第139話【荷物のカード化】
「なんと! そのような事が本当に出来るのですか?」
商会の倉庫へ向かう道すがらに僕はカード収納について出来ることと出来ないことを説明しておいたら驚かれた。
「やはりこちらの方でもあまり例のない事なんですね。
僕の知っている人だけでも数人は時間劣化のないカード収納スキルを使える人が居ますよ」
「なんと!? そのような者が複数名も……なんと羨ましい限りですね。
うちにいらっしゃれば即戦力として高待遇で採用させていただきますのに。
あなたもダルべシアに拠点を置かれるのであれはご一考をしてみてはいかがですか?」
「せっかくのお誘いですが、僕たちには帰る場所がありますのでお気持ちだけ頂いておきますね」
僕は微笑みながら丁重に断りをいれて商談の話に移行した。
「時間劣化がないのならば今まで運べなかったものも運搬できるので本来ならば物品の差し替えを検討しなければなりませんが、だからと言って今から商品を準備する時間はありませんので雨などで濡れて困る食料品と壊れやすい装飾品を中心にお願いすることになるでしょう」
「以前、似たような事があった時は道中の食事や水などの必要消耗品を中心にお預かりしましたね。
旅の食事はどうしても簡易的なものになりますのでそこを補助できれば旅が楽になるでしょう」
「ふむ。
確かにそのとおりだと思うがそれは遠慮しておきましょう」
「それは何故ですか?」
「君のスキルは確かに有用だがそれを一度経験してしまうと気持ちが緩んでしまいかねないからな。
もっとも君がうちに来てくれて毎回商隊に同行してくれるのならば問題はないのだがね」
トトルは当然といった顔で僕の提案を断ってくる。
商隊を取り仕切る立場にある者のさすがと言える判断に僕は言葉もなく案を引っ込めた。
「――とは言え、せっかくのご提案に加えて私もあなたのスキルに大変興味がありますので毎食事に一品だけお願いしたいと思います」
トトルは自分の意思を通しながらも僕の事にも配慮した内容で話をまとめてくれた。
「ご配慮ありがとうございます。
では、荷物のカード化をしますので指示をお願いします。
荷物は小分けでも山積みでも構いませんが開放するときはカード化したサイズでの開放となりますのでご注意ください」
「なるほど、荷車に積んだままだとそのままで出てくるというわけだな。
個別にすれば運ぶのが楽になるのか。
そうだな、もし出来るのならば荷車のままで頼みたい」
「なるほど、わかりました。
では、そうさせてもらいますね」
「ほう、なぜ私がそう判断したか分かったと言うのですか?」
トトルはニマリと笑って僕にそう問いかける。
「先ほどの話から必要以上のサポートは必要ないと判断出来ますので荷車から荷物を運びだすのもそちらの仕事だという事ですよね」
「なるほど、なかなか頭が切れるお方のようですね。
ますます欲しくなりましたが今は準備を急ぐとしましょう」
トトルはそう言うと僕を倉庫へ連れて行き、そこに並んでいる馬車に取り付ける荷車の一つの前にて僕にカード化をお願いした。
「しかし、これだけの大きさの物を本当にカード化出来るものなのですか?
私の知っているカード収納スキルはペン程度しか出来ないと認識していたのですが」
「あはは、僕の容量はどうも標準よりも大きいとは言われてますのでおそらく大丈夫だと思いますよ」
僕はそう言って荷車に手をあててからスキルを使った。
「
僕がスキルを発動させると触っていた荷車が一瞬ポッと光を帯びてから一枚のカードになり僕の手に収まった。
「一応、これで大丈夫なんですが旅の途中でなにかあって僕が離れなければならない事が無いとも限りませんのでちょっと細工をしたいと思います」
「細工?」
「ええ、本来ならばこのカードは僕にしか開放する権限はありませんがある細工をすることによって特定の人が開放する条件を付加することが出来るんです」
僕はそう言ってトトルにカードを持たせてスキルを唱えた。
「――
荷物のカードに魔法陣が刻まれたのを確認した僕は「では、カードはそのままお持ちくださいね」と言ってカードはトトルに持ってもらう。
「これでこの荷物のカードは僕かトトルさんにだけ開放する事が出来るようになりました。
開放したいときはカードを持って
僕がカードの説明を終えたところでカードを手に固まっていたトトルがカードをしげしげと見ながら僕に確認をしてきた。
「にわかには信じられないのだが本当に大丈夫なんだろうね?」
「まあ、そうでしょうね。
でしたらこの場で一度開放してみても良いですよ。
その後でもう一度カード化しますから」
僕がなんでもないとばかりにそう言うとトトルは驚いて「バカな。これほどの大きさの荷物をカード化するスキルを連続して使ったら魔力が枯渇するのではないのか?」と叫ぶ。
「いえ、大丈夫ですよ。
鍛えてますから」
「いや、鍛えてとかのレベルではないと思うのだが……。
本当に大丈夫なのだな?」
「はい。やってみてください」
僕が笑ってそう言うとトトルは半信半疑ながらもカードを手に「
すると山程荷物を積んだ荷車が目の前に現れトトルは思わず「ぬおっ」と驚愕の声をあげてしまう。
「と、まあこんな感じですので開放するときには周りに人や物が無いことを確認してから開放してくださいね。
そうでないと大怪我をしたりさせたりするかもしれませんので……」
僕はそう取り扱いの注意点を伝えながら再度荷物をカード化して開放条件を付与するとトトルに手渡した。
「……もしかするとまだ余裕があるのでしょうか?」
渡されたカードをじっと見つめながらトトルが僕にそう問いかける。
その言葉に僕は「追加は対価を頂きますよ」と言ってニマリと笑った。
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