第191話【満天の星空と通り雨】
結局、僕はノエルの案で王都では比較的余裕のある穀物をそれなりの量、買いつけてから翌朝王都を出発した。
道中の様子はこれまでよりも深刻で多くの崖崩れが道を塞いでおり、予定よりも進行状況は芳しくなかった。
「思ったよりも被害が大きいようだね。この調子だと街の方もかなりのダメージがあるのでは無いかな?」
「そうですね。しかし、エルガーはどちらかと言うと食料支援を優先して欲しいとの要望が強かったのよね?」
「うん。もしかしたら畑に被害が多く出たのかもしれないし、水路が破損したのかもしれないが、どちらにしても手助け出来るようならちょいちょい手助けをするつもりだよ」
そう言いながら道中の片付けを進めて行く。
「――今日はこのあたりで休むとしよう」
街まで半分に満たないほど進んだ所にある水場も予想以上に埋まっていたがどうせ自分たち以外は通る事もないだろうと道の真ん中で休むことにした。
「明日にはなんとかエルガーに到着出来るといいな」
「そうですね。ですが今のペースだと少々厳しいかもしれませんね。まあ、無理をして進んでも良い事にはならないでしょうから安全に行くようにしましょう」
エルガーの街までまだ半分も進んでいない状況だったが思ったよりも焦りの気持ちは湧いてこないでゆったりとしていた。
「そうするとしようか。だけど、ノエルとふたりでこうして旅をするのは良いもんだな。もちろんお店で頑張っている君も魅力的だったけど今の方が一緒に居られる時間が長いからね」
空が暗くなってきて焚き火の火がパチパチと音をたてて燃えるのを見ながら僕がそう言うとノエルもそれに同意をしてくれる。
「そうですね。私も今の方が幸せかもしれませんね」
「いっそのこと、各地を旅しながら周る旅行商をしても良いかもしれないな。もちろんノエルが良ければだけど」
「旅行商かぁ……世界中を回って珍しいものを仕入れてくるのも楽しそうですね」
並んで話しながらふと空を見上げると晴天の空に星が綺麗に瞬いていた。
◇◇◇
「さて、どのくらいで到着できるかな?」
野営を無事に終え、馬の調子を見ながら僕がそう呟いた時、ノエルから声がかかる。
「ミナトさん。今日はちょっと急いだ方が良いかもしれませんね」
「どうかしたのか?」
「空、見てください。昨晩はあんなに星が綺麗だったのに雲がかかってだんだんと厚くなって来ています。このままでは夜まで待たずに雨になると思います」
ノエルに言われて空を見上げると上空の雲が早く流れているのが見えた。
「雨の中での野営はあまりやりたくないよな。途中で雨宿り出来そうな場所があればそこに留まるとしよう」
急いで進みたい気持ちはあるが街道整備の依頼もあるので蹴散らして行くわけにもいかずにこの日は空を見上げながらの進行となった。
「ミナトさん。あそこの岩かげに洞窟のようなものがありませんか?」
それから半日ほど進んだ所で雨がポツポツと落ち始めた頃、ノエルが街道沿いにある洞窟を見つけて教えてくれた。
「本当だ。流石に馬車は入れられないけれど人が入れるほどの大きさはありそうだ。奥に何があるかは気になるけれど雨宿りするには良さそうだね」
雨の状態もだんだんと強くなりそうな空模様となっていたので僕たちは馬車を入口に停めて雨宿りをすることにした。
「ここ、何に使われていたんだろうか?」
洞窟は大人が立って歩けるほどの大きさで奥へと続いており光が無いために数メートルしか確認出来なかった。
「鉱石の坑道かなにかだとは思うけど街で聞けば何かわかるかもしれないね。興味はあるけど中で迷子にでもなったり万が一何かトラブルがあったら困るから今は奥に入るのは止めておこう」
僕かそう言った時、洞窟の奥から何かの鳴き声が聞こえた。
「今の鳴き声は狼系の何かだろう。この洞窟の奥に住み着いているのかもしれないな」
「それならここに居るのは危ないのでは?」
ノエルはそう言って外に出ようとするが、それを止めるように雨が一気に強まった。
「嫌な雨だな。仕方ないからとりあえず奥への道は塞がせてもらうとしよう」
外に出ることが難しいと判断した僕は道すがら回収した岩や土砂のカードを取り出して数メートル先に開放する。
たちまち奥に通じる道は綺麗に塞がりさっきまで聞こえていた鳴き声も聞こえなくなった。
「これで当面は大丈夫だろう。街に着いたらギルドに問い合わせてみて埋めたままだと都合が悪いなら取り除きに戻らないといけないのが面倒だけど仕方ないか」
「それか、出る時に入口ごと埋めてしまって黙っておくのも手ですよ。崖崩れで埋まってしまったのならば仕方ないことですので」
ノエルはさらりとそう言って僕を見る。
「まあ、使われている坑道ならばもっと人の手が入っているだろうし、中から獣の鳴き声がするくらいだ。埋めてしまっても大丈夫かもしれないな」
万が一の場合は戻ってきて掘り起こせるようにしておこうと思いながら僕はそう言った。
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