18.謎のエネミー
予想外のことがおきた。
と、柄にもなくキリシマ・ウィンドグレイスは焦っていた。
大蝙蝠を討伐後は固定のエネミーなどはいなく、記憶通りに道を辿っていけばモンスターとエンカウントすることもない。
目標の金庫の前に置かれた大袈裟な宝箱を開ければクエストはクリアとなり自動的に初期位置まで帰還する。
と、いうのがシャーロッテの館の仕様であった。
ただ、今回のキリシマの目標は宝箱をまたいだ先にある金庫自体で、今まさに宝箱を無視して巨大な金庫を見上げる位置まで来たところ。
(何だ……? 何者だ……?)
それは後ろを振り向き見る前から圧倒的な威圧を放っている。
何者かが後方に存在し己を見張っている。
モンスターであれば宝箱を過ぎた時点で既に食らいついてくるなりしてもおかしくない。と、なると自分以外の人間がそこに存在しているという意味になる。
同じ考えの者がシャーロッテの地下金庫を狙って先に来ていたのだろうか。
そうだとすれば分け前を話し合うか、もしくは競い合って報酬を勝ち取るしかあるまい。と、いずれにせよ衝突せざるを得ない選択肢に諦めを含めながらキリシマは相手に向き合おうと振り返る。
その瞬間。
――――ザンッ。
半月の残像がキリシマの背で吠えていた虎柄を真横に切り裂いた。
間一髪。マントの損傷を見るにあと一歩遅ければ自身の体も上下に分断されていたところだろう。
飛び退いて距離をとり、不意打ちを仕掛けて来た人物に松明を投げつける。
ぼんやりとした暗闇の中に浮かび上がったのは、身の丈ほどもある巨大な両手斧に漆黒の重鎧。
体格は装備からして男性で間違いないが、頭全体を覆い隠すヘルムのせいで人相は確認できない。
キリシマが相手に対して明確に判断できるのはただ一つ、己に向けられた殺意だけだった。
「貴様何を?! くっ!」
コマンドを開く隙を与えず、離した距離を数歩で詰める黒鎧の男。
見るからに素早さのステータスを犠牲にした重装備にも関わらず俊敏な動きでキリシマに迫ってくる。
他にメンバーは見当たらないが、鎧姿ということは攻撃を受け止めることが役目の前衛職のはずだ。
基本的には距離さえ離せば魔法職のキリシマが優位を取れる立場なのだが、どうしたことか相手に隙が無い。
逃げれば逃げる分だけ瞬間的に追いつかれてしまい、翻弄する呪文を詠唱するタイミングもない。
だからといって捕まってしまえば物理耐性のないキリシマでは瞬殺されてしまうだろう。
(くそっ! 手詰まりか……!?)
目標の金庫に番人などはいないはずだった。 おかしい。こんなはずではない。予想と違う。
鎧男の大振りな動作の隙に地面に転がり、キリシマは通話機能を呼び出すとバーレッドへ繋ぎすぐに叫んだ。
「聞こえるかバーレッド! 撤収だ!」
脱出のための転移魔法を発動したのは通話が始まるか否かの時であった。
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