。


「さすがに見栄があるものね」


 そういうこっちゃ。まずは出雲神社の売店で、


「まずは縁結びのお守りをゲット。それに縁結びの糸に、縁結びのストラップに、幸せの鈴の大」

「縁結びの絵馬もかけよ」


 さらに神門通りの土産物屋さんで、


「縁結びのベアブリックがある」

「糸より強力な縁結びの紐があるで」

「縁結びのかまぼこは絶対よ」

「恋の甘方薬は絶対に効くはず」


 こんだけやったら男が来てくれるはず。コトリの夢の初結婚や。初めて籍が汚せるし、苗字も変えるんや。夫婦別姓なんてクソ喰らえや。これも誤解せんといてや。夫婦別姓で結婚してる連中は否定もなんもしとらへんからな。


 コトリは古臭い、ありきたりの昭和の結婚をやりたいねん。そりゃ、五千年もお預け食ってる初婚やで、出来たら処女で初夜を迎えたいぐらいや。それは無理やけど。


「その前に男よね」


 ほっとけ。


「それに年取り過ぎよ」

「うるさいわい」


 とにかく五千年も女やっとるのに一回もあらへんのよ。


「ついでだから初離婚もやったら」

「縁起でもないこと言うな。添い遂げるもやったことないんやで」


 ユッキーは大聖歓喜天家の教祖時代にやっとるからな。


「そうよ子どもも産んでるし」


 く、悔しい。なんも言い返せへん。


「あのぉ、聞いてもエエか」

「なんや、マイ」


 ああそうや、コトリもユッキーも独身やし彼氏さえおらへん。


「まさか二人は出来とるとか」


 ちゃうわい、


「コトリが欲しいのは男で、女に興味はあらへん。マイはどうなんや」

「一緒や」


 マイも余裕で美人やと思うけど、なんで誰も声かけてくれへんねやろ。結婚は置いといても旅先のアバンチュールはあってもエエやんか。


「そうよね、見る目がないのかしら。マイもそう思うでしょ」


 するとマイは、


「アバンチュールはパスやけど。寄って来いへんと思うで」

「なんでやねん」

「どうしてなの」


 マイは呆れたように、


「あんだけ大食いしてるんを店で見たら引かれるし、こんだけ縁結びグッズ買い漁ってる女も引かれるで」


 その通りや。

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