第18話 「もしもここで奴を仕留められなかったら、さらに大変な事態になるわ!」

 栃木県栃木市は、北関東の足尾山地の山裾にひろがる街で、市街のすぐ西側には標高341メートルの太平山が控え、北側は足尾山塊から日光連山、さらに那須連峰が霞んで市街のバックに並んでいる。

 ただし、市街の東側と南側は関東平野の穀倉地帯である。…いわゆる典型的な地方都市と言った感じの街並みが駅前から広がっていた。


 僕たちは例によって間森自衛官の運転する SUV車に乗って、街の目抜通りを進んで行く。

 ここ栃木市は「蔵の町」として観光人気も高いらしい。

 目抜通りには電柱が無く、沿道には大谷石の蔵造りらしい建物や商店が並んでいる。

 スッキリした昭和レトロな街並みだ。

「ところでこのメンバーが揃ったということは、当然この後 "地底雷獣 FC" 対策の話をしようってことですよね?…でも何故間森さんは今日私服なんですか?」

 僕は車中で3人に質問をぶつけた。

「だって、先生や私たちが防衛省自衛隊に協力してるのって、極秘事項じゃん ! …間森さんはおおっぴらに自衛官の格好で私たち普通の民間人と作戦会議は出来ないよ」

 甲斐路がシレッと答えた。

「それに…」

 ハンドルを握る間森さんが言った。

「えっ !? …それに、何ですか?」

 僕が聞き返すと、間森さんは表情を全く崩さず冷静に応えた。

「自衛隊服で綺麗な女性お二人と街中で会うのは目立ち過ぎます ! 」

 それを聞いたとたん、何故か掛賀先生がポッと顔を赤らめて呟く。

「やだ~… ! 」

 その様子を見た僕は何だかあっけにとられてしまった。…何この展開 !?

「間森さんは、独身なんですか?…好きな人、彼女さんとかはいるんですか?」

 甲斐路がここぞとばかりに鋭く質問する。

「はい、私は独身です、交際相手も今は全く…おりません」

「あら~、間森さんカッコいいのにな~… ! 」

 間森自衛官の答えに、甲斐路が残念そうな嬉しそうな声を返した。…何この展開 !?


 という訳で、対 "地底雷獣" 作戦のために ! という緊迫した目的で再び集結したはずの4人だけど、何だか車内は僕だけモヤンとした空気となりつつ、車は目抜通りから左折して県道32号線を北西方面へ向かう。

 …栃木インターのある東北道の下を通って市街を外れると、景色は田園となって山が前方に迫って来た。


「ところで、"地底雷獣" 対策のために僕たちが集まったにしても、何で今日はこんなのどかな山里に向かってるの?…さすがに奴だってこんな所に現れ…って、えっ !? まさか !! 」

 僕が3人に訊こうとして一瞬戸惑いを感じてると、甲斐路がニヤリと笑みを浮かべて答えた。

「さすがマイ助手 ! …乙ちゃん、鋭いね!今日は "最後の戦場" の視察に来たんだよ」

「最後の戦場?…奴がここに現れて、自衛隊と交戦するってこと?…よく分からないんだけど」

 …何だか僕だけがメンバー内で一人理解の外にいるみたいで面白くない。


 国道293号線とクロスする尻内交差点を過ぎると、県道のすぐ脇を流れる永野川の渓流を中心に、両側から山並みが迫って来て、もう全くの田舎風景になった。

 …間森さんは県道から右折して、そんな山里の渓流脇の星野河川公園の駐車場に車を停めた。

 みんなで車を降りると、いきなりの暑さと蝉の声、渓流の瀬音に包まれる。

 緑の山の上は青い空、そしてモクモクと重なる入道雲…正しい真夏の田舎風景である。


「この辺かしらね…?」

 掛賀先生が周りの景色を見ながら言った。

「この辺、って… "地底雷獣" が次に現れるのがこの辺ってことですか?…えっ !? どうしてそんなことが分かるんですか?」

 たまらずに僕は叫ぶような声で質問した。

「鋭くないなぁ、乙ちゃん ! …ここがどういうエリアか、天気予報とか見てて分からない?」

 甲斐路が山の景色を指しながら言った。…さらに掛賀先生が続ける。

「午後は大気が不安定な状態となり、関東北部山沿いでは雷雨に注意が必要です ! って、お決まりのフレーズなんだけどね!」

「あっ !! 」

 僕はようやくその意味が分かって思わず声を上げてしまった。

「奴は、三ヶ尾変電所に出現直後にミサイル攻撃を受け、雷撃弾を乱射してすぐに地中に姿を消しているのよ ! …つまり充分に電力を補給出来なかった上に、逆にエネルギーを放出している ! …早く次の、電力補給出来る餌場を求めて移動してるはず ! …でも、変電所を襲えば直ちに攻撃を受けることも学習したから、…となると、次はここ連日雷雲の発生している関東北部山沿いエリアに必ずやって来るわ!」

 甲斐路がキッパリと僕に言った。

「…なるほど、ここで落雷のエネルギーを直接吸収するつもりか!」

 僕は甲斐路の顔と、バックの山々を見て頷く。

「だけど、北部山沿いって言ったって漠然と広いエリアだろ?…何故この栃木市に来るって分かる訳?」

「三ヶ尾変電所の野田市から見て、北部山沿い都市の中ではこの栃木市が直線距離で最短の位置にあるからよ ! …奴は必ずここに来る!ここで絶対に決着をつけないと !! …もしもここで奴を仕留められなかったら、さらに大変な事態になるわ!」

 甲斐路がマジにキッ! とした顔で言った。

「えっ !? …さらに大変な事態って?」


 僕は背中に薄ら寒い恐ろしさを感じながら、甲斐路の顔を見つめていた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る