第126話【王都への道④】
「しかし、なんであんなところに設置した魔道具を蹴飛ばした?」
ゾラは面白くない様子を隠そうともせずにそう聞いてくる。
「ちょっと小便をしようと草むらへ入ったところにちょうどあっただけですよ。
で、光ったから次は警告音が鳴るだろうと予想して止めさせてもらったんです。
特に危険もないのにそんなものを発動させて他の人を起こすのは悪いと思ったから対処しただけですよ」
「ふん。まあいいだろう。
他の魔道具は触ってないんだな?」
「ええ」
「ならば先に回収してからメシにするさ。
食ってるときに誰かが鳴らすと面倒だからな」
ゾラはそう言ってごそごそと茂みに入って行き数個の魔道具を回収してきた。
「このカード化したヤツは作動したんだよな?」
僕がゾラにうなずくと「ちっ、面倒だな。音を鳴らしてもいいなら解除は簡単だが鳴らさずにはほぼ無理だからな。仕方ないからとりあえずコイツはこのままの状態で持っていくしかないか」と愚痴を言いながらポイと荷物の上にカードを放り投げた。
* * *
「――そろそろ出発の時間になるようですよ」
朝食の後でマリアーナが僕たちにそう言って馬車に乗るように促す。
「メシを食ったら眠気が来やがった。
夜はしっかり寝たような気もするがどうせ道中はやることもないんだから横になってるからな」
ゾラは馬車に乗り込むと早々に横になってすぐにいびきをかいて寝てしまう。
「実際は時間停止空間に居たので全く寝てませんからね。
もっとも起きていたとも言えないので疲れも溜まってはいないでしょうけど」
僕が小声でマリアーナにそう言うと彼女も微笑んで僕に「ミナトさんも昨夜は不寝番をされていたのですから休まれて大丈夫ですよ」と御者台の上からそう告げた。
「まあ、ぼちぼち休ませてもらいますので気にせずにお願いしますね」
正直言ってただ起きていただけだったが、気持ちに余裕が出来たことによりいつの間にか椅子にもたれ掛かるように眠っていた。
* * *
「ミナトさん起きてください。着きましたよ」
どのくらい寝ていたかわからないがマリアーナが僕の肩をゆすって起こしてくれた。
「着いた……ってまさか王都に着いたんですか?」
僕はまだはっきりしない意識を起こすように頭を振って外を見る。
「いえ、まだ王都には着いていませんよ。
ここは王都に向かう馬車が最後に休憩する場所だそうです」
マリアーナの言葉に僕は周りを見渡すと街道を広げたように馬車が停められる広場商隊の馬車が停まって食事の準備をしていた。
「すみません。
ずっと寝ていたようです。
すぐに昼食の準備をしますね」
「そんなに慌てなくてもミナトさんの昼食準備はスキルですぐですから心配はしてませんよ。
それよりも今日中には王都に到着する予定みたいですので着いてからの行動をきちんと話し合っておいた方が良いかと思います」
「そうですね。
では、ゾラさんも起こして昼食をとりながら話をしましょう」
僕はそう言うと馬車でいまだに寝こけているゾラを起こしに向かった。
「ゾラさん。
昼食になりますがその際に王都での行動を話し合っておきたいので起きてもらっていいですか?」
「ん? もうそんな時間か」
ゾラはそう言うとごそごそと起き上がって馬車から降りてくる。
「とりあえずメシを頼む。
話は食ってからでいいだろ?」
「まあいいですけど、きちんと話はしておかないと後で困ることになるからそこは絶対ですよ」
僕はゾラの態度に不満を覚えたが今は必要な我慢と心を落ち着かせた。
「――まずは商業ギルドへ行くからな」
食事を終えたゾラは開口一番にそう告げた。
「商業ギルドで何をするんです?」
「指名依頼を出すんだよ。
魔道具作成の依頼を出す時に製作者を指名することが出来るんだ。
ただしコイツは当然ながら指名料が発生するから通常の依頼に上乗せで別料金が必要だ。
王都の商業ギルドには知り合いがいるから繋ぎはとれるはずだ、ただし知り合いだからと指名料が安くなるとかはないがそこは了承してくれ」
ゾラは僕の顔を確認するように見たのでうなずくと続きを話し出した。
「とりあえず依頼で作ってもらうものは、そうだな……疲労軽減の腕輪くらいにしておくか。
あいつのレベルだとあまり難しいものを依頼するとびびって断るかもしれんからな。
そうして打ち合わせに来たあいつにカマをかけてみるといい。
あーだこーだと話をごまかすようなら俺が出て問い詰めてやるさ」
「喧嘩とか問題は起こさないでくださいよ」
「さてな、あいつ次第だが一応気をつけてやるよ」
ゾラはそう言うと不敵に笑った。
(うーん、コイツの言うことはあまり信用するには難しいが
いざとなったら問答無用でカード化して退場してもらうしかないか……)
「わかりました。
ではその予定でお願いしますね」
話がちょうどまとまった頃、移動再開の合図が聞こえてきたのでゾラはまた馬車に乗り込み椅子に寝ころがり、僕とマリアーナは御者台へとあがっていった。
「いよいよ王都ですね。
問題は……起きないはずがありませんけどやれることをやっていくしかありません」
僕はそう言うと今までに得た知識からどうすればノエルの首輪を外せるかを明確に導き出そうと目をつむり頭の中を整理していった。
(不完全な隷属の首輪を外すには製作者の魔力が必要になるからガーレンの協力が不可欠だ。
だが、まともに話してもしらばくれるだろうから脅してでも協力させるしかないか。
だとしたらどうすればやりやすいだろうか……)
そんな事を考えていた僕だったが、ふとある疑問が浮かび上がった。
(王都ギルドで指名依頼を出したとして本当にガーレンを王都に呼び出すことが出来るのか?
そもそもドウマ村がどこにあるかも知らないし、王都から離れた場所にあるのならばわざわざ依頼主と話などしないのではないのか?
まさかとは思うがゾラに騙されたのか?)
馬車の中で椅子にもたれ掛かったまま目を閉じているゾラを見て僕は首を軽く振って不安な考えを消すように気持ちを切り替えた。
「街壁が見えて来ましたね。
ようやく王都に到着です」
丘を越えた辺りから見える街壁は長く高く広がっており王都の大きさそのものを物語っていた。
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