第112話【依頼の達成報告】
――からんからん。
いつものドア鐘の音を聞きながら僕は商業ギルドへと足を踏み入れる。
「あ、ミナトさん。
ちょうど良かった、お話があるので応接室へお願いできますか?」
ホールに入るなりアリシアが声をかけてくる。
(今日は依頼の報告に来ただけなんだが厄介事じゃなければいいが……)
僕はそう考えながらうなずいて指定された部屋へと向かう。
「そちらのソファーに座ってお待ちください、いま紅茶を持ってきますので……」
アリシアは僕を部屋へ案内するとそう言ってパタパタと部屋を出ていった。
数分後、トレイに紅茶を2つ乗せたアリシアが姿をあらわして僕の前とその向かい側にひとつずつ置いた。
誰か他にひとが来るのかと一瞬身構えたがその紅茶の前にはアリシアがそのまま座ったためにひと息ついた。
(彼女も自分用の紅茶を淹れてきたところをみると話は長くなりそうだな)
そう考えて少しばかりうんざりとした僕だったが表情には出さずにアリシアにたずねた。
「それでどういった話ですか?」
僕の問いかけにアリシアはいくつかの書類を僕の前に並べて話をはじめる。
「まず、魔道喫茶メロリアでの件になります」
「あの依頼は完了報告も済んでいたと思いますがなにか不手際でもありましたか?」
「そうですね。
不手際といえば不手際ですがミナトさんではなくギルドの不手際ですね」
アリシアはそう言って苦い表情をしながら説明をする。
「先日、ミナトさんから報告を受けていた動く箱についてギルドでも調べたところ持ち主が故意に配達員を転倒させていた事実が判明しました。
確かに数度、配達依頼時に転倒して破損したとの報告は受けていましたが皆どうして転倒したかまではわかりませんでした。
しかし、今回ミナトさんからの指摘で鑑定持ちのギルド職員が確認を行き
「罰則ですか、どういったものか聞いてもいいですか?」
「今回はイタズラの度合いが子供じみていることと初犯だとのことを考慮して実害を受けた方への金銭的な補償と謝罪で今後同様の事をした場合はさらに重い罰則を課すことを契約させました」
「そうですか。
なかなか面白いギミックでしたので興味はありましたが実害がでるようなイタズラはやはり良くないですからね」
僕はそう言って出された紅茶に口をつける。
「そうですね。
しかし、それだけでは実害のなかったミナトさんへの補償がありませんのであなたが望む要求を伺いたいと思います。
もちろん出来ることと出来ないことがありますが、例えばあの動く箱が欲しいとかであれば要求できるかと思います」
アリシアの言葉に僕は「ふむ」と考えを巡らせ、ある要求が通るかを聞いてみた。
「……出来るとは思いますけど彼が素直に話すかはわかりませんよ」
少しばかり難しい表情でアリシアはそう答える。
「向こうが僕に対して有効的ではないことは分かってるけど、その辺りはギルドから軽く圧力をかけてもらえると助かるんだが……」
「簡単に言いますけど、権力を傘に来て威圧的に出ると余計に意固地になるかもしれませんからね」
「まあ、その時はその時だからやれるだけで良いですよ」
僕はそう言ってニンマリと笑う。
「話はそれだけかな?」
思ったよりも早く話が終わったので依頼の報告をしようと確認をする。
「あ、あと子爵家からの依頼の進捗はどうですか?
わたし的にはかなり厳しい時間設定だと危惧してるんですけど、本当に大丈夫なんですか?」
一通りの連絡事項が終わってほっとした表情でアリシアがそう聞いてきた。
「ああ、今日はそれについての報告をするためにギルドに来たんだ」
僕はそう言うとポーチから4枚のカードをテーブルに並べて話を続ける。
「いちおうここに依頼のあった4つの品物が揃っています」
「本当ですか?
……確かに指定の素材がカード化されているように見受けられますがいちおうとはどういったことなんでしょうか?」
アリシアの言葉に僕はカードを指しながら説明をしていく。
「まず、もともと持っていたノーズベリーに関しては問題ないです。
そして、ぐるぐる草とすずなり芋もカード化の解き方を気をつければおそらく大丈夫だと思います。
一番厄介なのがグレードボアでカード化をして無力化はしていますがカード化を解いたらまた暴れ出すのは間違いないんです。
コイツを逃さずに倒せる手段を見つけないと納品が出来ないんですよ」
僕の淡々とした説明を聞いたアリシアは「なんですか、それ?」と驚いた表情を見せたが暫く考えて「訓練場の許可をとりますから討伐にはギルドに依頼をだしてください」と言って必要な書類を持ってきてくれた。
「この依頼はどのくらいのお金がかかるんですかね?」
書類を書きながらアリシアにそう問うと彼女は腕試しと経験値が欲しい者限定にすると良いのではないかとアドバイスをしてくれた。
「――では、そのように募集をかけてもらえますか?
素材納品の期限が明日までなので明日中にはどうにかしたいと思っています。
まあ、もし依頼の受注がなければカード化したまま持って行こうと考えてますけどね」
最悪の場合、子爵家にカードのまま持ち込んでそこの騎士などに討伐をさせてもいいだろうとも考えていた僕はアリシアにそう伝えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます