第123話【王都への道①】
それから3日間で旅に必要な物資の確保を済ませてギルドから王都へ品物の運搬依頼が無いかを調べてもらい、ある商人が王都へ商売に向かう過程で荷物の追加運搬を引き受けるかたちでの随行が決まり、これにより王都へ向かう口実と単独で護衛を雇う必要がなくなりスムーズに街を出ることが出来ることになった。
「――ゾラさん、迎えに来ましたよ」
メロリア喫茶店の裏手に馬車を停めマリアーナがゾラに声をかけると深いフードをかぶったゾラが少ない荷物をもって家から出てきた。
「あんたが御者をするのか。
てっきり専属の御者を雇っているのかと思っていたよ」
御者台に座るマリアーナを見てゾラは驚いた表情で彼女にそう告げる。
「慣れてますのでご心配なく。
それよりも荷物が少ないですが大丈夫なのですか?」
「あ? 旅に必要なものは頼むと言っていたはずだが?
コイツは下着の替えとちょっとした魔道具だけだ。
そっちこそほとんど荷物が乗ってないようだが大丈夫なのか?」
「ええ、ほとんどの荷物は僕がカード化してますので問題ないですよ」
「ああ、そうだったな。
まあ、王都まではだいたい2日間くらいだから大丈夫だろう」
ゾラはそう言うとズカズカと馬車に乗り込んでドカッと椅子に腰をおろした。
「一応伝えておきますが他の商隊に随行するかたちになります。
僕たちだけで王都まで旅をするのに関係のない護衛を雇うのはいろいろと面倒なので商隊の荷物の一部を肩代わりする条件で随行を許可してもらっています」
「そうか。
まあ、俺はその辺の事情はどうでもいいさ。
とりあえず俺は寝るからメシになったら起こしてくれ」
「わかりました。
ではそのときに声をかけさせてもらいますね」
ゾラの態度はふてぶてしかったが、手がかりに一番近い人物であったので僕は過干渉をせずに放っておくことにした。
「あら、どうしたの?
馬車の中は快適じゃなかった?」
僕は当初は移動中にゾラから首輪に関しての情報を得ようと思っていたが、彼はほぼ寝てばかりいるので声をかけるタイミングがなく仕方無しに御者をしているマリアーナの横に座って前を眺めていた。
「彼が寝てばかりいるので他にやることもないから暇つぶしに出て来たんです」
「まあ、お互いに隠していることがある以上なかなか相容れないものだからね」
「ん? こちらはまあ分かるのですが彼も何か隠しているんですか?」
「ええ、おそらくね。
今回の件は私たちの案にのっただけの形にしているけど実際のところは別にあると私は見てるわ。
多分だけどガーレンという人物と因縁があるか彼が村を出た原因の元凶なのかもしれない。
まあ、彼にどんな秘密があろうと今回の件に対して協力を得られるならばこちらも知らん顔しておくのが最善だと思うわよ」
マリアーナは僕に聞こえるギリギリの声の大きさで慎重にそう話してくれた。
「どちらにしても面倒か待っている未来しか想像出来ないですね」
「じゃあ諦める?」
「ありえない答えには応えるちもりはありませんよ。
それよりもそろそろ休憩の時間になりそうですね」
少し前を行く商隊の馬車が道幅の広くなったところで速度を落として端に寄せるのが見えた僕はマリアーナにそう告げた。
「食事を兼ねた小休止でしょうね」
マリアーナはそうつぶやいて馬車を商隊の後ろ側にそっと停車させた。
「ここで食事休憩をとるぞ!
担当の者は手早く準備にはいれ!」
商隊の主人が数台に連なった馬車に向かってそう叫ぶと数人の者が中央に位置する馬車へ食事の材料を取りに向かった。
「では、私たちも食事にしましょう。
ミナトさん、いつものことですみませんがよろしくお願いしますね」
「いえいえ、マリアーナさんにはずっと御者をやってもらっていますから僕に出来ることはこのくらいのことですし別に僕が料理をするわけではありませんから」
僕はそう言って予定をしていた食事のカードを開放して彼女を手渡した。
「んー? なんかいい匂いがしやがるな」
「ああ、起きられましたか。
ゾラさん、こちらが食事になりますので馬車から降りてきて食べてください」
僕はそう言って彼の食事を準備して渡した。
「ぬおっ!?
なんだこりゃあ?
こいつはメロリアの食事じゃないか。
しかも出来立てのままで冷めてもいやがらねぇ」
「ゾラさんの好みが分からなかったのでメロリア喫茶店にお願いしてあなたのよく頼む料理を作って貰いました」
「はぁ? だがカード収納は時間劣化があるだろう。
なぜこいつは温かいままで出してこれるんだ?」
「まあ、それは秘密ということで……。
お互いスキルの事はあまり詮索されたくないでしょう?」
「ぐっ、ま、まあそういうことにしておいてやる」
ゾラは聞きたい衝動を抑えながら悔しそうにそう答える。
その時、食事をしている僕たちの後ろから声がかけられた。
「やあ、そちらの状況はどうだね?
まだまだ半分も来ていないがこれからの事を話しておこうと思ってな」
声をかけてきたのは先日のギルドを介した話し合いの場にいた商隊を率いている商人のヴァンだった。
「今のところは問題ないですね。
僕たちの馬車は重たい商品を乗せているわけでもありませんので馬もそれほどの負担にはなっておりませんのでそちらの進行状況にはついていけるはずです」
「それは良かった。
しかし、君のカード収納は思ったよりも優秀なんだね。
今回、君に商品の一部をカード化してもらわなければ馬車をもう2台ほど増やさなければ運べなかっただろう。
それだけの価値が君のスキルには有るってことだ。
どうだ? 王都での用事が済んだら私の商会に入らないか?」
まだ旅も序盤だというのにもう商会主人からの勧誘に「すみません、今の職場の主人には大恩があるので申し出を受けることは出来ません」と出来るだけ丁寧に嘘をついてお断りをした。
「そうか、それは残念だ。
もし、気が変わったらいつでも声をかけてくれたまえ最高の条件で雇うことを約束しよう。
では、王都につくまでよく考えておいてくれよ」
一度断ったのに全く諦めていないところが商人魂の旺盛さを感じる人だった。
「ミナトさん。
熱烈な勧誘だったじゃないの、いっそのこと就職してしまっても良いかもしれませんよ?」
「冗談はやめてくださいよ。
僕が何のためにここにいるのか分かっていてイジるのは迷惑しかありませんから。
それより早く食事をすませてください、遅くなると置いて行かれるかもしれませんからね」
僕は少しだけ不満を口にしながらも今後のことをぼんやりと考えた。
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