第54話【アーファの提案】

 エルガーの街を出発してロギナスへと向かう馬車の中で僕はアーファにスキルの指導を行っていたがそれを見ていたノエルがため息をついて呟いた。


「やっぱりカード収納スキルって便利ですよね。

 私も欲しかったなぁ」


 それを聞いたアーファがノエルに話しかけた。


「えっと、ノエルさん……でしたよね?

 あなたも今回の研修に呼ばれたカード収納スキル持ちじゃないんですか?」


 アーファはこの馬車の紋を確認していなかったらしくノエルが何者かは説明を受けていなかったようだった。


「ノエルさんはマグラーレ商会のお嬢さんでロギナスの町で雑貨屋を営んでいるんですよ。

 マグラーレ商会は今回の研修企画に協賛とのかたちで施設の使用料を出してくれる所謂いわゆるスポンサーの立場になっていてこの馬車も商会のものなんです」


「えっ!? そうだったんですか?

 綺麗なひとだとは思ってましたけどそんな大手商会のお嬢様だったんですね」


 アーファがノエルの素性を知って驚いて声をあげる。


「まあ、そんなところなんだけど私自身にはそれだけの権限も力もないからそんなにかしこまらなくてもいいですよ。

 それにカード収納スキルが欲しかったのは本当だし、それが使えるあなたが羨ましいわ」


「そ、そんな……。

 私なんて結局今まで調理スキルしかあげていなくてカード収納スキルなんていらないものだと思ってましたから……」


 僕はアーファの答えに疑問をもち、それを引き出すために彼女に質問をする。


「アーファさん。

 どうしてカード収納スキルはいらないなんて思ってたんですか?」


「えっ?

 だって周りの人たち全員が『使えない駄目スキル』だって言ってたから……。

 幸い? 私のメインスキルが『調理』だったからそれを極めれば何処の食堂でも雇ってもらえるって聞いたからとにかくカード収納スキルの事は忘れて調理スキルばかり気にして上げていたの」


 やはり彼女も周りの評価に左右されてカード収納スキルは捨てスキルとして扱われていた。


「よっぽど想像力の足りない人が噂を広めたんだろうね。

 確かにサブスキルだとそれほど大きなものはカード化出来ないけれど、それでも普通に運ぶことを考えたらありえないくらいの恩恵があるはずなんだけどね」


 僕がそう話していると野営の定位置に馬車が着いたので一旦話は終わりとなった。


「お疲れ様。

 今日はここで野営をするそうだから食事の準備をするよ」


 馬車から降りた僕は「んー」と大きく伸びをしてから皆にそう伝えるとアーファか「あのっ!」と言って手をあげた。


「アーファさん。

 どうかしましたか?」


 僕の問いかけにアーファは僕がカード化した荷物を取り出して「食事ならば私が作りますよ」と言って腕まくりをしながら提案をする。


「ああ、そういえばアーファさんのメインスキルは調理でしたね。

 確かに調理道具もあることだし材料さえあれば出来たての食事をふるまって貰えるって事ですね」


「はい!

 ってそういえば調理の材料は持ってきているのですか?

 まさか現地調達という訳では無いですよね」


 馬車にはほとんど荷物を乗せていないように見受けられてアーファが首をひねる。


「あ、そうか。

 ミナトさんのスキルで調理用の材料を運んでいるんですね?

 鮮度の保持が出来るって凄く助かりますよね。

 では、調理材料と私のカバンのカード化を解いてください」


 アーファの言葉に僕は少し考えてノエルの方を見た。


「ミナトさんは何か調理に使える食材を持ってますか?」


 ノエルの質問に僕は「そうですね……」と答えてからカード化されたの食材を確認する。


「いくつかはありましたので何とかなるかもしれません」


「ならばアーファさんにお任せするのも良いかもしれませんね。

 彼女の調理スキルでどんなものが出来るか見てみたい気もしますので……」


 ノエルがそう言うとアルフィードや銀の剣のメンバーは「お任せします」とばかりに各々必要な事を始めた。


「では、せっかくなのでお任せしましょうかね。

 今提供出来る食材はこれくらいですのでこれで何か作ってみてください」


 僕はそう言うと金色こんじきマースの他、ボアの肉や香草など数種類の食材をカードから開放して一緒に出したテーブル上に並べた。


「あ、これも開放しておきますね」


 僕はアーファの荷物から調理器具を選んで開放しそっと側に並べておいた。


「こ、こんなに食材があるんですか?

 と言うか今回だけでこれだけ使ったら明日からの食材が足りなくなったりしませんか?」


 アーファは出てきた食材の多さにも驚いたがそれよりも明日以降の心配を先にしていた。


「それは大丈夫ですから、今出した食材は全て使っても良いですよ」


 僕はそう言いながら元々提供するつもりだった完成した料理のカードをアーファに見せた。


「これはもしかしてギルドの食堂で提供されている食事じゃないですか?」


 さすがにいつも自分が作っている食事は見れば分かるようで驚きの表情で僕を見る。


「まあ、そういう事だからその食材は使っても大丈夫なんだ。

 それよりもいくら調理器具があってもこんな厨房もない野営できちんとした料理が出来るのかが凄く興味があるんだよ」


 僕とノエルの興味津々に期待を込めた表情でアーファを見つめる。


「そ、そんなものを見せられたらギルドの食堂より美味しいものを出さないといけないじゃないですか!」


 もともとギルド食堂の調理を任されていたアーファがいつもの調理をこんな設備のない場所で越えるなんてほぼ無理ゲーなはずだったが彼女は逆にわくわくした表情で食材と調理器具を確認し始めた。


「せっかくなんで金色マースを使わせて貰いますね」


 アーファはそう言うと大きなカバンから取り出した調理器具から大ぶりの包丁とまな板を取り出し簡易的に作ったテーブルの上で綺麗に3枚におろしていった。


「すみません。

 どなたか火の魔法を使える方はいらっしゃいますか?」


「火の魔法?

 私が使えるけど何をすれば良いの?」


 話を聞いていたメトルがアーファに聞く。


「時間短縮のためにこの簡易かまどの火付けをお願いしたいんですけど魔法での着火は難しいとも聞いていたので出来ればなんですけど……」


「なんだ、そんなことならお安い御用よ。

 ファイアボール」


 メトルは魔法を発動させて小さな火の玉を手の上に浮かび上がらせた。


「この火はこの状態だと不思議と熱くもないし燃えたりもしないんだよね。

 でも、この火の玉をそっとかまどの下に持っていってそっと制御を弱めていくと何故か焚き木に火がつくのよ」


 メトルはそう言ってドヤ顔で説明してくれた。

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