第46話 ランドスケープ(4)
「どうした」
「左舷九時方向より、飛行物体接近。高速です」
「敵味方識別は」
「認識できません」
ここはフレイシア星系の宙域内だぞ。そう思いながら次の報告を待った。
「近づく物体はアトラスです。先頭の二機は新型。後続の四六機は、Ⅳ型改です」
「訓練宙域に近付かない様、忠告しろ」
「反応有りません」
「どこから来たんだ」
既に一〇万キロを切っている。
「敵味方識別無し。アトラス新型とⅣ型改。まさか」
ヘンダーソンは、ウッドランド大将から伝えられていた件を思い出した。
ヘンダーソン、小郡大佐が良からぬ事を考えている。アテナと新しく開発された自律航宙戦闘機部隊を戦わせろと言ってきた。あの子達から目を話さないでくれ。
その言葉を思い出した。コムを口元にすると
「アッテンボロー大佐、アテナをA3Gの後ろに下がらせろ。左舷からの戦闘機は他の部隊で対応しろ。新しい機体とはいえ、数の勝負だろう。全機撃ち落とせ」
アッテンボローは、一瞬驚いた顔をした後、
「はっ」と言って敬礼をするとすぐに指示を出した。
アッテンボローから僕達に伝えられた命令はすぐに実行に移された。アテナがA3G部隊の後ろに動くと九時方向からのアトラス二個中隊が急上昇した。
「全機、行かせるな」
急上昇した識別不明機に八〇〇機以上のアトラスⅢ型が覆いかぶさるようにするとまるで相手の機の動きが解るようにすり抜けていった。攻撃をする時間が無かった。
Ⅲ型より二〇パーセントも出力が大きいⅣ型は、最高速を出すと至近ではⅢ型に捉えることが出来ない。
「早い」
「そんなバカな」
腕利きのパイロット達が何も出来ないままに四八機がすり抜けるとA3Gを大きく迂回して後ろに回って来た。
「ミコト」
「うん」
既にヘッドディスプレイに映る認識不明機にアテナはすぐに反応した。
『ジュン、サリー』
二人は意識の中で呼ぶと二編隊二四機ずつが急上昇した。双方が全く同じ隊形で突っ込んでいく。
一瞬のすれ違いの後、双方一機ずつが被害を受けていた。大きく展開しながら再度、交戦する。
『ミコト』
意識の中で感じながらすぐに機体を上に反転させるとまだ、展開が終わっていない認識不明アトラス群の最後尾に向けて既に向きを変えた二四機のみで四八本の荷電粒子を発射した。
後続にいた六機が一瞬にして消滅する。そのまま後ろを取るように近付いてアテナが撃つ瞬間、人間では出来ないほどの急旋回で、向きをアテナ方向に変えると残り四一機が荷電粒子砲を発射した。
僕達と後続するアトラスが急速に下方にのがれたが、最後尾の四機がやられた。
そのまま前面展開しながら向きを遷移すると識別不明機群がちょうど底部を見せて展開に映るところだった。
アテナの四三機が底部にある制御スラスタを吹かせながら姿勢を維持し、一斉に荷電粒子砲を発射すると狙いたがわず、半数のアトラスが一瞬にして荷電粒子の餌食になった。
「すごい。信じられない。アトラスの本当の能力はこれなのか」
アッテンボロー自身アトラスⅢ型に乗るとはいえ、こんな動きをしたら体がボロボロになっている。それ以前にこんな動きが出来ない。
誰もが各艦の各部のスクリーンで高速で動きまわりながら交戦するアトラスを見ていた。
『ミコト』
思うとすぐに左前方に行こうとすると認識不明機群の先頭にいる一機が同じ動きをした。
『カレン、間違いない』
『ミコトも分かる』
『じゃあ、あれで行く』
カレンがミコトに意識をゆだねた。
一瞬にして二人の機が背中合わせなるとミコトは底部前後に着く制御スラスタを全開しながらし背を変化させ、認識不明機先頭の一機を視認すると一挙にその隣を駆け抜けた。
二人が飛び去った後には、コンパートメントだけが残った機体があった。僕達が背面接近しながらアトラスⅤ型の前方と後方を削り取ったのだ。
すぐに二人が離れると二人の居た場所に荷電粒子が突き抜けた。二人はお互いが前面展開すると認識不明機のもう一機のアトラスを視線に収めた。
瞬時に今度は、背面展開しながら離れる。もう一機も同様な姿になっていた。コンパートメントしかない。
この二機が機能しなくなった途端、他の認識不明機群が推進を止めた。
『ミコト』
そう意識すると心の中でにこっと笑った。
「ヘンダーソン総司令官、カイパーベルトの外に航宙母艦アマルテアを発見。岩礁に隠れていたとの思われます」
「なに」
ヘンダーソンはすぐに
「A2G司令キャンベル少将、すぐにカイパーベルトの外にいるアマルテアを捕獲しろ。撃沈するなよ」
「はっ」
「くそ、発見されたか。逃げるぞ」
アルテミス級航宙母艦は、前部に口径一〇メートルの荷電粒子砲を四門持っている。重巡航艦以上の破壊力だ。近づくA2Gに対して二度斉射すると一挙に向きを変えた。
「逃がすな」
航宙母艦の装甲は厚く防御シールドも強力だ。航宙駆逐艦のレールキャノン程度では、破れもしない。
「近距離ミサイル発射」
A2Gがミサイルを打ち出すと同時にアマルテアはアンチミサイルを射出した。それでも数の勝負だった。航宙母艦一隻当たりのアンチミサイル一二門に対して飛んできた近距離ミサイルは先行する航宙駆逐艦六隻から放たれた三六本だ。
更にアンチミサイルをくぐりぬけたミサイルに、今度は防御用のパルスレーザー砲一〇門が火を噴く。
それでも一四本の近距離ミサイルが後部シールドや側面シールドに当ると眩い光と共に消えた。
一度では破れないシールドも二度目のミサイルは突き抜けた。側面装甲に当ると装甲を削り取るように破壊する。
やがて、重巡航艦から放たれた荷電粒子が後部シールドに当ると徐々にシールドを壊しながら推進装置にぶつかった。
航宙巡航戦艦や航宙戦艦の主砲では、航宙母艦を完全に破壊してしまう為、荷電粒子砲は撃てない。
後部推進装置に何発かの荷電粒子を食らったアマルテアは、やがて徐々に航宙速度を落とした。
「アシュレイ少将、陸戦隊を送り込んで制圧してくれ」
「はっ」
と言うと厳しい顔つきの陸戦隊長が3Dから消えた。
「ウッドランド提督、にわかに信じがたいが。あのマクガイヤーが」
「マクリーン代表、アマルテアで拘束した航宙機開発センター長の小郡大佐と衛生担当官久山中尉の自白によるものです。本人に問いただすしかないでしょう」
苦み虫をつぶしたような顔をしながら評議会代表ヤン・マクリーンは、スクリーンパネルにタッチした。
航宙機開発センター程では、ないにしろ必要な設備が整っているアルテミスの軍事基地内の整備室で捕獲されたコンパートメントに装着されていた青白い電子クローンを見ていた。
『ミコト、これってそうだよね』
『うん、間違いない』
『しかし、すごいね。僕たちの会話も聞こえているのかな』
『まさか』
僕達は小郡と久山の自白で僕達のデータを取り電子クローン化している事が分かった。
「カレン大尉、ミコト大尉。わざわざ呼び出して申し訳ない。実は二人に協力してもらいたい事が有る」
そう言って技術主任が微笑むと青白く光る電子クローンを見た。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。
宜しくお願いします。
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