嫌がらせが口だけだと思うなよ

「あのね、久艶君。玲羅ちゃんと親しいんだよね?あたし、なんだか玲羅ちゃんから嫌われてるみたいで、その……嫌がらせみたいなことをされてるんだ。その、どうしたらいいのかわからなくって。久艶君に相談しようと思ってるんだけど、時間取ってもらえるかな?」

「玲羅が君に嫌がらせを?何かの間違いじゃないのか?」

「ううん。間違いないの」


 あたしは目尻に涙をためて訴えるように言う。これで落ちない男はいないんだからね。


「ふーん、玲羅がねぇ。まあ、話を聞くぐらいならいいけど。どうせなら玲羅も同席させるか?」

「そんなっ、いきなりは怖いよ。二人っきりで話したいの」

「玲羅にそんなに怯える必要はないと思うんだけどな。まあ、そこまで言うんだったら話を聞くよ」

「ありがとう!早速カフェでお茶でもしながら聞いてくれる?」

「いいけど」

「うれしい、ごちそうさま」

「……まあ、いいけど」


 そのまま身を寄せるようにして二人で歩いていって学園内にあるカフェまで行く。本当にこの学園は何でもそろってて便利よね。

 あたしたちは日の当たるテラス席に座ると、早速注文をして、話を始める。


「きっかけは多分美零なの。あたしの双子の妹でね、あたしと違って健康体でって、久艶君は知り合いなんだよね」

「ああ、知り合いって言うかめっちゃ親しいし」

「やめておきなよ。美零って性格めちゃくちゃ悪いんだよ。あたしがこんなに病弱で苦労してるのに、一人でのうのうと暮らして、親に感謝もしないで……。おばあちゃん達まで巻き込んで、大事になりかけた事もあったんだから。本当に嫌な子なんだよ。そんな子が久艶君の傍にいるなんて、相応しくないんじゃないかな」

「誰が傍にいるかは俺が決めることだろう?」

「ごめっそんなつもりじゃなかったの!久艶君の考えを否定するつもりなんかないんだよ。ただ、騙されてるんだったら久艶君が可哀そうだから、言ってあげなくちゃって思って」

「……それで、玲羅の嫌がらせっていうのは?」

「無視してきたり、かと思うと嫌味を言ってきたりしてくるの」

「嫌味って?」

「あたしが体が弱いからって、あたしをはぶろうとしたりするのよ。平気だって言っても、何かあって自分たちのせいにされたら困るからっていって、仲間に入れてくれないの。そんな事するはずないのにね」

「ふーん。でも、四月のオリエンテーションの時に、貧血で倒れてその時に一緒にいた玲羅が適切に休憩を取らなかったせいだって言ったんじゃなかったっけ?」

「それはっ、だって事実だもの。あたしの体が弱いことを知ってるのに、どんどんと皆で進んで行って、貧血で倒れるまで気が付かないなんてひどすぎると思わない?」


 そうなのよね、あの時の事を今でも思い出すとはらわたが煮えくり返るわ。

 あたしが必死に笑顔を作って追いつこうとしてるのに、上っ面の大丈夫?っていう声掛けだけしてどんどん進んでいくし、結局あたしは倒れて救護班のところまで運ばれた。

 運んでくれたのは久艶君だそうだ。やっぱりあたし達は運命で結ばれてるのよね。


「まあ、玲羅も悪かったかもしれないけど、ちゃんと自分で無理だって言わなかった君も悪いんじゃないの?よくわかんないけどさ、そういう女の事情って」

「そんな!運んでくれた久艶君にも申し訳ないよ!」

「ああ、あれだけど。正確には俺だけじゃないから。運んだの」

「え?」

「気絶した女一人抱えて山登りとか無理だし、俺だけじゃなくて三人がかりで運んだんだし、っていうか、普通に考えればわかりそうなもんだろう?人一人の重さなんだしさ」

「なっ!」


 なんだかあたしが重いって言われてるみたいで傷つく。


「そんないい方しなくってもいいじゃないの」

「じゃあ他の奴にもちゃんとお礼を言っておけよな」

「わかってるわよ。誰が運んでくれたの?」

「高橋と野木だよ」


 誰?正直久艶君以外の男子なんて興味がないから分からないわね。

 あ、もしかしてあたしのファンとか?だったら感謝こそされ、あたしがお礼を言うのもおかしい話しよね。


「わかった。今度ちゃんとお話してみるね」

「そうしておけよな」


 お話して、あたしのシンパになってくれるっていう人だったら、あたしの体に勝手に触った事を許してあげてもいいんだからね。


「それで結局玲羅の嫌がらせなんだけど、口で何かを言われてるだけなんだろう?だったら言い返せばいいんじゃないのか?そんなこともできないほどお嬢様じゃないだろう?」

「そんな、乱暴な口とかあたしはなれてないし、久艶君からも注意してくれないかな?」

「俺から?なんで?」

「だって、久艶君のお友達なんでしょう?あたしからのお願いだから、ね?」

「いや、意味わかんないし」

「そんな事言わないでよ」

「……わかった。言うだけ言っておいてやるよ。ただし効果があるかはわかんないからな」

「ありがとう!」


 私は輝かしい天使の笑みと言われている笑みを久艶君に向けた。


******************************


「ってわけで、玲羅の嫌がらせは地味~に効いてるみたいだな」


 いつものように図書室の談話室に四人で集まって話をしている。ここのところの話題はもっぱらお姉ちゃんの話題。

 まあ、当然だよね。お姉ちゃんをターゲティングした虐めを今行っているわけなんだし。嫌がらせだってお姉ちゃんは言ってるけど、明らかな虐めなんだよねえ。

 まあ、手や足をだすと監視網に引っかかるから口だけだけどね。それでも、クラスで影響力の強い玲羅がお姉ちゃんをはぶってるっていうのは、女子に強い影響力を発揮してるんだよねえ。


「そう言えば、この間は美零があの女と接触した時にぶっ倒れた(演技)って聞いたんだけど、どうだったんだ?」

「ああ、もちろん、彼氏である俺がお姫様抱っこをして保健室まで運んだけど、あの時のあの女の顔ったらなかったな」

「マジか、その場にいなかったのが残念だよなあ。心因性の物だっていう方向に持って行くんだろう?」

「その予定。保険医には普段は平気なんですけど、姉を見たら急に胸が苦しくなってってちゃんと言っておいたから」

「ワロス」

「この学園って、ある意味私らの中学からの繰り上がりが半数じゃない?だから、私の体調とか知ってる子がほとんどだから、納得させるのとか簡単だったわぁ」


 本当にあの時は突然肩を掴まれて驚いたっていうのもあるけど、上手くいったと思う。

 お姉ちゃんに肩を掴まれて、「ちょっと用事があるんだけど」って言われた瞬間気絶したんだよね。まあ気絶自体は演技なんだけど、その場にうずくまって、横倒しになった感じかな。

 まあ、自分が気絶することには慣れてるお姉ちゃんでも他人が気絶する場面には慣れてないらしくて、慌ててたよね。自分のせいじゃないとか必死に言い訳してて余計に怪しかったって言うか、原因に見えてたよね。


「それで、今後の予定としてはどうするの?」

「ん~、変わんないかな。口での嫌がらせを中心に、ちょっとずつ包囲網を完成させていこうと思うんだよね」

「包囲網っていうと?」

「それはねえ、久艶と相談したんだけど、やっぱり決定的な証拠が必要なんじゃないかって話になったんだよね」

「決定的な証拠って?」

「それなんだけど、お姉ちゃんは私の物を自分の物だって勘違いしてる節があるし、久艶に興味というか、思いっきり恋心を抱いてるからね、それを利用しようと思ってるんだよね」

「ほほう?」

「ある程度はお姉ちゃんの言う通りにしておいて、その度に保健室に通って私は心因性が原因で体調不良になっているっていうことにしていって、最後は久艶に自分の恋人を虐める女は最低だ!って、公の場で宣言してもらうっていうのはどうかって」

「おお!久艶と美零が付き合ってるって知らない人にもいい効果かもね」

「でしょう」


 ああ、本当に、そうなる日が楽しみで仕方がない。


******************************


 久艶君お願いしたからか、玲羅からの嫌味は鳴りを潜めたきがする。流石は私の久艶君よね。

 それにしても、この間の美零には驚いたわ。いきなり気絶するんだもの。ちょっと肩を掴んだだけなのに、私のせいにされて、いいめいわくだわ。

 あの後保険医には何か変わったことがないかって、まるで尋問みたいに聞かれるし、本当に使えない女。

 なんであんな女が久艶君にお姫様抱っこされて保健室に行ったわけ?

 いくら仲が良いからってそこまでしてやる義理なんかないわよね、美零のやつ、本当になんなの?

 美零は私に尽くして当然なのに、私が狙ってる久艶君に触るとかありえないし。


******************************


 ふーん、お姉ちゃんに尽くして当然かぁ。

 ありえないでしょう、普通に考えて。いくら姉が病弱でも、今は健康体なんだから。

 っていうか、保険医に尋問うけたんだ?仕事早いなあ。

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