いざ出発
やっと休みが取れたわ。ホンマに働かざる者、食うべからずの世界やで。ポーアイから港島トンネル抜けて新神戸トンネルに行くんやけど、
「ナビも困るね」
「ホンマやで」
新神戸トンネルは阪神高速の管理になってるんやけど、高速でも自動車専用道やあらへんから原付も走れるんよ。そやのにナビでは高速扱いやねん。つまりは条件で高速不可にしたら別の道に誘導してまうねん。
「ホントに原付の事を考えてないんだから」
渋滞が嫌やったから今日も六時半出発やねん。ボチボチ休憩取りながら箕谷IC下りたら岩谷峠越え、これも結構な峠やねん。そっからは丘陵地帯をひた走って社から福崎に出て、そこからひたすら北上、十時半には日高まで来れた。
「この辺って但馬国府のあったとこよね」
国分寺もあったさかい、古代の但馬の中心地やってんやろ。今は北の豊岡に合併されてなんもあらへんようなものやけどな。
「出石のそばは寄らないの」
「まだ開いとるかい」
他人のこと言えへんけどユッキーも食いしん坊やからな。豊岡はさすがに混んでるな。円山川が見えて来たからリバーサードラインやな。玄武洞の渡し船の乗り場が見えて来たから、
「道の駅に入るで」
「らじゃだけど道の駅じゃなくて海の駅だよ」
ホンマや。まあ似たようなもんやろ。時刻もエエぐらいや。レストランは十一時開店やったはずやねん。まあこの手の道の駅とか、海の駅は助かるねん。駐車場は広いし、下手な土産物屋より充実しとるし、値段も良心的や。そりゃ、掘り出し物を言い出したらキリがあらへんけど、それなりのもんは手に入るさかいな。
「田舎に行くとファミレスもコンビニも少なくなるものね」
都会におったら、歩いて次のコンビニ行けるけど、田舎じゃそうはいかんとこも多いんよ。そんなことはともかく腹ごしらえや。
「いよいよね」
「城崎抜けたら但馬漁火ラインや」
但馬漁火ラインやけど、なぜかマップの上やったら東にも伸びとって県道十一号で京都との県境までになっとるねん。そやけど、その辺は海も見えへんとこになる。そやからせいぜい円山川の港大橋ぐらいからと勝手に思てるわ、
「瀬戸の交差点を左や」
「但馬漁火ライン突入♪」
ユッキーの感覚が正しいわ。.そんな細かいことはともかく、こりゃ気持ちのエエ道や。
「高知の黒潮ラインや愛媛の夕焼け小焼けラインとはまた違うね」
あっちも良かったけど、どっちか言うたら爽快なシー・サイド・ツーリングやった。そやな、だいだいまっすぐの感じで走り抜けてくぐらいや。あれはあれで気持ち良かったけど、こっちはリアス式の多彩な海岸線の変化を楽しみながら適度なワインディングを走って行くぐらいや。
「あれが竹濤ね」
竹野の浜を見ながら一服したんは昔から有名な店を見たかったからやねん。カニ料理の名店でもあるけど、砂浜に建ってるんよね。正確には砂浜の中の岩盤の上やそうやけど、
「昭和からあるよね」
「ドライブガイドに必ず紹介されてたわ」
竹野の町を抜けて、あのトンネルやな、
「ユッキー停まるで」
「えっ、もう」
この辺は奇岩ばっかり続くようなとこやけど、
「あれが、はさかり岩や」
「ホントだ」
元は岩の間にトンネルがあって、その天井部分が崩れ落ちたとなっとるが、見事に岩が挟まってるのがこの岩や。
「それと半島の方、見てみいな」
「洞窟があるね」
「淀の洞門や」
あそこは淀の大王率いる鬼の集団が棲んどって、出雲に帰る途中の素戔嗚尊に退治された伝説が残っとる。
「それっておかしいよ」
まあな、素戔嗚尊は母のイザナミに会うために根の国に行こうとしてイザナギの怒りを買うんよ。それでも行くと決めたスサノウは別れの挨拶のために姉のアマテラスに挨拶に行ったんや。
「でも乱暴者のスサノウが来たって大騒ぎになって、アマテラスは天の岩戸に隠れ、スサノウは高天原を追放になったじゃない」
古事記やったらスサノウは出雲に下り、日本書紀やったら新羅経由で出雲やから、こんなとこに立ち寄ってへんのよね。まあ神話の時代の話やからこだわるようなもんやあらへんけどな。
佐津から柴山通って今子浦や。ここも綺麗なとこやねんけど、こんなことが北前航路として栄えとった時期があったんよな。河村瑞賢が西回り航路を開拓した時に柴山を停泊地にしたんよ。
柴山は湾の奥まったとこにある天然の良港やねんけど、奥まり過ぎて出入りが少々不便やったらしい。まあこの辺はお役所仕事もあったとなっとる。そこで半島一つ越えた今子浦も使うようになったんや。
ただしやけど北前航路の黄金時代には衰えてもたでエエやろ。船が大型化し、経済性から航海期間の短縮が求められる時代になったんよ。航海術の進歩は目覚ましうて、瑞賢の時代の停泊港をバンバン飛ばすようになって、敦賀でさえ衰えたとなってるぐらいや。柴山も今子浦も停泊港から避難港になってもたぐらいや。
「だからなんにも残っていないのね」
「寄るほどの魅力があらへんしな」
香住抜けたら、ほうら見えて来た。
「余部鉄橋だ・・・あれ? 鉄橋じゃないじゃない」
「だ か ら、百年前に架け替えとる」
そやけどコトリもユッキーも鉄橋時代を知っとるけどな。ほう、ここは空の駅って言うのか。エレベーターで上がれるのは嬉しいな。
「見晴らし最高!」
それでもコトリの前の鉄橋の方が好きやな。あれは明治の末に出来とるさかい趣があったんよ。列車転落事故があったから架け替えたのはしゃ~ないけど、見栄え的には鉄橋の方が絶対上やもんな。
「浜坂着いちゃうよ」
「お楽しみはこれからや」
この川、岸田川って言うのか、この川沿いの道を行くと、海に出るやろ、そのまま行くと、
「遊覧船だ!」
「海から見いひん手はないやろ」
すぐ乗れたけど可愛い遊覧船やな。回ってくれるのは但馬御火浦で天然記念物や。遊覧船出来る前は漁師しか見れへんかった絶景らしい。
「見て見て、底がガラス張りになってるところもあるよ」
どれどれ、グラスボートにもなってるんやな。遊覧船は東に行くみたいや。まずは鬼門崎か。浜坂から見たら北東にあるからな。次が竜宮洞穴やけど言われてみれ竜が昇ってるように見えるよな。
「獅子の口って、獅子と言うより」
「松葉ガニ」
三尾大島って、
「水上版の玄武洞だね」
「それよか、岸のあんなとこで釣りやってるで」
「なにが釣れるんだろう」
三尾大島から回り込んで下荒洞門やけど、
「うわぁ、入っていくよ」
「通れるんやな」
だから遊覧船もこのサイズなんか。次に見えるのが鋸岬と旭洞門か。でっかい洞門やな。鋸岬を回って、
「また入るよ」
「釣鐘洞門って言うらしいけど」
うひゃぁ、奥は遊覧船がターン出来るほど広いんか。これは乗った価値あったわ。陸からやったら絶対見れへんもんな。お~い、ユッキーなにしてるんや。
「船の底の窓に見えてる魚が今夜の夕食になるのかなって」
「今泳いでるってことは今晩には絶対出るかい」
じっくり堪能して浜坂温泉や。
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