性癖《スキル》をぶち撒けろ!【巨乳】【スライム】
体勢は完璧だった。場所も身体のど真ん中に叩き込んだ。そして、陽彩に憑依したおかげでキックはいつにも増して威力があった。
なのに、どうして。
「一体何が……!?」
起きたことが理解できない。
どういうわけか、私は弾き飛ばされれていた。
私が攻撃したはずなのに。これ以上にないくらいの不意打ちを決めたはずなのに。
なんの因果があってスライムに押し負けなければならなかったのだろうか。
止まない疑問は頭の中を延々と巡る。しかし、地面へ身体を
顔を上げると、目の前には黄緑の塊が──
「ぷにぃ!!」
反撃。
スライムの体当たりがお腹に突き刺さる。
「ぐぶぇっ!!」
雷に打たれたかのような衝撃。重く、鈍く、耐え難い痛みが一瞬で全身を駆け巡る。
それはまるで強烈なタックルをかまされたよう。勢いに抗えずにはっ倒され、そのまま蹲ざるをえない。
痛みで呼吸がままならない。胃がひっくり返りそうなほどの吐き気を催し、冷や汗が額を伝う。泣きそう、でも涙は出てこない。今までのVRで感じたことのないリアルな感触が私を襲う。
普通のVRでも痛みは感じる。しかし、大概のゲームでは痛覚マスキングがかかり、プレイヤーに過剰な刺激が及ばないよう調整をされているもの。
しかし、このゲームに制限なんてものは一切ないらしい。イッちゃいそうになるほどの快感も、死にそうなほどの痛みも、生々しいほどリアルに感じられる。夢のようで地獄のような仕様ということだ。
そんな地獄の真っ只中にいる私はダメージに耐えきれず、陽彩の口から情けない呻き声が漏れ出てしまう。浅く不規則な呼吸が喉を鳴らし、時折吐息の中に意図せず彼女の可愛い声が混じる。
もはや喘ぎ声だ。扇情的な声はとてもえっちで、目を瞑れば本当にそういう音声を聞いているかのよう。
自分のそんな声は汚いだけだから聞けたもんじゃないが、この子の有名声優さんばりの美しい声はいつまででも聞いていられる。
憑依して可愛い子の身体を乗っ取るってやっぱりいい。とてもいい
そう思うと、あのスライムにも感謝を……。いや、できるわけがないわ。
冷静に考え直せば、陽彩のえっちボイスを回収できたのは収穫だけど、それでは痛みの分に足りない。逝きそうになってんだから、イキそうになるくらいじゃないと釣り合わない。
スライムは既にどこかへ去ろうとしている。その足取り──足なんてないけど──は心なしか軽く、バチュッと跳ねる音もどこか満足気。
まるで一仕事終えた達成感に溢れているかのようで、それがどうにも気に入らない。
「まだ終わってないっ……!」
歯を食いしばり、再び私は立ち上がる。まだ戦えることをアイツに証明するために。
痛みを押し殺してなんとか立てたものの、向こうは私のことなどお構いなしに離れていく。
こんのぉ……舐めやがってぇ……!
『お前なんぞもう興味はない。見逃してやるから尻尾巻いて逃げるんだな』とたかがスライム風情に言われているようで、めちゃくちゃ頭にくる。
絶対逃がさない。生きて帰してやるものか。執念でスライムを追いかけた。
そして、拳でぶん殴る。
「ざけんなこの、緑玉がッ!!!」
怒りと勢いを込めたパンチ。
それはスライムを貫く──ことはなかった。
またしても攻撃はボインと弾かれ、私は後ろにのけ反ってしまう。
スライムは柔らかな身体を小さく震わせながら、力を溜めるように縮こまった。
「ぷにぃー!!!」
しまった。これではさっきと同じじゃないか。
しかし思った時にはもう遅く、またしても突進がお腹の弱いところを殴りつける。
先ほどよりも強烈な一撃。その勢いに負け、私は仰向けに転がされてしまった。
スライムはズチュズチュと卑猥な音を立てながら、寝そべる私に向かってにじり寄ってくる。今すぐにでも逃げなければ大変なことになりそうだが、痛みで身体が言うことを聞いてくれない。
スライムはあろうことか、倒れている私に向かって覆い被さってきたのだ。
巨大なスライムが球体から、餡かけのようなデロデロの形状に変化して、私の身体ほぼ全体にのしかかる。巨体に胸部を圧迫されて呼吸が苦しく、その重さに身動きも取れない。
そして、なんだか触れられてる部分が熱いっ……!
ポカポカと服自体が熱を帯びているようで、温かさが身体に伝わってくる。まるで温泉に浸かっているみたいに全身が心地よく、
「んっ……!」
自然と声が漏れてしまう。
苦しさとそれを上回る心地よさを同時に与えられ、私の意識がだんだん遠のいていく。このまま意識を手放してしまえば気持ちいいだろうなぁ。
そんなこと考えていると、不意に身体から白い煙が立ち上っている。そして同時に鼻をつくような異様な臭いにも気がついた。
嫌な予感がする。
──ジュッ。
何かが焼け焦げたような音がして、私の肌にドロリとしたものが触れる。
その瞬間、
「熱っ、アツアツイ、アツイ!!!!」
ヒリヒリと燃えるような感触に蝕まれ、思わず叫んでしまう。それがべっとりと貼り付いて、徐々に広がってゆく。最初は腕だけだったが、素肌に感じた気色の悪さは胸やお腹、太ももから足に至るまでに広がり、そして焼けるような痛みもすぐさま全身に広がった。
自分の身に何が起きているのか。幅広いジャンルの本を嗜む私にはすぐ分かった。
服が溶かされている。スライムの体表からはヤバい粘液が分泌されているらしく、触れられているところの制服の生地が消えている。
私にとっての制服はゲームスタート時に与えられた立派な基本装備。それが溶かされているということは、すなわちこのスライムにはプレイヤーの装備を破壊する能力があるということ。
くそっ……! 何なんだコイツ!!!
殴っても、蹴っても、スライムは柔らかく身体を震わせるだけ。どういうわけか効いている気配が全くないし、スライムは隙あらば的確に反撃を決めてくる。
その上、プレイヤーの装備を破壊する能力まであるときた。
攻撃の無効化、ノックバック、カウンター、装備破壊。
いくらなんでも、クソモンス過ぎるだろ!!!
こんだけ能力モリモリにして、運営はヤバいと感じなかったのか? というか、こんな対プレイヤー用の殺意の塊みたいな奴を初心者向けのフィールドに置くな!!!
このゲームについての詳しいことは分からないけど、これだけは分かる。コイツはどう考えても初心者向けの雑魚じゃない。
きっとこのクエストを用意した奴もその辺を織り込み済みで初心者しか受注できない条件を設定したんだろう。ソイツのほくそ笑む顔が目に浮かぶ。
私はスライムとこのクエストの制作者にまんまとハメられてしまったわけだ。
マズイ……。このままでは、服を溶かされて露わにさせられてしまった乙女の柔肌を、スライムに好き放題されてしまう。全年齢対象ゲームが薄い本も顔負けの18禁陵辱ゲームなってしまう。
させるか、そんなこと!
そんなものは読んで愉しむだけで十分。それに、
「ざっけんなぁああああ!!!!」
この身体の秘めてる力は凄まじかった。命と貞操の危機を前に、十キロ以上はあろうかというスライムにのしかかられた状態から無理矢理に立ち上がる。まさに火事場の何とやら。
相変わらずスライムは私に纏わりついたまま身体を溶かそうとしていたが、滾る生存欲に押されて痛みは感じなかった。
重さに負けそうになりながらも、なんとか耐え、一歩、二歩と歩みを進める。
そうして私はスライムを抱えたまま、
「あぁあああああ!!!!!」
奇声を発しながら側を流れる川へダイブ。
どうしてそうしたのか私にも分からない。いくら水深が膝下ないくらいの浅瀬とはいえ、重りを抱えたまま川に飛び込むなんて自殺行為だ。半ば狂乱でまさに必死、正常な判断能力なんてものはない。殺らねばヤられる、という危機感がきっとそうさせたのだろう。
でもそれは結果的に正しかった。流れる水に身を曝すとスライムは悲鳴を上げ、勢いよく川岸に逃げ出した。
「ぷににぃ!?」
ようやく剥がれてくれたおかげで身体も軽い。ざまぁみろ、この変態スライムが。いい加減ぶっ潰してやる。
スライムはこちらのダメージを無効化してくる。生半可な攻撃は身体に弾かれて通らないし、その上攻撃した方に反動ダメージを与えるとかいうクソ。言うなれば奴の身体そのものが凶悪な武器だ。
対する私に武器はない。本来ならもっと街で準備をしてから来るんだろうけど、そんなこととはつゆ知らず、身体一つでここまでやってきてしまったのだから。
でも、それさえあれば十分だ。
お前の身体はバインと攻撃を弾く。超防御かスキル効果かは知らない。でも、それがバグじゃなくてちゃんとしたゲームの仕様なら、私にもできるはずだ。だって私にはそれをなし得るスキルと、魅力的な武器があるんだから。
スライムが再び、力を込めるかのように身体を震わせながら縮こまった。嫌というほど思い知らされた突進の予備動作だ。
私は腰に手を当て、仁王立ち。スライムを睨みながら、構えも取らず思い切って無防備になる。
私はこのまま逃げも隠れもしない。だから、そのまま突っ込んでこい。馬鹿みたいに真っ直ぐ、一直線に来いッ!
「ぷにぃッ!!!!」
刹那、スライムは溜めた力を解放した。私の想いに呼応するように、真っ直ぐ私だけをめがけてすっ飛んでくる。
このエロエロボディを喰らいやがれ!
スライムが迫り、身体に触れるその瞬間。
私は──
「おっぱいパリィ!!!!」
ぐっと、おっぱいを突き出した。
スライムの攻撃と陽彩の大きな胸が触れる。すると、私のスキルが発動し、
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【
【巨乳】胸のサイズに比例してダメージを軽減、無効化する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目論見通りにダメージを無効化。無敵の盾となった私のおっぱいは突進をパリィした。
そりゃそうだろう。
「ぷにぃいいい!」
弾き飛ばされたスライムは勢いそのままに超高速で叩きつけられ、破裂した。
そう。淡い光となって消滅するでもなく、
さっきまでスライムだったものが辺り一面に降り注ぐ。
「うわ……」
べっとりと貼り付き、糸を引きながら流れ落ちる。
降りしきる蛍光グリーンの雨を全身のあらゆるところで受け止めていると、盛大なファンファーレが流れ出す。それと同時にメッセージウィンドウもポップアップした。
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【スライムを討伐しました】
【目標を達成しました】
【
【憑依】Lv1→Lv5
【巨乳】Lv1→Lv5
【レベルアップにより
【憑依+】:憑依状態のまま、更に他者への憑依が可能になる
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「よ、よっしゃあ……」
肌に触れるスライムの感触がとにかくキモくて、達成感はあるものの気分が全くアガらない。
死に際にまでこんなギミック仕込みやがって。このモンスターの設計者の性格の悪さが手に取る様によくわかるわ。
スライムを倒せたことも、レベルアップしたことも、スキルが強化したことも嬉しい。でも、この状況はどうにも腑に落ちない。
このクソモンスの設計に関わったやつに会ったら、絶対ブン殴ってやる。
それにスライムとは二度と戦わない。
そう固く心に誓い、街へと戻るのだった。
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