第174話【予想以上の進行速度】
「よし、準備のほうに問題はないですか?」
トトルが御者台から確認の声をかけるとガラムたち護衛のメンバーから大丈夫との声が返ってくる。
「よし、出発します。
目的地アランガスタ王都、途中に寄るのはマーグの街のみで、その後国境の砦を通過後に王都まで一気に進むことになります。
ここまではいいですね?」
トトルはそう言うと馬の手綱を動かして馬車を進ませながら続きを話す。
「今回は行商が主目的ではなくミナト殿とノエル殿をアランガスタ王都まで無事に送り届けることを優先する旅ですので向かう馬車はこの馬車一台となります。
編隊が多くなればなるほど進行は遅くなりますからね」
「しかし、本当に何も積まないで護衛である俺たちまで馬車の荷車に乗ってしまって良かったのか?」
ガラムは普通であればゆっくり進む馬車について歩くのに今回は早く進むために馬車に乗れるとのことで別の心配をし始めた。
「乗って移動は楽で良いけどその分報酬をカットするとは言わないよな?」
「その点はご安心を。
今回の旅での利益確保は目処がついていますので問題なく護衛の皆さんに報酬をお支払いいたします」
「それはありがたいが一体どんなカラクリだい?
って聞くまでも無かったな。
目の前にその答えが居るんだから……」
ガラムは僕の方を見てニヤリと笑う。
「商会の商品は僕が全て保管していますよ」
全てお見通しと言った様子で話すガラムに僕は数枚のカードを見せて納得してもらった。
「しかし、全くもってこんなに身軽に動けるとは思わなかったよ。
これならばマーグの街まで1日、国境門までもう1日でたどり着けるだろう。
アランガスタに着いたら王都までも約2日でたどり着けるように途中の町には寄らずに強行で進めるからな」
ガラムの言葉にザビリアたちも頷いてからあたりの警戒をはじめる。
「確かにそうですね。
ミナトさんが居るだけで今まで複数の馬車で輸送していた商隊が馬車一台で済んでしまうのですからある意味恐ろしくもありますね」
僕のそばに座っていたノエルがそうつぶやくように言うと馬車の後方を警戒していたローズも同意をするように頷いた。
* * *
旅は予想以上に順調に進み、1日目のマーグの街への到着も予定より早く到着してみんな驚いていた。
「今日は街の宿にて宿泊しますが朝が早いので酒は飲まないようにお願いします。
ミナト殿は契約どおり商隊の仕事を補佐してもらいますのでこの後は私とギルドに顔を出してください」
トトルはそう言うと僕とふたりでギルドへ向かい、予定していた商談を済ませてから宿へと戻った。
「おかえりなさい。
商談はうまくいきましたか?」
宿に帰るとノエルがそう言って出迎えてくれる。
「まあ、商談と言っても僕は荷物持ちなだけだからね。
話しはトトルさんが全てやるんだから僕は言われるままに荷物をカード化したり開放したりしただけだよ。
まあ、ギルドの職員がスキルを見て驚いた顔をしていたのだけが印象に残っているけどね」
「それはそうでしょうね。
カード収集スキルの有用性はこの国ではまだまだ広まっていないようですからね。
これからロロシエル商会が少しずつ人材を育てていけば変わっていくでしょうね」
ノエルはそう言うと準備しておいた紅茶を僕にすすめて眠る前のひとときをゆっくりと過ごした。
* * *
「――では出発します。
今日の予定は国境の砦へたどり着くこと。
砦の施設にて食事のみ対応してからすぐ横の広場にて野営をします。
荷物はカード化したものばかりだと逆に怪しまれるかもしれませんので砦近くの休憩場所で破損や劣化に強い商材を馬車に置きますので護衛の皆さんはそこからは徒歩でお願いします。
ミナト殿とノエル殿はそのままで大丈夫ですので商材と共に乗っていてください」
トトルの適格な指示のもとガラムたちは皆うなずきあって了解との認識を共有した。
「――このあたりで休憩を兼ねて偽装工作をしましょう」
今日もかなりのスピードで馬車を走らせた僕たちは予定しておいた場所にて商品の一部をカードから開放して馬車に積み込んでいく。
「こんなもので良いですか?」
僕はトトルに言われた量の商品を馬車の荷車へ並べて確認すると「もう少し出しておきましょうか」と言われて追加でカード化を開放する。
「しっかし何度みても便利すぎて普通に運ぶのが馬鹿らしくなるようなスキルだよな」
商品の量を調整している僕を周りを警戒しながらもあきれ顔で見るガラムに僕は思わず苦笑いをしながら言う。
「物をカード化するだけの地味なスキルなんですけどね」
それに対してトトルが横から話に入ってくる。
「確かに地味なスキルだが商品を多数扱う商人には喉から手が出るほど欲しいスキルとなるだろう。
きっとこれから先はカード収納スキルを持つ者が頭角を現してくるだろう。
もちろん、きちんと教育を受けてレベルアップ出来た者だけだがね」
トトルはそう言って本来ならば連れてくるつもりだったロロシエル商会のスキル持ちの彼らの事を思い浮かべていた。
「そうあって欲しいですね。
結局今回は馬車の関係で同行出来なかったミギーさんたちもしっかりと修練を積んで自らはもちろん、次の世代にも広げていって欲しいと思います」
トトルの様子からそれを悟った僕はそう言って彼の思いを汲んだ発言をする。
「さあ、国境の砦まであと少しです。
ここから暫くは徒歩組に併せて速度を落として進みますが十分に日が落ちるまでにはたどり着けると思いますのでよろしくお願いしますね」
トトルはそう言って進む準備を整えると国境の砦へ向けて馬車を走らせ始めた。
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