第164話【雑貨店のおつかい】
「いきなり追い出すって酷いな、しかもおつかいまで押し付けるなんて」
薬屋を出された僕はそう不貞腐れながらも言われた雑貨屋へと歩き出していた。
「なんだか一癖ありそうな人でしたね。
腕前は自己評価なので本当に優秀なのかは分かりませんでしたけど今から行く雑貨屋で話を聞けばある程度はわかるんじゃないですかね」
不貞腐れながら歩く僕の横に並んで歩くノエルがそう考えを話す。
「あの薬屋にあった薬はごく一般的なものばかりだったから自分で言うほどのものではないのかもしれないね。
まあ、素材が足りなかったから上位の調合が出来なかっただけかもしれないけれど」
僕たちはそんな事を話しながら歩いて行くと指定された雑貨屋の看板がさがる店へとたどり着いた。
「この雑貨屋だよな?」
「貰ったメモに書いてあるのはこのお店で間違いないと思います」
――かちゃり。
店に入ると棚だけでなく床にも木箱が積み上げられており雑多な素材が所狭しと置かれていた。
「すみません。
ナリスって薬師の人から素材を買ってきて欲しいと頼まれたんですけど……」
店のカウンターらしき場所に人影をみつけた僕はそう声をかけてみた。
「ああっ!? ナリスのやつまた若いモンを小間使いしてるのか?
あんたらも押し付けられただけなんだろうけど簡単にものを引き受けちゃあ駄目だぜ」
店主らしき中年の男性はそう言って僕に向き合うと「どら、あいつからのメモを見せてみな」と言って右手を出した。
「あ、これです」
そう言われた僕はナリスから渡された素材の種類と数の書かれたメモをその男性に渡す。
「ふむふむ、はあっ?
なんだってこんなものを欲しがるんだ?」
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、問題と言うか日頃頼まねぇものを大量に頼んであるから何に使うのかなと思っただけだ。
それとコイツは重量があるから運ぶのに手間と人数がかかって割にあわないんだよ」
「え? 運んで貰えるんですか?」
ナリスからは「持って帰ってくれ」と言われたつもりだったが配達をしてくれるならばその方が便利だと僕はそう聞き返していた。
「あ? そりゃあこれだけの量を持って帰るなんて無理だろう?
全部あわせたら荷馬車一台分はあるぜ」
「荷馬車一台かぁ。
あの人、僕を試したのかな?」
「そうかもしれませんね。
……それでどうするんですか?
堂々と『出来ます』とばかりにカード化して持ち込むか『これだけの量は無理だ』と言って実力を隠してとぼけるか……」
僕とノエルが真剣に悩んでいると雑貨屋の店主が不思議そうな顔で聞いてくる。
「何をそんなに悩んでるんだ?」
「実はナリスさんからはこの荷物を『明日の朝、店に来る時に持ってきてくれ』と頼まれたんです。
だから配達して貰うかどうかで迷ってるんです」
「は? この荷物全部を持って帰って明日の朝持って来いって? あんたに?」
話の内容を理解した店主は心底驚いた表情で顔に手をあてて天井をあおいだ。
「あんたナリスに何かやったのか?
確かにアイツは無理難題を若いのにやらせようとするきらいはあったがここまで露骨な事はしたことはないぞ。
分かった、俺が直々に届けて一言言ってやるよ」
カード収納スキルを持っている事を知らない店主は当然の結論へと考えをめぐらせて怒ってくれた。
「いえ、怒ってくれたのはありがたいですが僕の方は大丈夫ですので荷物は全て預からせてもらいますね」
僕は店主の男性に迷惑を書けたくなかったので荷物はカード化して全て持っていくことに決め、スキルを使った。
「
僕は荷物のひとつに触れて全体のイメージを整えて荷馬車一台分の荷物を一枚のカードに変換したのだった。
「なっ!? に、荷物は何処にいった?」
いきなり目の前に積み上げていた荷物が忽然と消えたのだ雑貨屋の店主は目をむいて驚きを隠せなかった。
「荷物はここにありますよ」
驚く店主の目の前のカウンターに荷物をカード化したものをパチンと置いてそう告げた。
「カード?
そのカードに全ての荷物が入ったと言うのか?」
「そうです。
ですが、本来ならば種類ごとに小分けして数を増やせばカード化を解くときに片付けが楽なんだけどナリスさんには『持ってきてくれ』と言われただけなんでこれを一気にカウンター前にドカッと置いてやったときのあの人の引きつる表情を見るのが楽しそうなんで一枚に無理矢理収めてみたんです」
「いや、収めてみたんですって言える量じゃ無いんだが実際にこうしてカード化されていると信じるしかないんだよな。
ナリスも全くとんでもないヤツに目をつけたもんだよ」
雑貨店の店主は呆れた顔でそうため息混じりに話すと「ついでにこいつも持って行ってくれ」と品物の書いてあるリストと請求金額の書いてある封書を渡された。
「金はどうせ取りに行っても持ち合わせが無いと言われるのは分かっているからギルドの口座から勝手に引き落とさせてもらうと伝えてくれ。
一応請求書にもその旨が書いてはあるが今までの傾向から読まない可能性もあるからな」
(なるほど、ギルドの口座から強制的に引き落とせればその場にお金を持ち合わせていなくても回収できるのか)
「分かりました。
そう伝えるようにします」
そう言って店を出ようとした僕を店主が引き止める。
「あ、荷物の受取書にサインを書いてもらうのを忘れていたよ。
日頃は配達した時に書いてもらうんだけど、今回は君が運んでくれるからこの場で君のサインが必要なんだ。
君を疑いたくはないがこれは決まりだからすまないがよろしく」
「まあ、商売人ならば当然の行為ですね」
側でずっと話を聞いていたノエルが肯定したので僕もうなずいて書類にサインを書いた。
「さあ、そろそろ一度宿に戻ってからロロシエル商会へ行ってみるとするか」
僕はノエルにそう告げると準備を整えるために宿へと戻った。
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