㉙ラーメン屋のおやじ、態度急変させるも遅きに失した観ありのこと。
童顔スキンヘッドの手の中で、パチリとナイフの刃が開いた。
その尖った切先が瀬乃の目の前でふられた。
「おめえらもだ」
童顔スキンヘッドはいった。
「はやく財布を出しな」
「はあん? あたしらは無関係じゃん」
瀬乃はいった。
「嫁入り前のツラに傷なんてつけたくないだろ? 素直にしたほうがいいぜ」
童顔スキンヘッドはそういって、瀬乃のふところに空いているほうの手を伸ばした。
糺一がその手首をつかんだ。
童顔スキンヘッドと糺一の視線が宙でぶつかりあった。
「あーあ、そうだよなあ」
童顔スキンヘッドはおどけた口調でいった。
「カノジョの前ではカッコつけたいよなあ……でも、高くつくぜ」
一挙動で、童顔スキンヘッドのナイフが糺一めがけてとびこんできた。
糺一は、紙一重でかわした。
かわしたというより、直前で瀬乃が糺一のからだを突き飛ばしていた。
カウンターのむこうで、おやじがよろよろと立ち上がった。
「おい、客に手を出すな!」
おやじはそういって小でぶリーゼントをみた。
「わかった、みかじめは払う! 払うから、あいつを止めてくれ!」
小でぶリーゼントは外国映画の登場人物みたいに大げさに肩をすくめてみせた。
「あいにく、あいつがああなったら俺にも止められねえんだ。もっといえば、あいつ自身にもどうしようもねえのさ」
瀬乃につきとばされて床に転がった糺一は、あわてて体勢をととのえようとした。
そこへ容赦なく童顔スキンヘッドの蹴りが入ってきた。
立ち上がりかけていた糺一は、蹴飛ばされてふたたび床に尻もちをついた。
さらに追いうちをかけようとした童顔スキンヘッドに足払いをかけたのは瀬乃だった。
童顔スキンヘッドはバランスを失って膝をついた。
その無防備になったところへ、すかさず瀬乃は自分が座っていたカウンター椅子を投げつけた。
重い椅子の直撃をまともにくらった童顔スキンヘッドは床に倒れこんだ。
糺一は驚きあきれて立ち上がると、火みたいになっている瀬乃の腕をとって店の外へ逃れようとした。
その糺一の顔面に、加勢にきた金髪ジャージのスパナが叩きこまれた。
硬くて冷たい金属の工具が鼻っ柱にめりこんだ糺一は顔をおさえてうずくまった。
瀬乃は糺一を殴った金髪ジャージに体当たりを仕掛けようとした。
仕掛けようとしたその華奢なからだが、いきなりクレーンで吊り上げられたみたいに宙できりきり舞いした。
すでに立ち上がっていた童顔スキンヘッドが、瀬乃の髪の毛をわしづかみにして持ち上げていた。
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