プロローグ

 異世界転生物が流行って早数年。

 それ関係の小説を読み漁っていたけれど、まさか自分自身がそんな目にあうとは思っても居なかった。

 前世のわたくしは、アラフィフまで生きた喪女で、最期は確か事故死。

 車に轢かれそうになった猫を庇ったのがきっかけだったはず。

 転生した世界は、死ぬ前にはまっていた乙女ゲーム『デッド・オブ・ラブ』の世界だと、なぜかストンと理解した。

 というのも、わたくしはそのゲームにドはまりしていたから。

 前世を思い出したきっかけは怪我をしたとか、高熱を出したとか、夢にうなされたと言うものではなく、本当にストンとしたもので、うまいこと今のわたくしと融合したのだと思う。

 アラフィフだったので、十八禁の乙女ゲームもギャルゲーにも手を出していたし、最終的には喪女だったとはいえ、一夜の過ちだったとはいえ処女もちゃんと失っていた。

 さて、ツェツゥーリア=デュランバン。それがわたくしの今の名前で、この国の魔の森に隣接した辺境の領地を守る辺境侯爵家の長女。

 家族はお父様と、兄が二人で、お母様はわたくしを産んだ後の産後の肥立ちが悪く亡くなってしまっている。

 わたくしはお母様にそっくりな色合いを持っているそうで、将来はお母様そっくりの美女になると言われており、お父様と兄二人からこれでもかと溺愛されている。

 この世界の元なのか、酷似しているだけなのかはわからないけれど、『デッド・オブ・ラブ』というのは、最新版はスマホアプリなのだけれど、元のゲームはそれよりも十年前にパソコン版で販売された十八禁の乙女ゲーム。

 スマホアプリという事で、あからさまなそういう、いわゆるエロシーンはカットされているけど、結構ギリギリなイベントがあって、多くのユーザーを虜にしていた。

 でも、普通異世界転生っていえば、ヒロインに転生とか、悪役令嬢に転生というのがお約束なのに、なにゆえにモブに転生してしまったのだろう。

 遠巻きにヒロインと攻略対象のイベントを覗き見ることが出来るかもしれないけど、色々な小説を読み漁っていたわたくしとしては、いまいち物足りない。

 まあ、貧乏貴族とかじゃなく、裕福な貴族の家に生まれているだけ、ラッキーなのかもしれない。

 残念ながらお母様は居ないけれど、わたくしを愛してくれる家族がいるもの。

 とはいえ、兄達は王都の王立学園に通うため、普段は王都にある屋敷にいるから、長期休暇以外会えないのだけどね。

 三歳という事で、わたくしは乳母に面倒を見てもらいつつ、やっと淑女教育が始まったところだけれども、前世でも好きな事の知識は貪欲に求める性質で、淑女教育はともかくとして、ファンタジー要素満載の魔法には俄然興味が湧いている。

 三歳の誕生日に受けた魔力測定では、成長途中なのに結構な量の魔力と、風の魔法属性が認められた。

 モブのわたくしにも魔法属性があるとわかって、テンションが爆上がりしたのは言うまでもない。

 魔法属性がなかったとしても、魔力があれば無属性の生活魔法は使えるっぽいので、どっちにしろテンションは爆上がりなのは間違いなかっただろう。

 それからわたくしは、淑女教育の傍ら、魔法の勉強に熱心に取り組んだ。

 幸い、我が家は魔の森に隣接している為、代々王国屈指の戦士を輩出しているせいか、魔法関連の書物も多い。

 お父様は火と土、上の兄様は火と水、下の兄様は水と土だから、風の属性を持っているのはわたくしだけなので、その点で教えを乞うのは難しかったけど、前世のゲーム知識を駆使して様々な魔法を編み出していこうと思う。

 基本は魔法の知識に貪欲だけど、お父様や兄様達に恥をかかせるわけにもいかないから、ちゃんと淑女教育や教養の勉強も真面目に受けている。

 ただ、辺境侯爵家という特殊な環境のせいか、淑女教育には寛容で、よくある転生物の小説に出てくるようないわゆる完璧な淑女になるような詰め込み教育と言うものはされていない。

 でも、六歳になって王立学院に通うようになったら、モブとはいえ家に恥をかかさないように、ちゃんと淑女として振舞わないと、とは思っている。

 だって、普通の貴族の令嬢は、子供だからって庭を走って芝生の上を転がったりはしない物だし、木登りも多分しない。

 っていうか、元がパソコン版の十八禁ゲームだったせいか、スチルで出てくるドレスが中々にきわどい。

 全体的に肌の露出度が高い。胸とか、謎のパワーで布が肌にくっついているとしか思えない。

 学院なのに制服という概念がないし、悪役令嬢達は素材の良さをつぶすようなお約束な厚化粧だ。

 それぞれの断罪イベントで化粧をしていない姿に、多くのユーザーが『運営はツボをわかっていない!』と抗議が入ったとかなんとか。

 というのも、この世界は、高位貴族になればなるほど、香水をたくさんつけて、白粉を塗りたくって、アイラインをがっつり、アイシャドウもどぎつく、口紅は真っ赤にっていうのが常識っぽいからしかたがないね。

 でも、生憎わたくしはそんな真似をするつもりはないけど!

 若いうちから肌を痛めつけると、年を取ってしっぺ返しが来るんだぞ!

 それに、この世界の食事も気に入らない。

 焦げ目がつくほどに焼いて香辛料をこれでもかとかけるか、原形がなくなるまでにどろどろに煮込むだけ。

 もちろんパンが主食でお米も無ければ麺類も無い。

 とはいえ、まだ三歳のわたくしでは厨房に入る事も出来ないだろうから、情報を集めて、料理の材料になりそうなものを発見及び、開発できる環境を整える感じかな。

 幸いこの家には本がたくさんあるし、いざとなったらわたくしに激甘なお父様をつk(げふん)頼って、情報を集めればいいわよね。

 前世では色々な料理に手を出していたし、大丈夫だと思うのよね。

 化粧品にも手を出して、化粧の概念も変えておきたいわ。

 医療品関係も、充実させた方がいいだろうけど、流石に薬学はちょっと専門外だから、それはこの世界で勉強しないといけないかも。

 わっ、こう考えてみると、モブなのにやる事がいっぱいじゃない?

 うーん、とりあえず、がんばろう。

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