第62話【ノエルの気持ちとスキルの使い道】
「私には言えない相手なの?」
部屋に入りファーストドリンクを注文したノエルは店員が出たのを確認してから僕にそう聞いた。
「別にやましい関係じゃないから言ってもいいよ」
僕はそう前置きをしてから話を続けた。
「ロギナス斡旋ギルドの受付嬢をしているサーシャさんに美味しいお店を聞いたら教えてくれたんだよ。
ちょっと前から彼女の担当していた塩漬け依頼を僕がいくつか引き受けた関係でたまっていた仕事が片付いたお礼として食事を一緒しただけなんだよ」
ここで下手に隠したり嘘をつくとどんどん沼にハマっていくであろう事は前世の経験から痛いほど理解していた僕は正直に説明をする。
「な、なぁんだ。
仕事のお礼に誘われただけなんですね。
実は私も彼女からこのお店を教えて貰ったんですよ。
このお店は料理もだけどお酒が美味しいと凄く強調してたのが印象的でした。
サーシャさんってああ見えて結構なお酒マニアなのかもしれませんね。
そっか、ミナトさんはサーシャさんと先にこのお店に来てたんですね。
新しいお店を紹介出来なくてごめんなさい」
ちょっとだけ複雑な表情を見せたノエルだったが僕が全く動じていないのを見るとそれ以上の事は聞けずに別の話題を振ってきた。
「それで、研修ってどういった事をするんですか?」
「基本的には毎日スキルを繰り返し使うだけなんだけどそれだけじゃモチベーションが続かないからギルドで依頼を受けたり人数が増えたら競争をさせたりしてみたいですね」
「なんだか楽しそうでいいなぁ。
私もときどき見学にいっても大丈夫かな?」
「うーん。
まあノエルさんは今回の計画は当然知っているし、ある意味スポンサーの娘だから見聞きした事を他で話さなければ問題はないと思いますよ」
僕は少し考えてからそう答えるとノエルは嬉しそうに「約束ですよ」と僕の手を握りしめた。
「お待たせしました。
エールを2つお持ちしました。
お食事の注文はお決まりになりましたか?」
「はい。
ボアの串焼きと香草サラダ、マッシュキノコのスープとアロウパンの盛り合わせをお願いします」
事前に何を注文するかは決めていなかったがノエルは迷うことなく次々と料理を注文していった。
「ありがとうございます。
では、出来上がった料理から順次お持ち致しますのでしばらくお待ちください」
店員はそう告げるとお辞儀をして個室から出る。
「とりあえず飲んでから話をしましょうか」
僕がそう告げると彼女もうなずいてからグラスに口をつけた。
「相変わらず口当たりの良いお酒ですよね。
あまりお酒の感じがないので飲みすぎないように気をつけないといけないですけど……」
一口飲んでから僕が感想を言うと「そうですね」と彼女も返してくる。
「――ミナトさんって今どれだけの事が出来るのか聞いても良いですか?
あ、もちろん話せる範囲でいいんですけど……」
「僕が出来る事ですか?
多分ノエルさんが知っている事がほとんど全部なんじゃないかと思うけれど、カード収納に関してはある程度のサイズのカード化が出来ること、種類が固形だけでなく液体や気体、生き物や魔法などの無機物のカード化も出来ることくらいですかね」
「それに、先ほど処理してくれた条件開放の付与魔法ですよね。
あんな便利なものがあったら大きな倉庫がいらなくなっちゃいますね」
ノエルはそう言って自分のお店にある在庫倉庫を思い浮かべた。
「――お待たせしました。
香草サラダとボアの串焼きになります。
残りはもう少しお待ちください」
話を進めていると店員がタイミング良く料理を運んでくる。
「相変わらずこのお店の店員は話の区切りのタイミングで料理を運んで来ますよね。
本当に何処かに音声伝達装置でもあるんじゃないかと疑いたくなるレベルだよ」
店員が部屋から出ると僕は苦笑いをしながらそうノエルに話をした。
(まさか個室に
一体どうやってるのだろうかと考えているとノエルが僕の様子を見てそれに気がついたらしく教えてくれた。
「店員さんの入室タイミングが気になるのですか?
あれは商売スキルの派生で『空気読み』と言うものを応用しているのですよ」
「空気読み?」
「ええ、本来の使い方は接客時に相手方の感情を読み取って商売の交渉をするのに使うのですが、今回のように部屋の中から発生する『今は入って欲しくない』空気を読んでそのタイミングは避けるといった感じでお客の心情を良くするサービスをしているのでしょう」
初めて聞いたスキルの使い方に僕は驚いて「それって本当の話?」とノエルに再度確認をした。
「本当もなにも私も持っているから間違いないですよ。
あ、でもこのスキルは商売スキルの派生だから商売に関することでなければ使えないので今話しているようないつもの会話には発動しないから安心してもいいですよ」
「商売スキルって凄いんだな。
まあ、誰かが言ってたけど「女神様の与えるスキルに意味のないものはない」って本当のことなんだろうね。
実際に僕の授かった収納スキルも最低の評価が定着していたけどレベルを上げてみれば有用なスキルだったし、他にもまだ僕が知らないだけで有用なスキルはいくらでもあると知れただけでも収穫があったよ。
ありがとうございます」
僕はなんとなく嬉しくなって教えてくれたノエルにお礼を言って話を区切った。
「――お待たせしました。
マッシュキノコのスープとアロウパンの盛り合わせになります。
現在ご注文の品はお揃いでしょうか?
追加の注文があればそちらの穴に御用の目印を挿してお知らせください」
店員はそう伝えるとお辞儀をして個室から出ていった。
「ははは、なるほど。
本当に話の区切りで持ってくるんだね。
このスキルを使ったサービス形態を考えた経営者はかなりのやり手なんだろうね。
僕たちみたいな一般のお客でも気まずい雰囲気にならないのが嬉しいのにもっと偉い人たちなんかには絶大な効果を発揮するんだろうな」
僕はそう感心をしながらノエルと共に美味しい料理を食べながら楽しい時間を過ごした。
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