011
まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。
自分たちの間には確かに愛が存在しているとそう感じているからこそ、今回の協力もお願いしているのだ。
「私との愛をカモフラージュに使うだなんて信じらないわ!」
「もちろんカモフラージュになんて使ってはいないけれど、そういう可能性もあるということだよ」
「私は先生を信じているわ。瑞樹もでしょう?」
「ええ、安奈が信じる先生を信じるわ」
「そうか、わかった。二人の信用に応えることにしよう」
高梨は降参と言った具合に両手を軽く上げる。
安奈はプリプリと怒っており、機嫌を直す様子はない。
「許してくれ安奈、君への愛は本物だよ」
「……本当?将さん」
「ああ、本当だとも安奈」
「嬉しい」
「……コホン」
見つめ合う二人の間に瑞樹の持つファイルが入り込む。
「私がいることを忘れてしまっているのではなくって?」
「……そんなことはなくってよ瑞樹」
「そうだよ橘君」
「そうだったらよろしいのだけれども。……では、ファイルを改めて読んでみましょうか。春休みを機に、急に人が変わったかのようになってしまった少女たち、春休みにいったい何があったのか」
「そうねまずはそれからね。先生は学院内で何かが起きていたのではないか、先生たちにそれとなく探りを入れてもらえるかしら?」
「わかった。ここに来る前のことを知りたいという建前なら不審に思われないだろうしね」
「お願いします、先生。私たちもこの五人をなるべく見るようにしていますし、神宮寺さんに話しを聞いてみなくちゃいけないわね」
「神宮寺とは?」
「神宮寺さんは最初の犠牲者、溝口さんの同室の方でしてよ」
「なるほど、何かを知っているかもしれないということだね」
「ええ、彼女は何かを隠している。私と瑞樹はそう考えているの」
「だから彼女に聞き出そうと明日彼女のクラスに行く予定になっているんです。先生はその間、高等部の生徒だけでもいいので監視していただけると助かります」
「監視ねえ。まあ、出来る限りやっては見るけれども、あまり期待はしないでくれよ」
そうして翌日、安奈と瑞樹は予定通り神宮寺のクラスにいた。
「ご機嫌よう、神宮寺さん。また似たような事件が起きてしまってショックを受けているのではなくって?私心配してしまったわ」
「先輩、ありがとうございます。でも大丈夫です、不思議と詩世の時のようなショックは感じないんです。やっぱり知らない人だからでしょうか」
「そう、だったらよいのだけれども」
「そうだ。よろしければこれからミステリーサークルのサロンでお茶でもいかが?」
「え?」
「そうだわそれがいいわ」
「いえ、結構です」
「……お借りしていたノートとファイルもお返ししないといけないし」
「っ」
ノートという単語に反応して顔を上げた神宮寺に安奈と瑞樹は微笑を浮かべて手を差し伸べた。
「「さあ、どうぞいらして」」
それはまるで、聖母のように優しい笑みを浮かべているのにもかかわらず、黄泉の世界へと連れていく悪魔のような声だった。
神宮寺を連れてやって来たサロン。神宮寺は初めて見るサロンの中に感動したかのように、キョロキョロとして、周囲を見渡している。
「ふふ、お気に召していただけたかしら?」
「素敵。噂のサロンに足を踏み入れたことが出来たと知れば皆が羨ましがります」
「そう?皆さん気軽に来ていただいてよろしいのに、妙に遠慮なさっておいでなのよね。神宮寺さんもこれからも気軽にいらしてくれてよろしくってよ」
「そんな、とんでもない」
「そう?残念だわ。……ところでこのノート、ラミアのことについて随分詳細に調べられているようだけれども、本当は貴女、溝口さんから何かを聞いているのではないかしら?ここは防音の効いた密閉された空間よ。何か秘密事を話すには絶好の場所だと思わなくって?」
「……先輩」
神宮寺は目に暗い陰を落として、安奈を見つめ、ため息を吐き出す。
まるで何かを諦めたかのように、何かを吐き出すかのように息を吐き出したのだ。
「……お話します。私の知っていることを全て。けれども約束してください。この事件を必ず解決してくれるということを」
「お約束するわ、神宮寺さん。さあ、お話してちょうだい」
「はい。春休み、詩世はある人物に出会ったのだそうです。その人物は美しく、魅惑的で蠱惑的で、見つめていると、まるで吸い込まれるかのような瞳を持った、そんな女性だったそうです」
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