ジャンボ・フェリーの出会い
六時のフェリーですから四時起きしてフラワーロードを浜に向かって走ると、
「ここだな」
「そのようだな」
着いたのは三宮フェリーターミナル。ここからジャンボ・フェリーに乗って高松に向かいます。乗船手続きを終えて案内されてフェリーの中に。
「綺麗だな」
三階が土産物売り場とか軽食コーナー、椅子席みたいなものがあり四階が、
「雑魚寝エリアのようだな」
「一時からの便もあるから仮眠室だろう」
五階にも雑魚寝エリアみたいなものがり、奥はゲームコーナーです。五階の雑魚寝エリアの一角に居場所を確保しました。
「おい、笹岡」
原田に言われた方向に振り向くと若い女性の二人組。それもトンデモなく美人。思わず見惚れていたら、その一人がこちらの方に来て、
「こっちは空いてるか」
ボクたちの隣に入って来たのです。
「あんたらもツーリングか」
見ればわかりますよね。彼女たちも、どう見てもツーリングです。
「コトリや」
「ユッキーよ」
背が少し高い方がコトリさん、少し小柄な方がユッキーさんです。聞いていると今日は祖谷に行くようです。原田が目配せして来たので、
「ボクたちも行くつもりだったんですよ」
こんなチャンスを逃してなるものかです。そこからスナック・コーナーで一緒に腹ごしらえ。高松までは五時間近くかかりますから、話も弾み、一緒にツーリングをするところまで持ち込めました。
「ユーチューバーやってるん」
売れないですけどね。見せて欲しいと言われたので、見てもらったのですが、
「絵は本格的やな」
「でも、これじゃ・・・」
評価は辛かった。
「気悪したらゴメンな。頑張って作ってるけど、あんまり見たい気がせえへんねん」
「技術は良いと思うけど、小綺麗にまとまってるだけ」
グサッ、面白みが乏しいの指摘はコメントでもあります。工夫はあれこれしているつもりですが、
「無理やりの悪ふざけよね。笑いを取るのは一つの方法だけど質が低すぎる」
「そうや、人を笑わすのは簡単やない。悲しませるより、よっぽど難しいねん。こんな雑な素人芸で笑いを取れると思うのは甘すぎるで」
さすが笑いの本場、
「ユーチューブでもなんでも同じや。他人様からゼニをもらおうと思たら、それに相応しい対価を見せなアカンってことや」
「払う価値がないものは見ないよ。そういう自分の趣味だけのユーチューブもあるけど、それで食べられる人はいないってこと。売れるのはプロの芸」
うぅ、言い返せない。
「ユーチューブなんてローコストでハイリターンを狙う商売でしょ。でもね、そういう商売の方がよりクオリティが求められるのよ」
「そや、ローコストやからロークオリティで満足してくれへんねん。いかにローコストでクオリティの高いもんが作れるかの才能の競い合いみたいなもんや。趣味でやるならかまへんけど、ユーチューバーとして食っていきたいのやったら、やめた方がエエ」
た、たしかに。ここでコトリさんがニコッと笑って、
「ほいでも可能性はあるで。絵作りが綺麗や。なかなかこの水準のユーチューバーおらへん。編集能力も悪くあらへんからな」
「そこは認めてるよ。でも、それだけじゃ売れないってわかったでしょ。この上に、どれだけの才能をつぎ込んで、どれだけ汗をかけるかよ。そこが足りてないの」
いわゆるプラス・アルファが足りないのは自覚していますが、それは一体何なのでしょうか。
「そんなもん人によってちゃうわい。勝ち組になってる連中かって、すんなり掴んだわけやない。試行錯誤の末に、自分だけのユーチューブの世界をつかんだんよ」
「だから後からマネしても追いつけないでしょ」
それはわかる気がします。ボクも人気モト・ブロガーのマネから入りましたが、出来上がりが全然違います。まさしく似て非なるものとはあのことです。
「ユーチューバーかってアーティストや。横文字で言うより芸人と言うた方がシックリすると思うで、お笑い芸人かって劇場の観客を爆笑させるけど、大爆笑を取れるのは限られとる」
「そうよ。そういう芸人は人マネじゃなれないの。自分の芸を確立させてるのよ。東京の人にもわかりやすいように言えば、同じお題の落語でも、落語家によってあれだけ変わるでしょ」
そこから、
「ホンマはどこ行く気やってん」
えっと、えっと、
「そりゃ、祖谷に」
「どこに泊まる予定なの」
そ、それは行って考えて、
「ほんじゃ、どうやって祖谷に行くつもりや」
正直に今日のプランを話すと、
「うどん屋からあかんな」
「讃岐うどんを紹介するのでしょ。わら家は不味くないけど、あの店を紹介しているようじゃダメだよ。誰も見ないよ」
するとコトリさんがニコニコしながら、
「こうやって知り合ったんも何かの縁や。ちょっとだけ手伝ったるわ。エエやろユッキー」
「そうね、旅は道連れだし。その代わり・・・」
コトリさんとユッキーさんに出会ったことは伏せて欲しいと頼まれました。
「バレるとうるさいんよ」
「そうなのよ。その代わりに今日の宿は任せておいてね」
彼氏でもいるのかな。
「まあ手伝う言うても、コトリもユッキーもユーチューバーやあらへん。一緒におって何か感じるものがあったらラッキーぐらいに思てな」
「そう、やることは一緒にマスツーするだけ。それで感じるものがあったら嬉しいぐらいかな」
二人がお手洗いで席を外している時に、
「原田、何者だろう」
「悪い人ではなさそうだ。一緒にツーリングして損はないのじゃないか」
コトリさんたちの提案に従って、今回の取材は無しにしました。
「あんな美人とツーリング出来るだけでもラッキーだよな」
「東京でだって見たことないよ」
これから何が待ってるのでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます