第162話【美味しい朝食と捜し物】

「おはようございます。

 よく眠れましたか?」


 安全な街の宿でのことだったので僕たちは夜遅くまで話をして過ごしていた。


 何時になったかは覚えていないが彼女の寝顔を見た記憶がないことからどうやら僕の方が先に眠ってしまったらしい。


「ああ、おはよう。

 久しぶりに凄く良く眠れた気がするよ。

 この寝具が良かったのかそれとも君との話が楽しかったからか……」


「私もゆっくりとお話が出来て楽しかったです。

 あ、そろそろ朝食の時間のようなので食堂へ行ってみませんか?」


 ノエルの言葉にもうそんな時間なのかと急いで支度を済ませ一緒に一階へと階段を降りていく。


「あ、おはようございます。

 朝食の準備は出来ておりますのでお席についてお待ち下さいね」


 食堂に着くとすぐに店員の女性が声をかけてきて席へと促してくれた。


「そこの二人席にしようか」


 それほど人は多く無かったが僕は広いテーブルではなく狭い二人席を示して椅子に腰をおろす。


「朝食も決められたメニューなんだね」


「そのようですね。

 周りの方たちも同じ食事をされているようですから」


 僕たちはそうつぶやくように会話をして料理が運ばれてくるのを待った。


「お待たせしました。

 特製朝食セットでございます」


 特製と言うわりには見た目普通の朝食セットにしか見えなかったが一口食べてその考えが変わった。


「なんだこれ?

 凄く美味しいパンだな」


「こっちの目玉焼きは焼いただけなのに味が濃いくて滑らかな舌触りと初めて食べた濃厚な卵で作られていますね。

 いいなぁ、私もこんな食材を扱ってみたいわね」


 僕が味の感想を述べるとノエルはそれよりも一歩商人寄りの発言をする。


「でも、卵だよ?

 まあ、僕ならスキルで鮮度を保ちながら運べるかもしれないけれどそうでないひとはなかなか難しいことなんじゃないかな?」


「そ、そうよね。

 ああ、駄目だわ私……。

 どうしてもあなたのスキルを前提に考える癖がついてしまってるみたいね」


「まあ、常に一緒に行動するつもりだがらそこは特に問題にしなくても大丈夫なんだけどね。

 ……そうだね、せっかくだから卵も探してみようか。

 でもまずは朝食を食べてからかな」


 僕はそう言ってその後にだされたシンプルだけど美味しい料理に感心しながら店員に話しかけた。


「朝食、大変美味しかったです。

 この宿は寝具も食事の際の食材も良いものを使用していますがそれらを購入する方法はあるのですか?」


「お褒めいただきありがとうございます。

 寝具は王都で一番の大工と職人に頼んだもので食材も契約した農家から直接購入しているものですので私の一存ではお教え出来かねます。

 ですが、もしどうしてもと言われるのであれば大手の商会ならば伝手があると思いますのでそちらで確認されてはいかがでしょうか?」


(まあ、それはそうか。これほどの良品を取り揃えるには専門の職人から仕入れているに決まっているし店の大切な取り引き先を簡単に他人に話すことは無いよな)


「なるほど、ありがとう。

 参考にさせてもらうよ」


「どういたしまして。

 では、ごゆっくり」


 店員の女性はそう言ってお辞儀をするとカウンターの方へと戻っていった。


「うーん。

 残念だけど今日の夕方までに僕たちだけで探すのは難しいみたいだね。

 まあ、ヒントは貰ったからそれこそトトルさんに相談しても良いかもしれないし、相手次第だけど今日会う予定のロロシエル商会の主人に直接聞いても良いかもしれないね」


「そうですね。

 でも、この街には他の街には無いものがあると思うと探すのが楽しみになりますね。

 卵の他にも良いものがあれば確保してみたいです」


 その後、僕たちは寝具と卵の件はひとまず置いておいて出かける準備をして受付に夕方までには戻ると伝えてから街に出かけることにした。


   *   *   *


「どこから見てまわろうか?」


 僕はノエルと横並びに歩きながら街並みの看板を眺めてそうつぶやく。


「これからいろんな所に行く可能性を考えて薬関係を充実させておきたいですね。

 自分たちが怪我や病気になる可能性も十分に考えられるし、もしかしたら薬を必要とする人が居る所に行くかもしれないですしね。

 そう言えばベリルの村で大量の芋を買ってましたねそれで薬を作るとかなんとかと言ってませんでしたか?」


 ノエルがふと思い出したように僕にそう問いかける。


「うん、それで調薬をするための魔道具を買おうと思ってるんだ。

 ただ、この王都に魔道具があるかどうかとあっても薬師でもない僕に売ってくれるかは分からないけれどね」


「魔道具ならばアランガスタ国の方が手に入りやすかったですよね。

 今さら戻るわけにはいかないですけど……」


「いざとなれば商業ギルドから依頼を出すかそれこそロロシエル商会に頼んで手に入れてもらう方法もあるだろう。

 とりあえず普通の薬を買うためにも薬屋を見てみたいな」


 僕はノエルにそう言った時、ふと斜め前の看板が目にとまった。


【傷薬、ポーションあります】


「おっ! こんな近くに薬屋があったのか。

 ちょっと覗いてみるとしよう」


 僕はノエルにそう告げると薬屋のドアをゆっくりと開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る