13.持ち金
***
そういったところで兎達を追い込み逆に討伐した二人が次に試したいこと。
それは、
「うまい! きちんと芋の味がするぞ!」
「よかったですね」
ご飯を食べてみることだった。
運ばれてきたフィッシュアンドチップスのフライドポテトを口にするなり声を出すキリシマに、やれやれと言いながら自分もさりげなく手をつけるバーレッド。
食べた瞬間、口の中に拡がる動物性の油脂の香り。
外はカリッと中身はホクホクとしたじゃがいもの絶妙な食感。
熱すぎず食べ頃適温になっている乱切りの揚げ芋は、何個でも食べられそうだ。
「わ、本当だ。おいしい……塩加減もちょうどよくて……」
思わずバーレッドも感嘆を漏らす。
それは現実の世界とも違わぬ、否それ以上に彼らの味覚を満足させる味であった。
そして、物を食べて味を実感するなどはゲームだったころには無いアクション。
それは同時にここがゲームの世界とよく似た異世界なのだという自覚を彼らにさせた。
「次は寿司屋に行かないか? バーレッド。この様子であれば漁港のファレル(ここ)ではカニもトロもイクラもきっと相当うまいに違いない」
ほんのりと香るブドウ酒を水のように飲みほしてキリシマが提案する。
確かに、これだけの味がするのであれば街の料理を全部食べ歩いてみても良いかもしれない。と、バーレッドの脳でも食欲中枢がお腹を鳴らそうとしたのだが一瞬で我に返った。
「キリシマさん、そんなお金僕らにはないでしょう……」
「ふむ。そうであったな。まずは寝床の確保をせねばならんのだった」
調子に乗っていたキリシマも少し反省の色を見せる。
彼らにお金や寝床が無いのは、ゲーム時代翼蛇の杖の皆が集まって利用していたギルドハウスこと集合場所をキリシマ自身がログアウト前に解体してしまったからである。
解体、というよりも正確にはゲームを終了する前に彼は所有権を放棄していた。
おそらく土地や建物自体はそのまま残っている事だろう。
そうでなければ二人の所持金が極端に少ない理由がない。
「所持金、僕は三万とちょっと。キリシマさんは?」
「よ、四千円だ……」
ゲーム内通貨は日本語訳がされているのかわかりやすくも「円」。
ステータスで確認し合った二人の現在の所持金は合わせても宿屋に数泊出来るかどうかといった額であった。
バーレッドもキリシマもけして貧乏というわけではない。
むしろゲーム内通貨ならば浴びても腐ってもどうにも減らないと笑っていられるほど桁外れの大金持ちだった。
だが、二人揃ってギルドハウスの金庫にそのほとんどを預け入れてしまっていた。
レベルがカンストしてからはLSO内で買えるありとあらゆるコンテンツを制覇してしまい、逆に金の使いどころに困り、最終的には自分たちで持ち歩かずギルド全体の資金としてまとめていたことがアダになったらしい。
それゆえに現在の財布の中身は心もとない。
これが自信家なキリシマを珍しく委縮させている理由(わけ)だった。
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