第54話 そして未来に(1)


 航宙軍開発衛星の開発センターの奥まったところにあるシークレットスポットで謎の物体からの意志を読み込む為のチップの開発は、結局失敗に終わった。


 開発センター長のホーランド大佐は、一抹の疑問を持ちながらも何度改良と試験を行ってもシステムが暴走状態に入る原因が分からなかった。


 二週間続いた開発も結果的に成功までたどり着かない原因を解明できないままに終了した。



僕達は、第二軍事衛星アルテミスに戻るシャトルの中で

「うまくいかなかったね」

「仕方ないよ。あのシステム、僕たちの思考まで取ろうとするんだもの」

「でも、本当は謎の物体の思考だけがほしかったんでしょう」

「うん、たぶん切り分けができなかったんじゃないかな」


「でもミコト、システムをいつも暴走状態に持って行くでしょう。私は、ミコトの意識を入れてしまっているから気付かなかったけど」

「うん、僕たちことあまり知られたくないし」

「仕方ないね」


 シャトルが、第二軍事衛星アルテミス静止軌道上に乗るため、少し高い軌道から逆噴射しながら高度を少しずつ落としていた。


「ミコト、彼らはなんて言っていたの」


少し間をおくと


「仲間とか助けてくれとか。あと他に言っていたけどよくわからなかった。今度の調査の時、こちらから問いかけてみようか」

「そんなことしたら・・・結果が怖い」

「カレンがいやならやめるよ」


二人はシャトルのコンパートメントで話していると

「シャトルA32便はもうすぐアルテミスに到着します。搭乗の皆様は席にお戻りになりシートホールドをお願いします」

艦内アナウンスが流れると二人はシートに体をホールドした。


 二人がアルテミスに戻ってから三日後、ランクルトのお母さんから連絡が入った。3Dに映る両親の姿に久々の感傷を覚えながら


「お母さん、連絡してくるなんて珍しいね。何か有ったの」


二人の顔をカノン青山、二人の母親はじっと見ると


「ミコト、カレン、よく聞きなさい。あなた達が今接している生命体を大切にしなさい。決して敵対せずに。詳しいことは、今度会う時に話します。それと・・」


カノンは、自分の体に感じた事を素直に話した。


「いけないとは言いません。私たちはそうして生きてきました。種を守るためです。他の種族との交わりは、私たちの能力を衰えさせるものです」


二人を見ながら少し間を置くと


「カレン、ミコト。二人だけを守りなさい」

カレンもミコトも言っている意味が理解できなかった。


「お母さん、どういう意味なのですか」

「カレン、ミコト、今度会う時にもっと詳しく話します。今度ランクルトに戻る日はないの」


「今度の調査までには、まだ二カ月あるから帰ろうと思えば帰れるけど……軍機なのであまり詳しく言えないけど、新しい航宙機の同期テストをしなくてはいけないから。できればその後がいい」


「どのくらい後になるの」

「たぶん、四か月位」


カノンは、黙ると

「わかったわ。ミコト、カノンを守って」

「分かっています」

そう言うと3Dの映像が消えた。


「お母さんの言ったこと理解できた」

「よくわからない。種を守るためとか、他の種族との交わりはだめとか。どういう意味なんだろう」


二人が、会話を始めたころ、軍事基地内の通信設備のある一室の奥まったところで


「ホーランド大佐。通信が戻りました」


 今から三〇分前、ランクルトから二人の部屋に連絡が入ったとたん、二人の部屋に仕掛けてある盗聴器がノイズだけになった。


 いくら波長調整をしても入らず、システム的な故障もないままにノイズだけが入っていた。それが突然戻ったのだ。


「ホーランド大佐。二人の会話に理解できない言葉があります」


 ホーランドは、聞こえるようになった二人の言葉を聞きながらどういう意味だそう思うと腕を組んで考え始めた。


 フレイシア星系の外縁部、カイパーベルト付近で先の謎の物体との戦闘で失った無人機アトラスⅣ型改三五機の補充を済ませたアテナ大隊は、新型機のシンクロ調整の為、テスト飛行をしていた。


「ミコト、デルタフォーメーション」


 全九六機が二組僕達達が率いる四八機とカレン二世、ミコト二世率いる四八機が二つの大きなデルタフォーメーションを取ると小さな岩や大きな岩が点在する岩礁帯に突っ込んでいった。


 航宙母艦ラインのスコープビジョンでその訓練風景を見ているA3G航宙戦闘機部隊長アッテンボロー大佐と第二艦隊旗艦アルテミッツのスコープビジョンに映るアテナ大隊の訓練風景を見ている第二艦隊航宙戦闘機部隊長高橋准将は、同じ考えを抱いていた。


「いつもながらすごい。同じ人間とは思えない。無人機アトラスの動きは理解できるがそれを率いる二人のアトラスⅣ型もとても人間が乗機しているとは思えない。

なぜあんな急激な動きに体が耐えられるんだ。いくらパイロットスーツがスペシャルとは言え」


「私の部下にアトラスⅣ型に乗せてもあそこまでの動きは出来ていない。シンクロできるパイロットたちは、何万といるフレイシア星系航宙軍の中でも選りすぐりのトップパイロットだ。その彼らが足元にも及ばない操機を行っている」


 アッテンボローは自分の考え、無人機アトラスによる独立編成部隊アテナを創設した事は間違いがないと感じているが、あまりにも他の隊との差に困惑していた。


「ミコト、シンクロ」


 それだけ言うと岩礁帯から急上昇した二組の四八機がそれぞれ三機で一つの編成を組むと五千キロほど上昇したのち、前面急旋回を行った。


 そして右舷二時方向有る模擬航宙戦艦に狙いを付けると四万キロ手前から荷電粒子砲を発射した。二つの大きなトルネードのようになった収束型荷電粒子が四万キロ先の模擬航宙戦艦突き刺さった。


 側面のシールドにぶつかった荷電粒子はまばゆい光を放ちながら一瞬だけ止まったように見えたが、やがてシールドを破り艦の側面装甲にぶつかった。


 じりじり溶かしながら装甲を破ると一気に内部に突き抜けた。そしてその勢いのまま反対側の艦の内側に衝突すると内部から外に突き抜けた。


 艦の側面に大穴が開いた時、既にアテナ大隊は二射目を三万キロ手前で放っていた。今度は、距離に応じて変わる荷電粒子の束は、拡散型となり、二隻の模擬航宙戦艦の側面にぶつかった。


 艦の側面を大きく包むように荷電粒子が衝突すると既にシールドは破壊されているので装甲に直接そして激しくぶつかった。シールドによるエネルギー減衰がない分だけ強烈な光が輝いた。


 すでに穴をあけられているとはいえ、形を留めていたはずの模擬航宙戦艦の中央部が完全に消滅した。後には、前部と後部が残った艦の残骸が二隻分有るのみだった。


「アッテンボロー大佐、シンクロテスト終了です。不良箇所は修正されています」


 何回かのシンクロテストで見つかった不良個所が全て改善されているのが分かるとカレンはアッテンボローに報告した。


 アッテンボローはスコープビジョンに映る映像に驚きを覚えながらも連絡が入ると

「御苦労。アマルテアに帰還しろ」

「了解」


『アテナ大隊全機帰還』

言葉ではなく思考で伝えると二組の四八機がデルタフォーメーションに戻り、A3G方向に戻り始めた。


―――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。

宜しくお願いします。

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