万年補欠の下克上!!!(第3期)ー再転生した野球少年は底辺スキル「支援魔法」でメジャーリーグを駆け上がれ!

風庭悠

スプリングトレーニング!

有望株ランキングで1位な男。

 前世、俺は万年補欠の野球少年だった。だが努力すれば必ず報われるほどこの世界は優しくはなかった。


 それは野球部の合宿帰りに事故に巻き込まれて野球部ごと異世界に「集団転移」した時も変わらなかった。


 「加速アクセラレイト!」

俺はさらに加速魔法スキルをかけると武装したオーガの群れへと突っ込んでいく。相手の動きが手に取るように見えるので盾は使わず日本刀に似た両手剣ツーハンデッド・ソードで次々に倒していく。


体力倍加エンハンス!」

皮製なら鎧ごと相手を斬り伏せていく。埃が立ち上り、血飛沫が吹きあがる。


 剣からは肉を斬り、骨を断つ感触が伝わってくる。内臓の脂肪を切り裂いていく感触も伝わってくる。


 人の姿ではない魔物とは言え最初は抵抗感もあったし、少年期の幼さを残す個体を絶命させた時には罪悪感もあった。


沢村サワ!詠唱が終わった、死にたくなければさっさとどけ。地獄の業火ヘル・フレア!」

警告も済むか済まぬかのところで後ろから衝撃波が俺を追い抜いていく。俺にあたっても構わないというのはわかる。苛烈な音響と閃光。⋯⋯そして、肉の焼ける香ばしい匂い。


 15分ほどの戦闘で10体もの魔物をたおした俺の技倆ぎりょうを嘲笑うかのように、たった一瞬で数千の魔物が消し炭のように消えていく。


俺の仕事は仲間の呪文が発動するまでの「時間稼ぎ」に過ぎないのだ。



 俺のスキルは「支援魔法バッファー状態異常魔法デバッファー」の「対単体」。つまり、一度に一人分しかかけることができない「外れスキル」。仲間には一度に広範囲にかけることができる俺の「上位互換」もいたのだ。


 なぜかって?例の「白い部屋」で女神から背番号順にスキルを割り振られたからだ。背番号15の俺に与えられたのはこのどうでもいいスキルしか残ってはいなかった。

 

 ゆえに15人の勇者たちの中では「最弱」である。できるのは仲間の大魔法使いの「盾」になるくらい。あとはチームの雑用係。それさえも一緒に転移したマネージャーたちに比べれば「下位互換」でしかない。


 召喚先の国王陛下に引見された時、俺のステータスを見た時の彼らの複雑そうな表情は忘れられない。哀れみと、落胆と、そして侮蔑が混じったその顔を。


「はーっ。」

死んだ魔物たちから「魔石」を採集するという後始末を終え、宿営キャンプに戻ると仲間たちは街の酒場(2階が娼館ムフフなところ)に出払っていた。戦闘面で貢献度が低い俺は魔物の解体もこなさなければならない。すぐにやらないと腐敗してとんでもないことになるのだ。


沢村さわくんおつかれ。魔石は全部集まった?」

マネージャーの知世が俺に大麦酒エールを渡してくれた。

「ああ。」


俺が袋いっぱいに入った魔石をもう一人のマネージャーの亜美に渡すと彼女は袋から発せられる異臭に顔を歪めてそっぽを向いた。

「オーガは贅肉多めだから魔石が脂臭くて困る。一回ちゃんと川で洗って天日干しした方がいいかも。とりあえずあんたも臭うよ。ケントさんからお風呂券(浄化魔法陣のこと)もらってきて!」

 貴重品の「収納担当」としてはあまりに臭いものは嫌らしい。


 不遇に過ぎる「勇者生活」だったが、その世界で知り合った先導者チューターのケント、そして幼馴染で野球部のマネージャーで親友以上恋人未満の亜美に支えられながらそれなりに生きていた。


 しかし、それも長くは続かず、俺の存在を快く思わない仲間からの見殺しに遭い、気がつけばまた、あの「白い部屋」に。


「あぁ、⋯⋯悔しいなぁ。」

俺は心底そう思った。「持たざる者」の末路はいつだって悲しい。


 俺は女神から「再転生」の権利を与えられた。だが、「外れスキル」「屑スキル」「雑魚スキル」と思われた「支援魔法(対単体)」と前世の記憶。勇者特典とはいえ、そんなものが役に立つ世界なんてあるのだろうか?


⋯⋯いや、ある。スポーツだ。


スポーツの世界ならスピードアップとパワーアップできたら無双できんじゃね?

俺は迷わずに「平成時代の日本」に似た世界に赤ん坊として転生したのだ。


 そう、魔法を活かして最強の野球選手になるために。


 そして時は経ち、俺は地道に研鑽を続け、マイナーリーグを経てついに「メジャー契約」をゲット。昨シーズン末に3週間ほどのメジャーデビューを果たした。今シーズンは万年補欠少年からの下克上人生も「一つの」佳境を迎えている。


 そして平成22年1月、MLBが発表した「プロスペクトランキング」で俺は全体ランキング1位をマークした。

 「プロスペクト」とは「鉱石」という意味で日本語で言うところの「有望株」とか「金の卵」というニュアンスである。


 これは開幕前に発表され定期的に順位が変動していく。


 ようは全米でもっとも注目すべき「新人選手」ということだ。もちろん俺は昨シーズン末に3週間だけメジャーに在籍しただけで新人王に選考される資格はまだ持っているため今年までは「金の卵」のままなのだ。


 ちなみに俺は昨シーズン末にランキング1位になり、開幕前のこの時期も評価は変わらないようだ。


 ランキングで俺に対する評価はこうだ。


「沢村健。今もっとも注目される二刀流選手2way-player。投手としては時速100マイルをマークする速球を誇る右腕と精密機械のようなコントロールを誇る左腕を持つ。しかも両打ち選手スイッチヒッターであり右でも左でも長打を期待できOPS(打率+長打率)は驚異の10割超え。半シーズンずつ在籍したサザン・リーグ(AA)とインターナショナルリーグ(AAA)で同一シーズンで二階級本塁打王を史上初となる獲得。フルシーズンでメジャーに出場すれば新人王にもっとも近い選手である。」


 俺はあの「悔しい」という気持ちを忘れないだろう。そして、それがこの「万年補欠」人生からの「下克上」への強いモチベーションになっているのだ。


 異世界では1000体の魔物を一瞬で吹き飛ばす魔法がなければ勇者とは見なされなかった。でも、野球の世界では違う。たった一つのボールをスタンドに打ち返せば「勇者ヒーロー」なのだ。そう、たったそれだけなのだ。



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