第7話 水タマを両手で掴んでドーン
無駄に青春の汗を流した俺達は改めて、デカく重厚な鉄扉の前に立った。
ふと左右の石像から視線を感じた気がして、ちら見したがやはりただの石像だ。
まさかな……ここはスルーが賢明だろう。
扉には魔法陣の様な紋様が刻まれているが当然意味は解らない。
俺がフムと唸っていると、おもむろにアスカはその魔法陣に手をかざすと呪文を唱えた。すると、魔法陣が淡く青く光り、ガチャリという重い音と共に扉が手前にゆっくりと開いた。
まるで銀行の金庫みたいだな。
「この扉は我しか開けることはできないのだ。もちろん内側からもな」
「へー、どういう仕組みなんだ?」
「簡単なことだ。開けるには合言葉の呪文と一定の魔力が必要なのだ」
「なんか厳重だな。侵入してくるような危険な敵でもいるのか?」
不安になって後ろを振り向くがもちろん誰もいない。
「今の所侵入者はおらんが用心に越したことはないのだ。お主の様なおかしな
「誰がおかしな輩だ。俺は
俺は腰に手を当て主張すると、アスカは俺のバスタオル一枚の恰好を見てフッと笑った後、こう言った。
「ようこそアスカグラン邸へ!」
俺は初めての女の子の部屋にドキドキしながら扉の中へと歩みを進める。
ん? 何か想像してた女の子の部屋と違うのだが……。
中に入ると薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。洞窟の通路の様になっていて、先の方が暗く見通せない。
気のせいか奥の方から嫌な気配を感じるのだが。背筋がぞわっとする様な……。
「おい! どうしたのだ。はよ入らぬか」
「ひゃっ!?」
俺が言い知れぬ恐怖で立ちすくんでいた所、後ろから声を掛けられたので、変な声が出てしまった。わざとじゃないですよねアスカさん!?
「ああ、言い忘れておったが、たまに魔物が襲ってくるから、気を付けるのだ」
「はあ!?!? 今何て!?」
アスカがサラッと恐ろしい事を言った。
いやいやおかしいだろ! 何でお家に魔物がいるのさ! まさか飼ってる訳ないよね!? てかここ、お家というよりも――
その時、後ろの重厚な鉄扉がガチャリと完全に閉まった。もう逃げられないじゃん! 恐怖と不安で俺のアソコも縮こまる。
「魔物が襲ってくるぞと言っているのだ。ダンジョンだからな」
「つ!? ダダダ……ダンジョン!? ……ダンジョンきたぁぁぁぁぁ!!! うげっ」
思わず大声の出てしまった俺のプリ尻を後ろから蹴り付けられ、もんどりうって前に押し出されてしまった。アスカひどい!!
つ!? 薄暗い中、前から何か来る!
暗がりからゴロゴロと転がりながらヌッと現れたのは……丸いフォルムのボーリングの球のようなモノ。
表面は薄い水色で、中に濃い水色のビー玉の様なものが見える。
意外と可愛い。どうやら転がって移動してきたようだ。
「ス……スライム? アスカ! どうしたらいいんだ!? 敵なのか?」
俺は意外に可愛いフォルムに拍子抜けしながらも、警戒しつつ後ろのアスカに尋ねた。
「それは
何か馬鹿にされている気がする。さっき穴にはまっていたのをいじられた意趣返しだろうか。性格悪いぞアスカ! とアスカを睨む。
という一瞬の間に、水珠が高速に転がってくると、足元でそれが突然上に跳んで俺のアソコにクリーンヒットした。そう避ける間も無かった。
「グハッ♂×〇▲◇!?!?!? グエッ……ちんじゃう……」
俺はあまりの激痛にアソコを押さえながら、ゴロゴロとのたうち回り悲鳴をあげていた。
その横で嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる水珠。
その光景を見て腹を抱えてクックックッと笑いを
俺は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらこの世の全てを呪った!!
「くっ、油断してる隙に攻撃とは卑怯な……許さん!!!」
俺はブチ切れた!
カチャリ……俺の脳内で何かがハマる音……。そして奇妙な感覚。
が今は戦闘に集中だ! 俺は憤怒の形相で、小鹿のように脚をぷるぷる震わせながら立ち上がるとファイティングポーズをとる。
「かかってこいやぁぁぁ!!!」
俺は異世界に来てから全く活躍出来ていない。
ゴブリン共も結局全てアスカが倒してしまった。このままアスカに頼っている訳にはいかない!
俺の本気が伝わったのか水珠は跳ねるのを止め、警戒モードに入ったようだ。ゴロゴロと一定の距離で俺の周りを回りながら俺の隙を伺う動きを見せる。
さっきまでへっぴり腰だったのに何故か俺は今、感情の怒りはあるが頭は冷静だった。
俺は首と目線だけでその動きを捉えていた。無駄な動きは隙を作るだけだ。
ヤツが一周するごとにアスカが目線に入るが、アスカは笑い転げるのを止め、ほぉという表情をしているようにも見えた。
ちょっとは見直してくれたのかもしれない。
そんな事を考えているとそれが隙に見えたのか、水珠が俺の横側からバシュン! と液体を放った。
ソレは意外と速く、その液体を脇腹にくらってしまった。
「ひゃっ!? 冷たっ!!! 何だこれ!?」
その後もヤツは氷水のような水鉄砲を四方八方から立て続けに打ち込んできた。
俺は全身冷水まみれで、ぷるぷる震えていた。
「さ、さ、さ、さぶっ! さぶさぶさぶっ!」
あまりの寒さに俺が必死に腕を摩りながら内股で足踏みをしていると、後ろからヤツが急接近する気配が何となく分かった。
アスカが危ないという表情をするのも見てとれた。かかった!
「分かってんだよ! おらぁっっっっっ!!!」
俺は水珠が俺の背中に激突するタイミングを測り転回し、水珠を両手でがっちり掴むと間髪入れずに膝をソレに全力で叩き込んだ!
水珠はまるで水風船が破裂するように、派手に周りに水しぶきを撒き散らして霧散した! 終了だ……。
俺はいつの間にかずり落ちたバスタオルを冷静に拾って濡れた体を拭いた。
するとアスカが小さな手で嬉しそうに拍手をしながら近づいてきた。
「変態! 見事じゃ! まさかこれ程できるとは予想外なのだ! 低級の魔物とはいえもうちょっと苦戦すると思っていたわ!」
「俺も何でこんなに体が勝手に動いたのか意味が分からん……」
パーツとパーツがガッチリとハマった時の感覚というか……今まで生きてきて感じたことの無い感覚だった。
ふと水珠が破裂した場所に目を向けると、水浸しの中に何か光るものが見えた。
近寄って見ると、ビー玉くらいの丸くて小さい石の様なものが落ちていた。
しゃがみこんで恐る恐る手に取りよく見ると、青みを帯びながら光っていて、不思議な感じのする石だった。
「それは魔石なのだ。見るのは初めてか?」
その時突然後ろから覗き込むようにアスカに話し掛けられた。
まるでシルクのような銀髪が俺の首筋にかかってゾクッと身体が震えた。
ちらと横を見るとアスカの端正な横顔が間近にあって一瞬ドクッと心臓が跳ねる。
この時ライラックの甘く優しい香りが鼻先をかすめたのは気のせいか……。
「あっ、あぁ、こ、これってもしかして、水珠の!?」
俺は何故か緊張して声が震えてしまった。俺の顔赤くないといいが……。
「そうじゃ、魔物の核のようなものだ。町で売る事も可能だぞ?」
アスカは特に気にした様子も無く魔石を俺の手から摘まみ上げ、クリクリの黒い瞳で眺めるとそう言った。
どうやら不自然とは思わなかったようだ。俺はホッとした。何だこの気持ち……。
そんな時だ。
「お主……感じたんではないか?」
アスカは顔を近付けるといつになく真剣な表情で、俺をじっと見つめそう聞いてきた。
「へ!? な、な、な、何を!?」
俺の心臓は爆発寸前まで一気に跳ね上がった。
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