第176話【運の悪い盗賊たち】
「そんなに急いでどこに行くつもりだい?
それに、こんな場所を護衛も付けずに馬車一台だけで飛ばすなんざ普通の行商じゃないと言っているも同じだがな。
まあ、そっちの都合なんざどうでもいいが何か金目の荷物を運んでいるならば恵まれないオレ達にも分けてくれねぇか?」
盗賊たちの一人がトトルの10メートル先まで近づいてきてそう言う。
「あなた達に渡せる荷物はこの馬車には一切積んでいません、嘘だと思うならば確かめてみるがいいです。
そして納得したらさっさと帰ってください、こっちは急いでいるのですから」
トトルの言葉に盗賊たちはニヤニヤしながら抜き身の剣を片手にぶら下げてゆっくりと馬車に近づいてくる。
「なあに、たいしたものを積んでいなかったとしても馬車自体に価値はあるし急いでいるからには何か大事なことがあるんだろ?
そいつを教えてもらえればそれもまたカネになるだろうしな。
つまり、オレ達はあんたを逃すつもりは無いって訳だ。
期待がはずれて残念だったな」
「はっはっは、コイツはいいな。
オレ達に襲われて無事に帰れると思ってやがるところが最高に良いぜ」
盗賊たちはトトルの演技に余裕の表情を浮かべながら良いものがあれば自分のものにするべくトトルの前にリーダーひとりだけ残して他の者は無警戒に馬車の荷車へと集まってしまった。
「オレが一番乗りだぜ!」
「
「おい! 俺が先だ!
この野郎、飛び乗るんじゃねぇよ」
「
盗賊のリーダーはトトルに剣を向けていたので馬車の後ろ側は見えず仲間が次々と荷車に飛び乗っていったようにしか見えなかったが、騒いでいたはずの仲間の声がいきなり聞こえなくなった事を疑問に思い「おい! お前たちどうした!」と叫んだが一切の返事は返ってこなかった。
「おい! お前!
後ろの荷車にはいったい何が乗ってるんだ!?」
盗賊のリーダーは荷車に乗り込んだはずの仲間の声が聞こえないことに不安を感じてトトルに剣を突きつけてそう叫んだ。
「ですから、あなた達に渡せる荷物はこの馬車には無いと言ったではありませんか。
きっとあなたのお仲間は馬車の荷物に食べられてしまったのでしょう」
「はぁ!?
荷物が人を食うだと?
そんな事があってたまるか!!」
盗賊のリーダーはそう叫んで馬車の後ろに回り込み閉じられたカーテンを開くとその光景に愕然とした。
「ようやく俺たちの出番がまわってきたようだ」
ガラムがそう言って手に持った槍の石突きで男の剣を跳ね飛ばした。
「ぐわっ!?」
いきなりの攻撃に剣を吹き飛ばされ自らも盛大に尻もちをついた男に荷車から飛び降りてきたガラムの剣が首筋にあてられた。
「な、なんだお前たち!?
俺様の仲間を何処にやった!?」
剣を突きつけられた状態で盗賊の男はあれだけいたはずの仲間が全員消えたことが理解出来ずにそう喚き散らした。
「仲間たちなら全員捕まえてあるぞ。
どうせ王都まで連れていくつもりもないし情報だけ吐かせたら順番に始末してやるから楽しみにしてな」
ガラムはそう言って男の尋問を始めた。
「――だいたい分かったからもういいぜ」
ガラムが盗賊のリーダーから聞き出した情報をメモにとると僕に対して合図をしてくる。
「
その合図で僕は最後のひとりも余すことなく全員をカード化してやった。
「本当に人でもカード化出来るのですね。
正直、目の前で見ても信じられないですけどふたりの言っていた事が本当なのだと改めて驚きましたわ」
ローズがそう言うと他のメンバーも同様にうなずいて同意する。
「それで本当に盗賊たちはどうするんです?」
「正直、役人に引き渡すにしても何処かでカード化を解かないといけないのですからミナトさんのスキルの説明をしないといけませんよね?
それって結構面倒なことになるんじゃないのですか?」
ローズの言葉に僕は「そうですね」と言って苦笑いをする。
「でも、誰も怪我なく対処出来るならばやったほうが良いかなと思ってやってしまいました」
僕の言葉にその場に居た全員が微妙な表情をしてため息をついたのは仕方ないことだろう。
「――で、結局コイツらはどうするんだ?」
カード化された盗賊たちを指差しながらガラムが僕に処遇を確認する。
「どうせ居なくなっても誰も困らない盗賊たちですからこのまま僕が預かっても良いですか?」
「それは構わないがどうするつもりだ?」
「僕の知り合いに話をよく聞いてくれるギルドマスターがいますのでその人の権限で犯罪奴隷として鉱山ででも働いてもらえば少しでも世のためになるのかなと思いまして。
あ、それが駄目ならば一人ずつ開放しながら確実に仕留めていっても良いですよ」
「……確かに
確実にとどめを刺すのも有りだが死体を始末をするのが大変だからな。
わかった、ミナトの言うとおりにしよう。
俺たちは盗賊なんて見てもいないしましてや襲われてもいなかった……そしてミナトのスキルも見なかったということでいいな」
護衛リーダーのガラムがその場をそうまとめるとその場にいた全員がうなずき今あった事は全て無かったことにして旅路を続けることになった。
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